第195話 遊び終わった後の小休憩

 

 それから二時間程、休憩所でまったりとテチさんと雑談をして過ごしていると、たっぷり遊んで満足したのか、その毛を汗でぐっしょりと濡らしたコン君達がやってくる。


 湖で泳いだ時のように全身ぐっしょりで、でもその顔は晴れやかで……なんとも満足そうな表情をこちらに向けてくるコン君とさよりちゃんを見てテチさんは、無言で立ち上がり……持ってきたカバンからエプロンを取り出して着用し、恐らくはタオルやら着替えが入っているそのカバンを背負い直し、そうしてからコン君とさよりちゃんを休憩所の奥にあるコインシャワーへと、


「ほらほら、シャワーで汗を流すぞ」


 と、そんなことを言いながら、両手で背を押すというか、追い立てるようにして誘導していく。


 コン君もさよりちゃんも、汗を流す必要があることはよく理解しているようで素直に従い、二つの個室が並ぶコインシャワーの中へと、ささっと二人別々に同時に入り……テチさんはその両方に交互に入ったり出たりを繰り返し、二人の世話をこなしていく。


 そうして個室の中からシャワーの音がしなくなったなら、少しの間を置いてからドライヤーを使っているような音がしてきて……そのまま個室の中で、毛の乾燥から、ブラッシングなどの手入れ、着替えまでの作業が行われているようだ。


 それから10分くらいの時間が経って、コン君達が個室から出てきて……ツヤツヤ毛艶のホクホク顔で、ちょこんちょこんと休憩所のベンチへと腰掛ける。


「にーちゃん、腹減った!」


「すいません、お腹空いちゃいました……」


 腰掛けるなりコン君とさよりちゃんはそんなことを言ってきて……スマホの時計を確認した俺は、確かにそろそろ良い時間だなぁとそんなことを考えながら言葉を返す。


「んー……簡単な軽食くらいなら作ってきたんだけど、あれだけ遊び回った二人のお腹を満たす程の量じゃないからなぁ。

 どこかに行って食事をするか……食材を買ってどこかで何かを作るか、あるいはホテルに戻るというのもありかな、そろそろ部屋の清掃も終わっている頃だろうし……」


 と、俺がそんなことを言った瞬間、コン君とさよりちゃんが物凄い勢いで瞳を煌めかせてきて……片付けを終えてこちらに戻ってきたテチさんも、二人と同じようにその目を輝かせる。


「えぇっと、本当に軽食だからね?

 っていうか皆見ていたよね? 俺が作っているとこ……ただのサンドイッチだから、うん、あまり期待しないでね」


 そう言って俺はリュックの中から折り畳み式のサンドイッチボックスを取り出し、テーブルの上に置いてのお披露目を行う。


「イチゴジャムは当然市販のもので、野菜とかハムとかはすごく上等なものを使えたんだけど、それでも以前適当に作ったのよりも、遥かに簡単なものになるし……内容もオーソドックスなもの。

 ジャムサンドに、レタスとキュウリとハムのサンドに、たまごサンド、それと美味しそうなソーセージがあったから作った、炒めた上で半分にカットしたソーセージとレタスとタマネギ、たっぷりケチャップとマスタードのホットドック風ホットサンド、だけだからね?」


 サンドイッチボックスの蓋をあけて、ラップに包まれたそれらの紹介をしていくと、獣人三人が同時にじゅるりと、口の中で音を鳴らす。


「ところで! 実椋、私の記憶では確か冷凍イチゴをフライパンで炒めるという、おかしなことをしていたが……あれは何だ? 何かデザートでも作っていたのか?」


 口の中で鳴った音を誤魔化すかのように、テチさんがそう声を上げて、俺はジャムサンドを指で指し示しながら言葉を返す。


「あれはここに入っているよ。

 市販のジャムだとどうしても風味とか果肉感がないからさ、冷凍の安いイチゴを軽くいためて、ジャムの中に具として混ぜ込んだんだ。

 これで多少の風味と果肉が追加されて……まぁまぁ美味しくはなかったかな。

 家に戻ればいくらでも作り置きがあるんだけど、流石にホテルへの旅行でジャムを持ってくるって発想は無かったからなぁ」


 正直に言えばこれは小手先でごまかしたようなもので、しっかりと作ったジャムには全然敵わない味だ。

 だけどもしっかりと風味や食感が足されているのは確かで……サンドイッチそのものを手作りしたのもあって、中々悪くない味になっている。

 

 最近はコンビニのサンドイッチも美味しくなってきたけども、それでもやっぱり手作りの美味しさには敵わない。

 パンの柔らかさ、野菜の新鮮さ……二時間という時間が経っても、保冷剤でしっかり包み込んでおいたからそれらは失われていないだろう。

 

 バターもしっかりたっぷり使って、塩コショウもしっかり振って、ホットドッグ風はホテルに置いてあったホットサンドメーカーを使ってしっかりと焼き上げてある。


 ジャムが多少アレでも、これだけしたなら満足してもらえるだろうと思って作った品々は……うん、コン君の目がらんらんと輝き、鼻が絶え間なく鳴らされているのを見るに、悪くない出来となってくれたようだ。


 そしてその目は早く食べさせてくれとそう訴えかけてきていて、


「えぇっと、じゃぁうん、早速食べるとしようか」


 その目に押される形で俺がそう声を上げると、すかさず三人の手が伸びてきて、それぞれ目をつけていたらしいサンドイッチを手に取る。


 コン君はレタスとキュウリとハムのサンド。

 さよりちゃんはジャムサンド。

 テチさんはホットドッグ風ホットサンド。


 それぞれ手に取ったなら、大事そうに両手で持って……パクパクパクっとリスらしい小刻みな、素早い口の動きでサンドイッチを食べていく。


 コン君とさよりちゃんはたっぷりと遊び回って、テチさんはその世話をしたばかりで、疲れていてお腹も減っていて……その手と口の動きは止まることがない。


 その勢いは本当に凄まじく、慌てて手を伸ばさなければ俺の分までが食べられてしまいそうで……出来上がりが気になっていたジャムサンドをまず確保した俺は、それをパクパクっと食べ……思っていた以上に美味しくなっていたことに満足してから、ホットドッグ風へと手を伸ばす。


 そうして食べたホットドッグ風はホットサンドメーカーが良い仕事をしてくれたのか、程よい硬さと香ばしさと、熱したことによる濃い味を持つ良いホットサンドになっていて……うん、一緒に熱いコーヒーを飲みたくなる味だ。


 ホットサンドメーカーは今まで手を出したことはなかったんだけど、これだけ美味しくなってくれるなら購入を考えちゃうよなぁ。


 なんて事を考えていると、コン君もテチさんもさよりちゃんも、似たような事を考えているような表情をこちらに向けていて……そうして俺は帰宅後に、ホットサンドメーカーの注文をすることを決意するのだった。

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