第186話 獣人的レジャー


 食事はホテルの規模に不釣り合いな程いまいちだった訳けども、レジャー施設の方はホテルの規模に不釣り合いな程に立派なものとなっていた。


 サッカー場や野球場、テニスコートなどの運動場など道路から見えていた施設の他にも、パターゴルフ場、プール、管理釣り堀なんてものまであり……ボルタリングを始めとした屋内施設も充実している。


 そうした施設を並べるとなれば当然、相応の広さが必要な訳で……それはもうとんでもない広さのレジャー施設となっている訳で、施設内の移動にはミニバイクやゴーカートなどを使うのが基本となっていて……俺達はファミリー用のカートを使っての移動をすることになった。


 カートにはカーナビのようなものがついていて、位置情報とリンクする形で各施設の説明や紹介などをしてくれていて……切り替えボタンを押せば設定した目的地までの自動運転までしてくれるらしい。


 そんなカートを運転しながら俺は、こんなに立派なものをホテルの施設内に作る意味はあるのだろうか? とか、ここでスポーツ選手の育成でもしているのだろうか? とか、そんなことを思った訳だけども……そんな疑問の答えは実にシンプルなものだった。


「んー……やっぱりこれくらいは広くないと楽しみ甲斐が無いよな」


「今日は思いっきり暴れるぞー!」


「まずどの施設から遊んでいきますか?」


 テチさん、コン君、さよりちゃんの順番でそんなことを言っていて……つまりはまぁ、身体能力に優れたテチさん達獣人にとっては、これくらいの施設でなければ物足りないということらしい。


 人間基準で多すぎる広すぎると思ってしまう施設も、獣人基準では簡単に遊びきれてしまう『程々』のレベルのものという感じで……よくよく見てみると各施設もそんな獣人を意識した規模となっているようだ。


 プールはとにかく広いし、湖側の屋外ジムに置かれている運動器具の設定……というかおもりの重さがどれもとんでもないことになっているし、ランニング用と思われるトラックはまるで競輪場かのように斜めになっているというか、すり鉢状となっていて……管理スタッフなのかそれとも近隣住民なのか、そんなトラックの中を凄まじい速度で駆け抜けている獣人の姿を見ることが出来る。


「……なるほど、獣人のための運動施設ってこうなるのか……」


 なんてことを呟きながらカートを進めていって……そうしてコン君達が最初に目をつけたのは……ハードな運動施設が並ぶ中、まさかのトランポリンだった。


 子ども用だと思われるオレンジを基調とした配色ながら、大きく広く作られていて……子供達が外に飛び出してしまわないようにと、これまた高く広いネットで覆われていて。


 跳ねながら移動して遊ぶのか通路や坂になっているエリアもあり、大きな壁があってその上の方にバスケットゴールのようなものがあるエリアなんかもあり……飛び込むための場所なのか四角いスポンジが敷き詰められたプールのような場所もあって、大人目線で見ても中々遊べそうな場所となっていた。


 そんなトランポリン施設の入り口側の、駐車場にカートを止めて……入り口となっている小屋に入り、その中にある受付でホテルの部屋のカードキーを読み取ってもらって受付は完了。


 後はもう自由に、好きに遊んでくださいといった感じでこれまたオレンジを基調した色合いの施設のドアが開かれて……その瞬間、もう我慢しきれないといった様子のコン君とさよりちゃんが駆け出し、そのドアの向こうにあるトランポリンへと飛び込んでいく。


 それを追いかける形でドアの向こうへと進んだ俺とテチさんはとりあえずトランポリンへは乗らず、見学用というか見守り用の通路のようになっているスペースへと進み……そうしてコン君達が大型トランポリンで跳ねている様子をゆったりと眺める。


 両手両足を広げながら、お腹から飛び込んで……両手両足をばたつかせながらポンポン跳ねて、跳ねる度に笑い声を上げて……どんどん跳ねる高さを増させていって。


 そうやって最初はただただ跳ねることを楽しんでいたコン君とさよりちゃんだったけども、段々と跳ねることよりも、より高く飛ぶことに目的をシフトさせ始め……腹ばいではそこまで高く飛べないと気付いたのか、トランポリンの上にちょこんと立ち……両足を上手く使って、タイミング良くトランポリンを蹴ることで高く飛べることに気付いたなら……その方法でもって高く飛んで、その落下の勢いを使って更に飛んで……そうして人にはまず無理だろうという高度へと到達し始める。


「……体が小さくて軽いからか、とんでもない高さまで飛ぶね、コン君達」


 首が痛くなる程に視線を上げながら俺がそう言うと、隣で同じような視線となっているテチさんが、首を押さえながら声を返してくる。


「まぁ、子どもならあんなものだろう。

 ……大人が本気でやったならもっと高く飛べるはずだぞ」


「……えぇー……。

 そんなに高く飛んで、その勢いのままに落下しちゃったら、流石のトランポリンと言えど壊れちゃうんじゃない?」


「ここのはそれなりに頑丈に作った特注品らしいが……それでもたまに壊れたとかいうニュースは耳にするな。

 ……まぁ、そういう訳だから今回私は待機組になってる訳だ」


「あ、ああ……本当は跳ねたかったんだね……。

 んー……壊す程じゃなければテチさんも参加してもいいと思うけど……。

 それとも何か他にやりたいことがあるのかな?」


「そりゃぁもちろんあるさ、何しろ今はもう夏……この暑さだ。

 この暑さの中ああやってはしゃげるのは子供だけで、私は涼しく遊びたいからな。

 プールか、湖での遊泳か……折角だからここはあの広い湖で思いっきり泳いでみたいところだな。

 泳いで良いように水質管理などもしているそうだし……きっと気持ちよく楽しめるぞ」


 と、そう言ったテチさんが背負う鞄には事前に用意しておいた水着やらタオルやら着替えやらがしっかりと入っていて……子供達や俺の分も入っていて、何処かのタイミングで行くことになるだろうなーとは思っていたのだけども、どうやらテチさん的には泳ぐことが今日のメインイベントらしい。


 テチさんの水着は見せることを意識したものではなく、泳ぐことを意識した……水泳選手とかが着てそうなものとなっていて、湖で一体どんな泳ぎを見せるつもりなのかは分からないけども『思いっきり泳いでみたい』という言葉から、テチさんの本気具合をうかがうことが出来る。


 獣人の本気の水泳……あれ程の広さのプールを必要とする泳ぎ……。

 目の前でとんでもない跳ね方をしているコン君達を見やりながら俺は、どうやらとんでもないことになりそうだと、背筋を震わせるのだった。

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