第145話 梅肉の活用法


 梅ジャムソースで作ったトンテキは、当然のことなのだけども、すっぱさのある味となる。


 すっぱくて香りが強くて、ほんのり甘くて、旨味がぎゅっと詰まっていて……それでいて肉は柔らかくて。


 下手をするとただのジャムと肉という感じで美味しくなくなってしまうのだけど、しっかり煮詰められればしっかりと味が染み込み、調和し、梅ジャムソーストンテキというしっかりとした料理になってくれて……噛めば噛むその美味しさを味わうことが出来る。


 今回俺が作ったトンテキは、そんな感じになってくれていて……満点とは言えないけども、十分に美味しいと言えて、テチさんは何の文句もなく……すっぱいと言うこともなく、全部のトンテキを食べあげてくれた。


 ジャムそのままではなく色々な味を足しているのですっぱさが和らいでいて、熱したことにより甘みがまして、それによって更にすっぱさが和らいでいて、その上豚肉がしっかりとその味と旨味を主張してくれる良い肉だったということもあってのことだろう。


 とにもかくにもその日の夕食は、そうして大成功に終わって……翌日。


 いつも通りに朝食を終えて、テチさんを送り出して、掃除などの家事をこなしていると……コン君と思われる足音がテテテっと道の向こうからこちらへと響いてきて、縁側にちょこんとコン君がその顔を見せてくれる。


「きーたよ!」


 そうしていつもの一声を上げたなら、洗面所にいって手洗いうがいを済ませて、俺の家事を手伝ってくれて……クイックなウェットシートモップで一生懸命に床を拭きながらこちらに声をかけてくる。


「にーちゃん、にーちゃん、昨日のトンテキ、すっげーうまかった! 

 とーちゃんもかーちゃんも大喜びで……特にかーちゃんが美味しい美味しい言ってた!

 すっぱいの好きみたいで、自分でも梅ジャム作るってさー!

 あ、それと、美味しいごちそうをありがとうございます! って言ってこいってとーちゃんとかーちゃんが言ってたよ!」


「そんなに喜んでもらえたなら良かったよ。

 梅は昔から和菓子に和食に使われてきたからね、そういう意味でもコン君のお母さんの好みにあったのかもね」


 廊下のガラス窓を拭きながら俺がそう返すと、コン君は廊下を駆けて駆けて、右へ左へと拭き掃除をしながら更に言葉を返してくる。


「うちでは梅干しを料理に使うとかはあんまやってなかったんだけど、そういうのもこれからはやっていくっていってたよ!

 ……なんだっけ、梅肉だっけ? それのとか!」


「梅肉、梅干しの種を取って包丁とかで刻んだものだね。

 そのままでもご飯に和えても、サラダに和えても良いし、パスタやフライ、天ぷらなんかにも良いし……ちなみにチーズと梅肉も、他の具材次第ではあるけど、中々罪な味になってくれるんだよ。

 たとえば……そうだな、鳥のささみ肉に、梅肉と大葉を刻んだものを乗せて、チーズをたっぷり乗せて、フライパンでじっくり蒸し焼きにする、とかね。

 シンプルな味のささみ肉が贅沢で……贅沢な分カロリーいっぱいな、欲望の味に変化してくれて……これがまた、くせになるくらいに美味しいんだよねぇ」


「梅肉とチーズ!!

 そんなのずるいじゃん!!」


「梅肉とチーズと大葉をお肉で挟んで揚げてのはさみ揚げとか。

 魚のキスの身に大葉を乗せて梅肉乗せて、それから衣をつけててんぷらにするっていう料理があるんだけど、更にチーズも入れちゃうとか……出来上がった後にチーズをぱらぱらかけちゃうとか。

 それこそパルミジャーノ・レッジャーノの粉をふんわりかけたら、これがもう上品の極地って感じでたまらないんだよねぇ」


「梅肉とチーズを揚げるとか!!

 ずるいずるいずるい!!」


 なんて会話をしながら掃除を終わらせて、その間に回していた洗濯機から洗濯物を取り出し、庭の物干し竿に干していき……それが終わったなら、居間へと移動しそろそろ昼ごはんかなと、時計を見やる。


「さて……お昼は何にしようかな。

 コン君は何が良い?」


 時計からコン君へと視線を移動させながら俺がそう言うと、コン君はそのほっぺたをぷっくりと膨らませ……そんなの言わなくても分かってるでしょ、とでも言いたげな表情を作ってくる。


 そうして何も言わずにじぃっとこちらの方を見つめてきて……俺は「分かったよ」と笑いながら言葉を返す。


「それじゃぁ、さっき話した料理にするか……それとも、そうだな、梅肉チーズピザなんてのも良いかもね。

 アスパラ、トマト、オクラにトウモロコシ、そこら辺を具材にして、パン生地に乗せて……梅肉と大葉、チーズで味付けって感じで、野菜多めのさっぱりあっさりピザって感じかな。

 この組み合わせならどのお肉が良いか……んー……いっそ魚を使うのも悪くないけど、今は確か魚の在庫がなかったかな。

 そうすると……んー、余り物で何か良いのを―――」


 そんな俺の言葉の途中でコン君は、何か思い出したことでもあったのか「あっ!」と声を上げて……居間のいつもの自分の席に置いてある、リュックサックの下へと駆け寄る。


 駆け寄りチャックを開けて中をごそごそとかき回して……そうしてから何かを……薄い布製の折りたたまれた何かを引っ張り出す。


「これこれ! かーちゃんがいつものお礼に渡しなさいって言ってたの忘れてた!

 はい、にーちゃん! これ、エコバッグ!

 今度から獣ヶ森でもエコポイントやるんだって、で、そのためにはこれで買い物する必要あるんだって! だからかーちゃんが作ってくれたの!

 これで今からお魚買ってきて、お魚ピザにしよう!」


 と、そう言ってコン君は取り出した何かを広げて……しっかりとした布で作られた手提げ袋……エコバッグとして問題なく使えそうなそれをこちらに差し出してきて、俺はそれを受け取りながら……笑顔で「ありがとう」とお礼を言いながら内心で困惑する。


 エコバッグはまだしも、エコポイント?

 エコポイントってあれだよね? 10年以上前に、特定のエコ家電を買うとポイントがもらえたみたいな、そんな懐かしい制度だよね?


 それが今更、この獣ヶ森で?

 いや、そもそもエコバッグでエコポイントとは一体?


 獣ヶ森は、その名の通り森に囲まれた場所となっていて、自然がこれでもかと溢れかえった環境となっていて……電線が木の枝の中を通っていたり、中心地が扶桑の木に囲われていたりと、独特な、自然と文明が融合したとも言える姿となっている。


 そこで暮らす人々も当然、自然を大切にするというか、自然と共に暮らす生活が出来ている感じで……世界でも有数の厳しさと噂されるごみの分別を行っている日本よりも、門の向こうよりも厳しく面倒くさい分別方法を取っていたりする。


 特にプラスチックゴミの扱いに関しては厳しく、そこらに捨てたりすれば即罰金となる程で……普段の生活の時点で既にだいぶエコな生活をしている状態にある。


 そんな中で実施されるエコポイントとは一体どんな制度なのだろう? と、首を傾げた俺は……兎にも角にも、お昼のために買い物は必要そうだからと、エコバッグを腕に下げて財布を用意して……コン君と一緒にいつものスーパーへと向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る