第191話 アヒージョ
アヒージョがどんな料理かを簡単に説明すると、ニンニク入りの油煮だ。
スキレットと呼ばれる鉄の鍋にたっぷりとオリーブ油を入れて、ニンニクを入れてお好みで唐辛子を入れてじっくり煮込んで……ニンニクと唐辛子の香りが味が油に染み出たなら、具材をいれて塩で味を整え、更にじっくり煮込む。
そうすることによってオリーブ油の旨味とそこに染み込んだ味が具材にこってりと移り、それがたまらなく美味しく、油っこいはずなのにするすると食べることが出来る料理となる。
そのまま食べても美味しいし、パンを浸しても美味しいし、チーズを上からかけてしまうという暴挙に出ても美味しいし……具材もだいたい何を入れても美味しいし。
スキレットがない場合は普通のお鍋で煮込んだ後にお皿に盛るとか、耐熱皿に入れてオーブンで熱するとか……たこ焼き器を使って何種類もの具材を同時に煮込んで、オードブル気分というか、ちょっとしたパーティ気分で楽しむことも出来る。
「という訳で、早速アヒージョを作っていこう。
流石というかなんというか、手入れ済みのスキレットもしっかりと調理器具として用意してあったから、それを使って……この最新のシステムキッチンコンロを使って……。
……うん、このコンロ、うちとは比べ物にならないほどの立派なものだから、すぐに出来るはずだよ」
なんてことを言いながらまずはスキレットをコンロに置く。
そうしたならスキレットに、オリーブ油を流し込み……薄切りにしたニンニクだけを入れて、今回は子供も居るし唐辛子は無しにする。
入れ終わったならそれぞれのコンロを点火して、弱火に調整してじっくり油を熱していって……その間に食材の下処理を進めていく。
エビは皮を剥いて背わたを取って、カニも殻を剥いてカニ味噌をスプーンですくい上げておいて……ホタテはただ貝から切り離し、タコは塩もみ洗いをした後に一口サイズに切り分けていく。
生バジルを切り分け、ミニトマトを洗い、ブロッコリーは切り分けた上で軽く茹で、マッシュルームはそのまま使うので下処理はなし。
オリーブ油が良い感じに熱せられたなら、それぞれの調理開始……まずはタコからやっていくとしよう。
と、言ってもやることは簡単、タコ入れてマッシュルーム入れて、塩コショウして生バジル入れて煮込むだけ。
エビとホタテはスキレットに入れる前に塩コショウで揉んで、白ワインを軽く振って、それから鍋に入れて、ミニトマトとブロッコリーも入れてじっくり煮込む。
カニはまず身にうっすらと多すぎない程度に塩を振ってから、スキレットに入れて煮込み……ある程度煮込んだらカニ味噌を入れてまた少し煮込み、コンロの火を止めて少ししてから生卵を一つ落として完成。
後は買っておいたバケットをオーブンで焼いて……焼き上がったのをバスケットに入れて、食事用のテーブルに鍋敷きを置いてその上にスキレットを置いて、その側にバスケットを置いて、飲み物は……大人は白ワイン、子供はミルクを用意したなら配膳は完了。
アヒージョは油を摂取するような料理なので、カロリーはお高めで、それを三種類も用意するのは普通ならしないことだけど……昼間思いっきり遊んだ獣人三人の夕食としては悪くない……はずだ。
実際テチさんもコン君もさよりちゃんも、良い香りがするのか待ちきれないのか、配膳が始まった段階で席についていて……コン君とさよりちゃんに至っては、両手に構えたスプーンとフォークの準備は万端、胸元にはナプキンをかけていて、ちょっとしたレストラン気分で背筋を伸ばしての良い顔をしちゃっている。
そして三人はまだ席についていない俺へと、早く席につけとの視線を送ってきて、それに頷いた俺は席につき、手を合わせて「いただきます!」と声を上げる。
すると三人も「いただきます!」と声を上げ、早速とばかりにテーブルに並ぶスキレットへとスプーンを伸ばし……自分達の手元にある小皿へと、食べたいものを取り分けていく。
テチさんはタコ、コン君はエビ、さよりちゃんはホタテとミニトマトを取り分けて……俺は程々に火が通った生卵を崩した上でカニ味噌漬けとなったカニの身を取り分ける。
そうしたなら皆一緒に取り分けたものを口の中に運び……瞬間俺の口の中に、思わず唸るほどの濃厚な旨味が広がる。
そもそもカニはその身だけで美味しいものだ。
それをニンニク入りのオリーブ油で煮込んで、カニ味噌まで加えて、トドメの生卵。
美味くない訳がない、咀嚼するのがとまらない、次から次へと食べたくなる。
熱さが残っていることに構わずバケットを掴んで、スキレットの中に入れたなら、これがまた抜群に美味くて、濃厚過ぎる味のせいで二度三度と続けて食べてしまうと飽きが来そうだけども、今日は三種類もの味を用意しているので、その心配は一切なく、スプーンを動かす手が止まらない。
タコとマッシュルームとバジルの組み合わせも最高で、タコは噛めば噛むほど旨味を出してくれて、マッシュルームとバジルの香りがまたいい具合にマッチしていて、それらを噛んだら噛んだでまた別種の風味や旨味を楽しむことが出来る。
エビとホタテも上手くいってくれた、それぞれの旨味が良い具合に合わさっていて、ミニトマトの酸味も良い仕事をしてくれていて、ブロッコリーも崩れることなく形を保っていて……噛めば噛むほど吸い込んだオリーブ油が出てきてたまらない。
当然のように白ワインに合うものだから、普段はお酒を飲まない俺でもついつい飲んでしまうし……バケットも次から次へと皆の胃袋へと消えていってしまう。
5本も焼いてしまって多すぎるかなとも思っていたのだけど……うん、ちょうど良かったというか、ちょっとだけ足りなかったかな? くらいになりつつある。
とまぁ、そんな感じにアヒージョを食べていって……残り少しとなってきた辺りで、夢中も夢中、全くの無言で食べ続けていたテチさん達がそれぞれに声を上げ始める。
「っはー……油煮込みが美味しいのは知っていたが、海鮮だとまた格別というか、違った美味さがあるなぁ……ニンニクも匂い以外は最高じゃないか」
「オレ! オレ! エビもホタテも嫌いじゃなかったけど、ここまで美味しいものだとはしらなかったよ!」
「……はぁー……美味しかったです」
テチさん、コン君、さよりちゃんの順でそう言って……そうして三人はこちらに視線を向けてきて、三人同時に声を上げる。
「やっぱり実椋の料理じゃないとな」
「やっぱにーちゃんのご飯じゃないとなー」
「もうここがレストランってことで良いんじゃないですか?」
三人同時だというのにはっきりと聞こえてしまったその言葉を受けて俺は……嬉しく思うと同時に、レストランの味は味で楽しみたかったなぁとそんなことを思い、なんとも複雑な気分になってしまうのだった。
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