第98話 ウィンナー、フランクフルト、ボロニア
翌日。
朝食を終えてからテチさんを送り出し、いつものように家事をしていると、
「きたよー!」
という声と共にコン君がやってくる。
軽快にピョンピョンと跳ねて縁側から家の中へと入ってきて、廊下をテテテッと駆けていって、手洗いうがいを済ませたなら、洗い物をしていた俺のいる台所へと駆けてきて……いつもの椅子にちょこんと座る。
「こんにちは、コン君」
「こんにちは!」
なんて挨拶をしたなら、洗い物へと意識を戻し、茶碗などを丁寧に洗い、すすぎ、水気を切って乾燥機に並べていって……そうこうしているとコン君が声をかけてくる。
「にーちゃん、にーちゃん、聞きたいことがあるんだけど!」
「うん? なんだい?」
「バーベキューの時にずっと聞きたかったんだけど、っていうか食べるのに夢中でついつい聞くのを忘れちゃってたんだけど、ソーセージとウィンナーの違いって何?」
まん丸お目々を大きく開き、好奇心でキラキラと輝かせながらそう尋ねてくるコン君に、俺は作業を進めながら言葉を返す。
「違いっていうか、ウィンナーっていうのはソーセージの中の分類の一つなんだよ。
ウィンナーソーセージって言うでしょ? 別々のものじゃなくて、作り方というか、皮の違いでそういう呼ばれ方をするんだよね」
「え? そうなの? 皮の違いって具体的に何がどう違うの?」
「元々はオーストリアのウィーン発祥のソーセージだからウィンナーソーセージって言われていて羊の腸を使ったものをそう呼ぶんだよね。
豚の腸ならフランクフルトソーセージ、牛の腸ならボロニアソーセージ。
で、ソーセージに使う腸のことをケーシングって言うんだけど、最近は人工ケーシングっていうのが普及してきたから、腸の種類どうこうじゃなくて、ソーセージの太さで分類したりもするんだよね。
羊の腸が一番細くて、豚の腸が中間で、牛の腸が一番太いから、一番細いのがウィンナー、次がフランクフルト、一番太いのがボロニアソーセージって感じでさ」
「あーあーあー、なるほどー!
フランクフルトは聞いたことある! コンビニとかでよく売ってるー!」
「そうだね、あそこら辺は多分人工ケーシングを使っているから、腸云々じゃなくて太さで分類しているんじゃないかな?
以前テチさんにも話したんだけど、人工、羊、豚、牛、どのケーシングを使うかで食感がかなり変わるからね、その違いを楽しむなんて事もできるし……腸によってこう、焼きが良いのか揚げが良いのか、どうしたら一番美味しくなるのかが違ったりもするから、そこら辺の違いを楽しむこともできるね」
「……中身じゃなくてケーシングっていうのでそんなに変わるの?」
そう言ってコン君はくいと首を傾げて……なんとも半信半疑といった様子の表情を向けてくる。
一昨日のバーベキューでは同じ腸を使った様々な味のソーセージを、全くの別物といって良い程に中身の違うソーセージを何本も食べたことから、どの腸を使うのかという、そのくらいのことで味が変わるというのがどうにも信じられないらしい。
そういうことならばと頷いた俺は、コン君のそんな疑問に応えるために……こんな時のためにと通販で買っておいた冷凍の、それなりにお高いウィンナーソーセージとフランクフルトソーセージを取り出す。
解凍して火を通せばそれで食べられる代物で……手作りに比べれば当然味は落ちるものだけど、すぐに簡単に食べられるというのは便利なもので、その便利さを思えば多少味が落ちるくらいは仕方のないことだ。
袋ごと取り出したそれを解凍のために一旦そこらに置いた俺は……フライパンを用意し、揚げ鍋を用意し……調理の準備を進めていく。
「言葉で説明しても分からないだろうから実際に、羊の腸のウィンナーと、豚の腸のフランクフルトを2種類の料理法で食べてみて、味がどれくらい変わるか確かめてみよう!」
「おおー! おおおおー!!」
俺が進める準備からなんとなく察して笑顔になっていたコン君は、はっきり言葉にされたことにより一段を喜んでくれて……そこからはまぁ、あっという間に準備が整う。
何しろウィンナーとフランクフルトを焼いて揚げるだけのことで……揚げのための油の準備と後処理が面倒なくらいで、手作りをする必要がないというか、ものが既に出来上がっているだけに一昨日とは比べ物にならない程に楽だった。
焼くのもあっという間、揚げるのもあっという間……。
焼いたウィンナーとフランクフルト、揚げたウィンナーとフランクフルト、それぞれ別の更に盛り付けたなら……それらを今のちゃぶ台に並べて、お箸を構えての試食タイムだ。
『いただきます!』
二人同時にそう声を上げたなら、まず焼いたウィンナーとフランクフルトを順番に食べていく。
「どう? 結構違うでしょ?」
食べながらそう声をかけると……歯ごたえがしっかりしているウィンナーと、香ばしさが強いフランクフルトを堪能したコン君が……あまり差を感じなかったのかくいと首を傾げる。
自分としてはかなり違うように思えるんだけど……どうやらコン君の味覚というか、嗅覚的にはどちらも同じようなもの、ということになってしまったようだ。
「……ありゃ、じゃぁ揚げはどうかな?」
そう言って揚げの方のお皿を進めると……揚げたことによりその香ばしさがより強くなっていて、はっきりと感じられたのか、コン君が目をキラキラと輝かせながらうんうんと何度も頷く。
モグモグモグと食べて、うんうんうんと頷いて、また食べてまた頷いて……そうやって2種類のソーセージを交互に食べ続けたコン君は……ぷはっと息を吐きだしてから声をかけてくる。
「ちがうー、結構違うー!
太さが違うからこう、そもそもお肉の量の違ってお肉がたくさんのほうが美味しいのが当然って思ってたんだけど……香りとか歯ごたえとか、揚げたのは全然違うね!」
「うんうん、そうでしょそうでしょ。
結構そこら辺が違うから、調味料との相性もうんと変わってくるんだよね」
と、そう返しながら俺は……ケチャップを取り出して、多すぎない程度に揚げたウィンナーとフランクフルトにケチャップをかけていく。
ケチャップをかければ美味しいのは当然で、揚げたてのウィンナーでもうんと美味しくなるのだけど……フランクフルトはまた別というか、その香ばしさとケチャップの相性が抜群で、普通に食べるよりも、焼いて食べるよりも美味しい……一口齧った瞬間に他のとは比べ物にならない程の別世界が口の中に広がる。
元々ちょっとお高い、上等なソーセージだっていうのもあるのだけど……うん、フランクフルトはやっぱり、揚げたてにケチャップ、これが一番の食べ方だね。
「うんまーーー! 何これうんまーー!」
コン君的にも揚げたてケチャップフランクフルトは美味しかったようで、食べるなりそんな大歓声が上がる。
美味しくてもっともっと食べたくなってしまう程に蠱惑的で……気をつけないとカロリーが物凄いことになってしまう一品で。
そうして俺達は当初の目的である食べ比べのことを忘れかけながら、ケチャップフランクフルトの味を存分に堪能するのだった。
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