第65話 ジャーキー作り 一段落

 

 くるみペーストジャーキーを食べ終えて、コップに注いだ牛乳をこくりと飲んで……一息ついたなら次のジャーキーへと手を伸ばす。

 

 次はハーブ塩、市販のものを塗り込んだものだ。


 手に取って一口噛んだならハーブのほんのりとした香りが広がって、ぎゅっと詰まった牛肉の旨味が広がって、そして勿論塩分もしっかりと主張をしてきて……それらの味がなんとも上手い具合に良いバランスとなっていて、ホロホロと崩れていくジャーキーを噛めば噛むほど旨味が口の中に広がってどんどんと唾液が出てくる。


「んーーーオレこれさっきのより好き! お肉の味! って感じがする!」


「お、コン君、通だねー、お肉本来の味が好きって訳かー」


 一枚目のハーブ塩ジャーキーを食べきり、二枚目に手を伸ばしながらそんな感想を口にしたコン君にそう返すと、コン君は親指と人差指だけを伸ばして、その間を顎にくいと当てて得意顔になりながら更なる感想を言葉にする。


「クルミはクルミで美味しかったけどねー! ちょっと味も香りも強かったっていうか、お肉が負けちゃってたかなー?

 美味しかったんだけどねー! お肉味を楽しみたいならこっちだねー!」


 通というかグルメぶってそう言うコン君に、俺は「なるほどなるほど」と返しながら頷き……そうしてから俺も二枚目のハーブ塩ジャーキーを口にする。


 うん、美味い。


 しょっぱくなりすぎないようにハーブ塩を少し少なめにしたんだけども、それがまたハーブの香りを抑えているというか、ほんのり香る程度にしていて、結果それが良い感じに仕上がっているなぁ。


 そして最後は王道中の王道、塩コショウ。

 失敗しようがない味、これをかけてただ焼くだけでも十分に美味しくなる味。

 牛肉を美味しく食べるためにある味と言っても良い味、塩コショウ。


「あー……うん、美味いよね、そりゃ美味いよね。

 塩コショウはやっぱり王道だなー」


 一つ手にとって口の中に入れて……噛んで噛んで噛んで飲み込んだ途端そんな言葉が俺の口から出てくる。


「んーーーー、美味しいけどオレにはいまいちー、ちょっと辛い」


 どうやらコン君には不評だったようで、そう言ってからこくこくと小さなコップになみなみと注がれた牛乳を飲み始めるコン君。


 確かに子供用にしては少しコショウが多かったかなーと反省した俺は……塩コショウジャーキーの残りを引き取り、それ以外の二種類、くるみペーストとハーブ塩をコン君に明け渡す。


 勿論それぞれの味から二枚ずつテチさんの分も確保してあって……確保したそれはお皿に盛り付けてラップをそっと上からかけて、テチさんが帰ってくるまでテーブルの上で寝かせておくことにする。


 と、俺がそれらの作業をしている間、くるみとハーブ塩のジャーキーを受け取ったコン君はどちらから先に食べるかを悩みに悩んで……美味しいハーブ塩を後回しにすることにしたのか、くるみペーストから手にとって、両手でしっかりと掴んで……リスがくるみの実をそうするかのように、カリコリと夢中になって齧り食べていく。


 その様子がまたなんとも可愛くて、ジャーキーを噛む度にその目がくりくり動いて、キラキラと輝いているのが言葉で言い表せない程に魅力的で……また明日、冷蔵庫で寝かせているジャーキーが完成したなら、この光景を見られるんだなーと、そんなことを思う。


 冷蔵庫乾燥にした方は少し硬めになるのだけども、味がしっかりと落ち着いて旨味もうんと強く感じられるようになっていて……オーブン乾燥とはまた違った味わいに出来上がってくれる。

 

 今回は赤身肉をメインでオーブン乾燥でやった訳だけど、脂身がたっぷりある肉でも脂身の部分が甘くなって、しっかり旨味を主張してくれて、中々良い感じに仕上がってくれたりする。


 脂身が多い肉ならば燻製にするのも全然ありで、脂身が甘く香りはスモーキー、軽く炙って食べたなら、食べる手とビールを注ぐ手が止まらない味となってくれることだろう。


 そういう意味ではスジ肉とか肩ロース肉で作ってみるのも良いかもしれない。


 サーロインジャーキーなんていう贅沢かつ暴力的な味のジャーキーもあるんだけども……うん、それは本当に贅沢な方法で、俺は中々それをやる勇気を持てないでいる。


 サーロインならやっぱりステーキにしたいよね、ステーキプレートでじっくり焼いて塩コショウ……うん、ジャーキーを食べたばっかりだけど、ステーキも食べたくなってきちゃうなぁ


 なんてことを俺が考えていると……一枚のジャーキーを食べ上げたコン君が、残りのジャーキーをじぃっと見つめ始める。


 くるみペーストとハーブ塩、塩コショウが辛すぎたお詫びに譲ったそれは、改めて見ると結構な量で……ああ、うん、何枚も食べていると流石に飽きが来るし、何よりコン君の小さな身体には多すぎたよねと、再度の反省をすることになる。


「今、無理して食べることはないよ。

 しっかり保存しておけば、保存食だからね、当分は保ってくれるし、持ち帰ってお父さんやお母さんと食べても良いし……今、保存袋を用意するから、それに入れておくと良いよ」


 そう声をかけてから俺が保存袋を用意していると、コン君はじぃっと、じぃーーっとジャーキーを見つめたままぽつりと言葉を漏らす。


「醤油味と味噌味はどんな感じなんだろ……。

 くだもの味も楽しみだし……イノシシ肉とか、他の肉のジャーキーも食べてみたい……!」


 ああ、うん……。

 飽きたとか満腹になったとかじゃなくて、更に食べたくなったというか、ジャーキーにハマってしまったという訳か。


 本当にコン君はお肉が好きなんだなぁと苦笑し……苦笑しながら俺は「そっちはまた明日だね」と、そう声をかける。


 するとコン君は、明日まで待つのかという悩ましさと、明日が楽しみという期待感をにじませた複雑そうな表情を浮かべてから……俺が用意していた保存袋に、残りのジャーキーを一つ一つ、丁寧にしまい込んでいく。


 自分で食べるためか、お父さんとお母さんと一緒に食べるためか。

 あるいは友達と食べる、なんてこともあるのかな? と、その様子を見守った俺は……オーブンなどなどの片付けと洗い物を行っていく。


 後はそもそものきっかけ、テチさんに喜んで貰えるかだけど……同じ種族であるコン君にあそこまで喜んで貰えたなら問題は無いだろう。


 ……そう言えばテチさんは、かなりのビーフジャーキー好きというか、ビーフジャーキーを見つけて思わず見入ってしまう程だったようだけど、ビーフジャーキーがそこまで好きっていうのも中々珍しいことだよなぁ。


 何か特定の味が好きなのかと思って質問したけども、味はなんでも良いって言うし、俺に全部任せるって言うし……特定の味ではなくてビーフジャーキー全般が好きということなんだろうか?


 作る前にそこら辺の話を聞いておけばよかったかな? と、軽く後悔しつつ……まぁ、帰ってきた時にでも詳しい話を聞いてみようかなと、片付けの手を進めながら俺はそんなことを思うのだった。

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