第121話 缶詰料理
夕方まで話し込み……最終的にリフォームは、屋根を変える、防火材を追加できるところに追加する、火災報知器をつける、防火樹を植える、という案でまとまった。
まとまったといってもこれからテチさんにこの案を見せて相談したり、これからタケさん達が作ってくれる見積もりを見て予算を見てまた考えたりと、色々あるのだけど、とりあえずの方向性はまとまったという感じだ。
そんなタケさんとの話し合いとコン君との鍛錬とで、すっかりと疲れてしまった俺は、今日の夕食は手抜き料理にしようかと考えて、缶詰の詰まった棚の戸を開き、じぃっとその中を見つめる。
「今日の夕御飯は缶詰なの? 缶詰並べて缶詰パーティ?」
そうしていると足元のコン君がそう言ってきて……「いやいや、ちゃんと料理にするよ」とそう返しながらいくつかの缶詰を手に取る。
一人分、二人分、三人分……コン君の分もしっかりと棚から出し、テーブルの上に並べていく。
なんでも今日は三昧耶さん夫妻共に忙しいらしく、夜遅くまで家に帰ることが出来ないらしい。
そういう訳でコン君は我が家で預かることになっていて……夕食も当然三人で摂るということになっている。
他所の子を預かっておいて、手抜き料理を出すとは何事だと叱られてしまいそうだけど……手抜きだけども栄養はあるし、ちゃんと美味しい料理でもあるから、今回はこれで勘弁してもらおう。
なんてことを考えながら俺が取り出したのは、ミックスビーンズの水煮の缶詰と、サバの水煮の缶詰と、トマト缶の三種類だ。
「缶詰と缶詰と缶詰……豆の缶詰なんてのもあるんだねー」
缶詰のことを追いかけてテーブルの上へと駆け上り、缶詰のラベルに目を通し……そのついでにしっかりと賞味期限のチェックもしてくれたコン君に、俺は「ありがとうね」とお礼を言ってから……今日の料理についての説明をし始める。
「ミックスビーンズの缶詰は結構優秀でね、あると色々な料理が作れるし、栄養もあるしで中々悪くないんだよ。
トマト缶もサバ缶も栄養があって美味しくて相性が良くて……で、この三つを混ぜてスープにすると、簡単なのに美味しくて栄養もあって、良い感じのスープになるんだ。
缶詰だけじゃなくてチリペッパーとかがあれば、アメリカ料理のチリコンカンのような味になってくれるね」
豆缶とトマト缶とサバ缶、この三つを合わせて混ぜて火を通せば、それで一応の完成、雑な作り方の割に美味しく、それなりに栄養のある一品となる。
災害などの際にこれからの缶詰が手元にあったなら、とりあえず作っておいて損は無いというド安定の料理……なんだけども、流石に平時の今にそんな雑なものを夕食にするのはアレなので、もう少しだけ手を加えることにする。
まずは玉ネギとニンニクをみじん切りにする。
次に鍋を熱したらオリーブオイルを入れて、それらを炒めて……炒め終わったなら缶詰三種類を流し込む。
サバ缶と豆缶の水は入れても良いんだけど一応切っておいて……ローリエを入れて煮込みながら、ケチャップやブルドックなソース、それとチリペッパーで味を整える。
コン君もいるのでそこまで辛くせず程々にしておいて、ある程度火が通ったらローリエを取り除いて……十分に火が通ったなら盛り付けて、仕上げにパセリを振りかけたら完成。
お米との相性も悪くないのだけど、折角だからとパンを用意し……薄く切ったトーストを添えて、飲み物は牛乳。
しっかりと洗って雑に切ったキュウリとトマトを別のお皿に盛り付けて、サラダということにしてもらって……そのままか、マヨネーズを適量つけて食べてもらうことにしよう。
「……とまぁ、こんな感じかな。
簡単で早く作れて、栄養もあって、それでいて美味しい、あえて名付けるならチリコンカン風缶詰スープってところかな。
サバ缶以外にもソーセージとかベーコンとかを入れても美味しいかもね。
パンチェッタは……よく塩抜きしないと塩分が強すぎるかな? それでもまぁ塩抜きさえしたなら悪くないかな」
完成した品々を今のちゃぶ台に配膳しながらそう言うと……お手伝いとしてスプーンとかマヨネーズチューブとかを配膳してくれていたコン君が言葉を返してくる。
「なるほどなー!
玉ネギとかは大変そうだったけど、缶詰混ぜればそれで良いってのは楽で良いなー!
これならオレにも作れるかも! 今度とーちゃんとかーちゃんに作ってあげよっかなー」
「それも良いかもね。
今回は辛さは控えめにしたけど、辛いのが好きな人に出すなら辛めにしても良いかな。
後は……チーズとの相性も悪くないから、最後にチーズをかけるとか、トーストにチーズを乗せるとかしても悪くないかな。
パスタにあえて食べるのも悪くないって聞くね」
「あー、パスタかー!
スープに混ぜるならオレはパスタより、マカロニとかのが好きだなー!」
そんなコン君の言葉を受けてマカロニもパスタの一種なんだけどね、と思いつつもあえて口にせずに笑顔を返し、配膳を済ませていく。
そうこうしているうちにテチさんが帰ってきて……配膳を済ませた俺とコン君は自分の席について、テチさんの身支度が終わるのを待って……テチさんが席についたなら、いつもの如く「いただきます!」と声を上げる。
そうして俺とコン君が、まずはスープの味を確かめようとスプーンを構える中、テチさんは豪快にトマトを一口で食べ、キュウリをあっという間にバリボリと食べ……そうしてからスープ皿を持って直接口をつけて味噌汁のように飲み始める。
そんな様子を見て俺とコン君が小さく驚きながら、何かお腹が空くことでもあったのかな? なんてことを考えているとテチさんは、勢いのままにスープの半分程を飲んでから笑顔で声を上げてくる。
「豆のトマトスープというのは初めて食べたが、悪くない味だな。
中に入ってるのはサバか? ……旬ではないが、これもまぁ悪くない味だな。
後は……もう少し辛くても良いかもしれないな」
それはどうやらテチさんの正直な感想のようで……そしてテチさんはこれが缶詰スープであることに気付いていないようで、気付くこともないままパンをスープに浸して食事を続けていく。
するとコン君は、テチさんが缶詰だということに気付いてないことを面白く思ったのか、にんまりとした独特の笑顔を浮かべながらスープをちょいちょいとスプーンですくって飲み始める。
にんまりとしたままテチさんを見つめたまま、ちょいちょいと。
「……どうした? 何かあったのか?」
あまり見ることのないコン君の様子に気付いたテチさんがそう声をかけるが、コン君は何も返さないまま……ただただスープを飲み続ける。
そうして半分程を飲んでから……ついに我慢できなくなったのかコン君が、テチさんに謎掛けを投げかける。
「ねーちゃんねーちゃん、このスープにはある秘密があったんだけど、それはなんでしょうかー!」
しかしその頃にはテチさんのスープ皿は空になってしまっていて……テチさんはただ首を傾げることしかできない。
そんなテチさんを見て更に笑顔を深くしたコン君は……なんとも得意げな表情を浮かべて、さっき調理中に俺がした説明をそのままテチさんにし始める。
そんな説明を受けてテチさんは……コン君に付き合ってあげているのか、少しだけ大袈裟に驚いて、柔らかな笑顔でコン君の話に聞き入るのだった。
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