第169話 冷凍したアレの出来上がりは……

 

 あれからコン君はご両親に色々と相談したいからと帰っていって、さよりちゃんもコン君が帰るならばと帰っていって、テチさんは仕事に戻り、俺はなんだか凄いことが起きてしまったなぁなんてことを考えながら家事をこなして……そうして翌日。


 朝食を終えて、家事の大体が終わった、いつもより少し遅めの時間にテテテッといつもの足音が聞こえてくる。


「きーたよ……」


 そうしていつもより小さな、元気の無い声で挨拶をしたコン君はいつも通りに洗面所へと駆けていって……手洗いうがいをすませてから居間のいつもの席にちょこんと座り、そうしてから何をする訳でもなく呆然とし始める。


 そのいつもと違う……違いすぎる様子が気になった俺は、大慌てで家事を終わらせ、手洗いをしてエプロンを外し、冷凍庫からあるものを取り出し、器に移したり小さく砕いたりの、簡単な準備をしてから居間へと向かう。


「……さよりちゃんのことかい?」


 居間へと向かい、いつもの席に腰を下ろし、そうしてからコン君にそう声をかけると、コン君は力なくこくりと小さく頷く。


「まー……突然のことで驚いちゃうのも仕方ないかもね。

 その上あんなにも元気でパラフルで……ちょっと気圧されちゃったのかもね」


 更に言葉を続けるとコン君はまたも、無言のまま頷く。


「そしてご両親に相談してみたけども、今ひとつ上手くいかなかったって感じかな?

 お見合いの日まで待ってみろとか、それから判断しろとか、そんなこと言われちゃった?」


 俺がそう言うとコン君は、顔を上げて驚いたというような表情をしながらこくりと頷く。


「まー……うん。

 コン君のご両親の……三昧耶さん達のことだからさ、コン君が嫌がるような変な相手は選ばないはずだよ。

 何よりさよりちゃんはコン君のお友達なんでしょ? 昔から気心の知れている相手っていうのも、悪くないもんだよ」


 またもコン君は頷いて……頷きながらもせっかく上げてくれた顔を力なく下げてしまう。


「……コン君はさ、結婚とかはさておいて、友達としてさよりちゃんのことはどう思うの? 好き? 嫌い?」


 そんなコン君に対して俺がそう言うと、コン君は顔を上げて……それから真剣に、今までの思い出などを思い出しながら悩みに悩んで……そうしてから一言、言葉を返してくる。


「友達としては……好き」


「そっか。友達としては好きだけど結婚とかはよく分からないって感じかな。

 ならまぁ……うん、もっと好きになれるかどうか、更に進んだ仲になれるかどうかは分からないけど、それでもとりあえず、お見合いをしてみたりとか、今まで通りに二人で……あるいは友達と一緒に遊んだりとかしてみたら良いんじゃないかな。

 今は分からなくてもそうしているうちに分かるようになるかもしれないし、良い結果を得られるかもしれないし……悪い結果になるのだとしても、さよりちゃんでは駄目だって、他の相手が良いんだっていう、明確な答えを得た上で次に進む事ができるはずだし……お父さんとお母さんに手伝ってもらいながらお見合いをするっていうのは、全然悪くないことだと思うよ」


 正直な所、獣人の結婚周りの文化には理解しきれない部分もあるけども……ここではそうするのが当たり前で、そうするのが良いとされていて。

 ならばまぁ……そのルールの中でというか、レールから外れることなく最善を選び取っていくのが正解のはずで……変に否定的になって意固地になってしまうよりは、前向きに、前に進もうとしてみるというのも悪くはないはずだ。


 それでどうしてもあの人と結婚は出来ないとか、そういうことになれば、きっとご両親はコン君を助けてくれるはずだし……何よりさよりちゃんは、あくまで現段階では、の話だけども、結婚相手としてそう悪い相手ではないように見える。


 元気で明るくてハキハキとしていて、芯があるというか、しっかりしているというか……コン君のことを支えて、コン君に支えられて、なんだかんだ良い夫婦になりそうだなぁと思える部分がある。


 それでも駄目だったのならその時はご両親はもちろん、俺達でもしっかりとサポートをしてあげて、コン君にとって良い形の新しい道を一緒に探してあげれば良い……はずだ。


 そんな思いを込めての俺の言葉に、コン君はしっかりと力強く頷いてくれて……いつもの元気な笑顔を見せてくれて、それを受けて俺は立ち上がって台所に向かい……テーブルの上に用意しておいた品を居間へと持っていく。


「これ、昨日は食べそこねちゃったからね、今日こそ試食するとしようか。

 さくらんぼの乳酸菌飲料氷漬け……さてさて、どんな感じになっているかな」


 なんてことを言いながら、ガラスの器に移した白色の……サクランボがあちこちに点在している塊をコン君に見せてあげると、コン君は一言、


「忘れてた!」


 と、そう言って耳と尻尾をピンと立てて……わくわく感で一杯といったような笑顔を浮かべて、その目をキラキラと輝かせる。


「本当はもう少し溶かしてからが良いらしいんだけど……まぁ、なんだかんだしているうちに溶けてくるだろうから、早速手を出しちゃうとしようか。

 凍っている状態でもそれはそれで美味しく食べられそうだからね」


 そんなコン君に対しそう声をかけるとコン君は元気に「うん!」との声を上げて……そんなコン君の目の前の、ちゃぶ台の上にガラスの器を置いた俺は、もう一度台所に戻り、今度は小皿と大きめのコップと水差しと、それとアイスピックを持って居間へと戻り……小皿とコップをコン君と俺の席に配り、水がたっぷりと入った水差しをでんと置いてから、アイスピックを構える。


 そうして砕いておいた白色氷をザクザクとアイスピックで突き刺して砕いていって……サクランボが氷の中から発掘できたらそれを小皿に、サクランボから分離して氷だけになったらそれをコップに入れてと、サクランボと乳酸菌飲料を仕分けていく。


「サクランボは見た感じ、水分が抜けたりとかはしてないようだね。

 乳酸菌飲料の方も……うん、ちょっと色がついている部分はあるけど、果汁が滲み出て混ざったりとかはしてないみたいだ。

 時間が経ってもこのままだっていうなら、確かに悪くない保存方法なのかもしれないねぇ」


 なんてことを言いながらどんどんと仕分けていって……そんな作業をじぃっと見つめてうたコン君は、ついに我慢できなくなったのか、氷の中から発掘されたサクランボを一粒だけ摘んで口の中に放り込む。


 そうしてからもぐもぐと口を動かして、ペッと小皿に種を吐き出して……そうしてから満面の笑みとなって一言「美味しい!」との感想を口にしてくれる。


 そんなコン君に続いて俺もサクランボを一粒だけ口の中に入れてみると……うん、確かな歯ごたえと冷たさとサクランボの風味と味が口の中いっぱいに広がる。


 味も風味も全然落ちている感じがしなくて、美味しいままで……凍っているのが溶けてもこのまま、味が落ちてない状態なら、全く文句なしの保存方法と言えそうだ。


 乳酸菌飲料も溶けるのをまって、水割りにしたらちょっとサクランボの風味がついたものとして普通に楽しめそうだし……うん、これはもうちょっと量を増やして、旬が過ぎても楽しめるようにしても良いかもしれないなと、そんなことを思う。


 そうして俺とコン君は、サクランボと白色氷が溶け切るのを待ちながら……一度食べてしまったのが悪かったのか、サクランボが美味しいせいなのか、それからもちょいちょいとつまみ食いをし続けてしまうのだった。

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