第183話 高級レストラン


 ソーセージを食べあげ、それから随分と上等そうな筒に入った茶葉を使ってお茶を淹れて飲んで……そうして一心地ついた俺達は、ホテルのパンフレットをしっかり確認してから、ホテルにどんな施設があるかを見て回った。


 土産物だけでなく食料品に日用品、ブランド物の衣服やら鞄やらまでが並ぶショッピングコーナー……というかほぼショッピングモールや、大浴場とそれに伴うエステやマッサージに、スポーツジムやらゲームコーナーまで。


 レストランも当然のように複数あり、映画館などといったアミューズメント施設もいくつかあって……スポーツ施設までがある。


 ホテルの敷地の外にもいくつかの、そういった施設や観光施設があるようだけども、ホテルの内部だけでもその有様で……ここを遊びつくそうと思ったのなら、一週間では到底時間が足りないだろう。


 そんな中で特にテチさん達が興味を示したのはショッピングモールで……まだ初日だというのに早速あれこれと買い物をしようとしてしまい……買い物は最終日にしようとの注意をすることになった。


 荷物になるものを最終日になるまで部屋に置いておくのも邪魔でしかないし、最終日までいろいろな物に触れることになるんだろうし……味わうことになるのだろうし、あれこれ買うのはそれからでも遅くはないはずだ。


 ただ見るだけならいくらでも良いのだけど、買うのは最終日になってから。


 そんな約束を交わし、そうしてから部屋に戻り……ただホテルの中を見回っただけのはずが、それだけでも結構な時間が経ってしまっていたのだった。


「んー……今日はこの後、何しようかな。

 このままゆっくりしても良いし、何処かに行っても良いし……早めの夕食を食べて大浴場やマッサージでまったりするというのも良いねぇ」


 客室のリビングに置かれたソファに腰かけながら俺がそう言うと……広い部屋の中にいくつもソファが並んでいるのに、テチさんもコン君達も同じソファに集まってきながら声を返してくる。


「私はなんでも良いかな」


「オレもなんでもー!」


「おまかせします」


 テチさん、コン君、さよりちゃんの順番でそう言ってきて……言ってきたかと思えば三人ともソファに体を預けながら脱力し始めて……疲れ切ったという訳でもないのだろうけど、まどろんでいたくなるような心地良い疲労感の中にいるのか、三人ともそれから何も言わずにゆったりとし始める。


「じゃぁまぁ……夕食の時間まではこのままゆっくりしておくとしようか」


 と、俺がそう言うと三人はそれを合図にしたかのように目を閉じて……そうしてテチさんは俺の肩に寄りかかって、コン君とさよりちゃんは仲良く二人並んで……自分の尻尾を抱え込むような形ですやすやと寝息を立て始める。


 その寝息が特に眠くもなかった俺の眠気を煽ってきて……そうして目をつむってしまった俺はそのまま夢の世界へと旅立ってしまうのだった。




「おーきてー! ごはんの時間だよー!」


 そんなコン君の声を受けて、俺は特にそうする理由もないのだけど飛び起きてその勢いでもって立ち上がる。


 そうして窓を見てみると真っ暗で……どうやらかなりの時間、寝てしまっていたようだ。


「うお……今何時……ってもう7時半か!?

 あー……昼寝にしてはがっつり寝ちゃったなぁ。

 えーっと……じゃぁ、あれだ……顔洗ったら皆でレストラン行こうか」


 寝ぼけた頭でどうにか考えて、どうにか声を振り絞ってから顔を撫で回し……そうしてからバスルームへと向かうと、コン君達もそれを追いかけてくる。


 いち早く起きていたらしいテチさんは既に身支度を終えているようで、ホテルのパンフレット片手にどのレストランに行くかの品定めを始めていて……顔を洗うのは俺とコン君達の三人になるようだ。


 まずはコン君のことを洗面台の高さまで抱えてあげて……コン君の洗顔が終わったらさよりちゃんを抱えてあげて。


 そうしてから自分の顔を洗って……鏡をチェックし、着替えたりとかまでは必要なさそうだなと頷いたなら、リビングへと戻っていく。


 するとリビングではパンフレットチェックを片手に持ったテチさんが、どのレストランに行くかを決めていたらしく、その部分のページを開き、こちらに見せつけてくる。


 そのレストランはいわゆる、ホテルの顔とも言える超高級レストランだった。

 天井は嫌になるほど高く、壁はほとんどがガラス張り、立派なグランドピアノが置いてあっての生演奏付き。


 写真で並んでいるメニューはどれも美味しそうで……当然のように値が張っていて、今までの人生で経験した中でもトップレベルなのがまず間違いなく……そんなホテルであれば当然……、


「ど、ドレスコードとかがあるだろうから、今からそこに行くのは難しいんじゃないかなぁ。

 あ、明日か明後日にいくのはどうかな?」


 ドレスコードがある訳で、それを理由にして俺がそんなことを言うと……テチさんはふふんと鼻を鳴らした上で、得意そうな顔をし……これまた得意そうに弾む声を返してくる。


「そこら辺のことは既に確認済みだから安心しろ。

 実椋が寝ている間に電話予約は済ませておいたし、ドレスコードに関しても確認済みで……他に客もいないから気にしなくて良いと言われたんだが、それでも実椋は気にするだろうと思って、そっちの手配もしておいた」


「て、手配?」


 そんなテチさんに俺がそう返した折……客室のドアがこんこんとノックされて、コン君達が「はーい!」と元気な声を上げながらドアの方へと駆けていって……コン君達の返事を受けてか、先程の職員さん……バトラーさんがドアを開けて、キャスター付きハンガーラックとでも言えば良いのか……人数分の服が吊り下げられたそれを部屋の中へと運んでくる。


 それらは明らかにレンタルの服で……それらを着ていれば問題なく高級レストランに入れるだろうという品々で、早速とばかりにそれらを手にとったテチさんとさよりちゃんが、着替えのためか手近な部屋へと移動していく。


 そしてコン君もまたバトラーさんの手を借りながら自分の服をしっかりと持ち……そしてそれを俺の方に、着替えさせてと言わんばかりに差し出してきて……コン君が今までに着たことのないらしい、子供用スーツを俺は無言ながら素直に受け取る。


 寝起きからいきなり高級レストラン行きだなんて、寝起きドッキリにも程があるなぁと、そんなことを考えた俺は……かしこまった場は以前の仕事を思い出してしまうから苦手なのだけども……まぁ、仕方ないかと諦めて、自分の分のスーツを受け取ってからコン君と一緒に……テチさん達とはまた別の部屋へと移動するのだった。

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