第116話 大人なコン君
「いやー……それにしてもウナギにお肉の丸焼きと来たか。
とんでもなく豪勢な食事の出る結婚式になりそうだねぇ」
コン君と二人、居間で結婚式の食事についての雑談を続けている中、俺がそんなことを言うと……コン君は心配そうな顔で俺の顔のことを覗き込んでくる。
「にーちゃん、あんまうれしそーじゃないね?
すっごく美味しいんだよ? 丸焼き??」
覗き込みながらコン君はそう声をかけてきて……俺は慌てて笑顔を作りながら言葉を返す。
「あ、ああ、いや、丸焼きがどうこうじゃなくってね、俺も美味しそうだと思うし楽しみなんだけどね、そういうことじゃなくて今回の結婚式では俺も料理を用意しなくちゃいけなくてさ……ウナギとか丸焼きに劣らない、並べても問題無い料理ってなんだろなって思っちゃってさ……そこら辺で悩んでいたんだよね」
「ふーん? にーちゃんの料理はいつもおいしーし、どの料理でも良いと思うけど?」
「うーーん、いつもの料理って訳にもいかないかなー。
でもこれといって良いアイデアも思いつかないし……」
そう言って俺が悩んでいると、コン君もまた「うーん」と声を上げながら悩んでくれて……そうして悩みに悩んだコン君が良いアイデアを思いついたのか、明るい笑顔になって大きな声を上げてくる。
「にーちゃんと言えば燻製かな! それとソーセージ! 後はジャムも良いかも!」
これ以上無いアイデアだと言わんばかりのコン君。
その笑顔は本当に輝いていて、いいアイデアを思いつけたことが余程に嬉しいのか嬉しそうで……俺はもう一度笑顔を作り、言葉を返す。
「コン君にそこまで言ってもらえて嬉しいよ。
ただ……あれらは趣味のものだからなぁ、美味しいは美味しいけどごちそうかと言われると―――」
そんな俺の……自信なさげな声を、コン君は構うことなく大きく力のこもった声で上書きしてくる。
「いーじゃん! 趣味で! ミクラにーちゃんらしーし!
結婚は親戚どーしの付き合いだから、ご飯が美味しいのも大事だけど、どんな人か知って貰うってのも大事なんだぜー。
だから趣味で作りました、ミクラに―ちゃんはこーいう人ですって、自己紹介のご飯にしちゃえば良いんだよ!」
「そ、そういうものなのかい?
相変わらずコン君は難しいことを知っているというか、大人というか……本当に時々、凄いこと言うよね」
そう俺が返すとコン君は、小さくなった煎餅の最後の一欠片をひょいと口の中に投げ入れて、頬の辺りに手を当ててちょいちょいと動かし……口に入れた煎餅を頬の内側に詰め込んで頬をぷくりと膨らませながら、いつも通りの落ち着いた表情で言葉を返してくる。
「うん、オレも最近結婚のこと勉強してるからね、色々知ってるんだ!
オレ、お金持ちになったから、結婚したい人がいっぱいで、いっぱい過ぎるから今度お見合いとかするんだって!」
え? は? え? 今コン君何て言ったんだ?
コン君と結婚したい人がいっぱいいるから……お見合いをするってそう言ったのか!?
「お、お見合い!?
コン君が!? え、え、そ、その年で!? しかもお金目的ってだ、だ、だ、大丈夫なの!?」
コン君がさらっとしたなんでもないような態度を見せる中、俺は泡を食ってしまって混乱してしまって、なんとも情けない大きな声を上げてしまう。
するとコン君は、ちょいと首を傾げて……本当に何でもないような態度で言葉を返してくる。
「大丈夫だよ? とーちゃんとかーちゃんがちゃんと相手のチェックしてくれるし、ちゃんとした結婚をするためにお見合いするんだし……。
あ、そっか、にーちゃん達のお見合いとこっちのお見合いはちょっと違うのかな?
こっちのお見合いはね、しっかりした立場の人が間に立たないと出来なくて、その人とか、お嫁さんを紹介してくる人とかにもすっごく責任があって、もし結婚が失敗しちゃったらその人達も責任とらなきゃいけないんだって、慰謝料とかそういうの、払わなきゃいけないんだって。
だからお金とかをある人は、そこら辺で知り合った人と結婚するよりお見合いで知り合った人の方が良いんだってさ。
お見合い中ずっと、とーちゃんとかーちゃんが側にいてくれるし、オレも結婚とかよく分かんないからそっちの方が良いかなって」
静かに淡々と、至って落ち着いたまま、そんな凄いことを言ってくるコン君。
言っていることは本当に大人のそれで、俺以上にしっかりしていて……思わず尊敬したくなってしまうのだけど、仕草とか表情とかはいつものコン君で、頬の中に入れた煎餅をちょいちょいと動かし、遊んじゃっているのが本当に子供らしくて……。
そのギャップというかなんというか……久しぶりの大きなカルチャーショックにめまいを起こしそうになってしまう。
結婚のこととかお見合いのこととかは、コン君自身が判断すべきで、未成年のうちはご両親が判断すべきで……そういうしっかりとしたお見合い文化があるなら尚更のこと、ただの他人でしか無い俺がどうこう言うではないのだが、それでも心配で……心配すぎて何かを言いたくなってしまって。
そうして俺が頭の中でグルグルと、考え事をしているというか、し過ぎてしまっているとハッとした表情になったコン君が、声を上げてくる。
「っていうか! オレのお見合いはどーでもよくて! 今はにーちゃんの結婚式の話だよ!
結婚式のご飯をどーするのかって話! 実際どーするの??
もうそんな時間ないし……オレは趣味のがいーと思うけどなー……それとも、前にミクラにーちゃんのとーちゃんとかーちゃんが来た時のご飯とかにする?
朝食べた豪華なやつ! あれも美味しかったなー」
うちの両親が来た日の朝の食事と言うと……パリパリサラダと豚しゃぶ、ベーコンエッグとサンドイッチ、それとフルーツヨーグルトか。
それなりに手が込んでいて美味しくて、ウケも良い悪くはない料理なのだけど……悪くは無いというだけで、結婚式向きかというと微妙な所だろう。
そうするとコン君の言っていたように燻製などにするべき……なのか。
そこら辺もまたテチさんと相談して、それと自分でもよく考えてみて、ネットのレシピなんかも調べてみて、しっかりと考える必要があるなと、そんなことを強く思う。
まだ正確な日時が決まってないとはいえ、結婚式は来週で残された時間は少ない。
買い出しや道具の準備、仕込みに調理のことを思うとなるべく早いうちに決めておく必要があるだろう。
「うん……ありがとうコン君、今夜テチさんと相談してみて、コン君のアドバイスのことも話してみて、そうしてから決めることにするよ」
なんてことを考えて俺がそう声をかけると、コン君はいつもの笑顔になってくれて、笑顔のままこくんと頷いてくれて、そうしてから頬の中に入れていた煎餅の欠片をゴクンと飲み下す。
それは完全に子供による子供らしい所業だったのだけど……そうするコン君のことが、今日はなんだか大人に見えてしまって、俺はコン君への評価を少しだけ改めるのだった。
――――以下、あとがきです
鷹角彰来さんより素敵なレビューをいただきました! ありがとうございます!
これからも楽しんでいただけるよう、頑張らさせていただきます!!
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