第64話 ジャーキー作り


 さて、今日食べる分は後で仕上げるとして、まずは一晩乾燥させる方のビーフジャーキーから手を付けて行こう。


 塩コショウ味はシンプルに、塩コショウを振ってよく塗り込んで……タレはなしで保存袋に入れて、冷蔵庫で2・3時間程寝かせておく。

 酒の肴にする場合は塩分を多めにするのだけど、今回は純粋にジャーキーを食べて楽しむつもりなので、塩分は程々で胡椒を気持ち多めにしておく。


 次は醤油ベース。

 醤油、みりん、日本酒を鍋に入れて軽く煮立てて……何度かの味見をして、味を整える。

 肉によく絡むからとか、良いテカリになるとか、タレにとろみが欲しいからと水飴を入れる人もいるし、砂糖をたっぷり入れる人もいるけど、俺はみりんだけで十分かな。

 これも酒の肴にするなら醤油を多くすると良いかもしれない。

 タレが出来上がったら冷まして、お肉と一緒に保存袋に入れて冷蔵庫へ。


 更に同じタレを作っておろしショウガを混ぜたものと、おろしニンニクを混ぜたものの二種類を作って別々の保存袋に入れて冷蔵庫へ。


 味噌ベースは雑に作るならただ味噌をお肉に練り込むだけでも問題無い。

 後は味噌をめんつゆで溶いてタレにする方法もあるし、味噌と料理酒、みりんと混ぜる方法もあって、どれが良いかは好みだ。

 俺が好きなのは味噌は少なめでちょっとだけ水を入れて、料理酒とみりんを入れてひと煮立ちさせたものとなる。

 そこまで味噌を主張させずにほんのりと感じるようにするというか、調整するというか……まぁ、大体そんな感じだ。

 こちらも冷めたなら保存袋に入れて冷蔵庫へ、勿論好みでショウガやニンニクを入れても良いし、味噌によく合うバターを風味づけに入れるのもありだ。


 フルーツタレも色々と好みが分かれる形になると思う。

 それこそジャムとかマーマレードのように果物を甘く煮立ててタレにする方法もあるし、味噌や醤油などと一緒に煮立てて有名メーカーの焼き肉のタレのようにする方法もある。

 焼き肉のタレは牛肉とかを美味しく食べるために作られたタレなので、当然ジャーキーにも合ってくれて、これに漬け込むだけでも十分に美味しくなってくれる。

 今回はまぁ……ジャムっぽくする感じで細かく刻んで砂糖を入れて軽く煮立てたものを冷まして保存袋に入れて冷蔵庫へ。


 そして今回一番の挑戦メニューとなるくるみタレ。

 前々から合うだろうなーと思ってはいたんだけど、中々機会に恵まれなかったというか、挑戦的過ぎるかな? と、勇気が出なかったタレとなる。

 まぁ、それでも今日は実験メニューな訳だし……うん、やっちゃっても問題無いだろう。


 まずはくるみを細かく砕く。

 くるみの風味がしっかり出てくれるように、風味がしっかりと肉に染み込んでくれるように祈りながら、すり鉢でごりごりと。


 そうしたならタレになるように味を調整していく訳だけど……足すべきは甘みとしょっぱさ……さて、どの調味料を使ったものか。


 甘みは砂糖が良いか、みりんか、ハチミツという選択肢もあるだろう。

 ハチミツ……ハチミツか、あまりお高くない、香り控えめのハチミツなんかはもしかしたら合うかもしれないな、うん、ハチミツにしてみよう。


 次に塩分……醤油か塩か味噌か。

 くるみの風味を強く押し出すなら、塩ってことになるんだろうけど……風味が良いだけでなく美味しくないと意味が無いので……ここは醤油にしておこうかな。

 

 それらを味見をしながら丁寧にかき混ぜていって……くるみペーストのような形を目指していく。

 水分が足りない場合は多すぎない程度に水を足したりして混ぜて混ぜて……ペーストになったら一応の完成。


 そのまま肉に塗り込むパターンと、料理酒を加えて熱を入れたパターン、2種類を用意して試してみるとしよう。


 こういう風に色々な味を試すことが出来るのは自作の良い所……なのだけども、出来上がったものを食べることになるのは誰でもない自分なので、冒険はし過ぎず、遊びすぎず、程々のラインに留めておくべきだろう。


 折角のお肉を無駄にしてしまうのも勿体ないからね。


 タレが出来上がったならお肉の表と裏にしっかり練り込んで……タレに漬け込んで保存袋に入れて冷蔵庫へ。


 そして最後はハーブ塩。

 これはまぁ失敗しようがないし、ほぼほぼ塩コショウと同じ感じになると思うのだけど、それでも一応試すだけ試してみる。

 魔法のお塩みたいな名前の、市販のハーブ塩を使って、よく練り込んだら保存袋へ。

 ……うん、ハーブ塩は本当に楽で良いなぁ。


 一晩乾燥させる用が終わったなら、いよいよコン君のためのジャーキー作りだ。


 まずは鉄板の塩コショウ、次に失敗しようがないハーブ塩。

 この二つは量さえ間違わなければ確実に美味しくなってくれるから本当に頼りになるよね。

 最近は色々なハーブ塩やハーブ調味料がスーパーに増えてきていて、嬉しいやらありがたいやら……もっと増えてくれることを願うばかりだ。


 そしてもう一つは料理酒を入れてない方のくるみペースト。


 くるみペーストを少しばかりというか、結構な量作りすぎてしまったので、その全てを使い切るつもりでお肉に塗りたくる。


 一晩乾燥させる用と同じように保存袋に入れて、冷蔵庫に入れて2・3時間寝かせることにして……そうこうするうちにそれなりの時間が経ち、十分に味が付いただろう一晩乾燥させる用の方を、タレなどから出し、キッチンペーパーで水分を拭き取り、ペーストなども適度に拭き取り……胡椒やくるみの欠片はあえて拭き取らずに残したりして、網付きのステントレーに並べて冷蔵庫に入れての一晩乾燥コースへ。


 保存袋にただ入れるのと違って、乾燥させる場合は重ならないように、綺麗にトレーに並べる必要があり……数が多ければ多い程、結構な場所を取ることになるので、そこら辺は事前に考えておく必要があるだろう。


 今回俺はそこら辺のことを全く考えてなかったんだけども……事前に十分過ぎる程の数のトレーを買っておいたし、倉庫の冷蔵庫もあるのでそこら辺のことは心配なし!

 台所の冷蔵庫に入り切らない分は倉庫の冷蔵庫へ。


「……冷蔵庫がジャーキー用お肉だけになっちゃったら流石にテチねーちゃんから怒られちゃうだろうし……ミクラにーちゃん、夢中になっての作り過ぎには注意したほうがいーぞ?」


 倉庫からの帰り道にそんなことをコン君に言われてしまって……、


「……まぁ、うん、はい、そうならないように気をつけます」


 と、そんな言葉を返しながら台所へと戻る。


 台所に戻ったなら使った道具の片付けなどをしていって……十分に時間が経ったならいよいよ、オーブンで乾燥コースのお肉に手を付ける。


 こちらも一晩コースと同様に、キッチンペーパーで水分を拭き取り、ペーストを拭き取り……くるみの欠片の一部をあえて残しておく。


 そうしている間にオーブンを120℃に予熱しておいて……棚板に重ならないように薄切り牛肉を並べていく。


 そうしたなら120℃で30分じっくりと熱して……終わったら水気がお肉の表面に浮き出ていることがあるので、それを丁寧にお肉を崩さないように拭き取って……一枚一枚丁寧に裏返してからもう一度120℃で30分熱する。


 この2回の30分はもう少し長め……60分を2回でも良いのだけど、どちらが良いかは好みの問題だろう。

 しっかりと熱するか、程々に熱するか。

 どちらにせよ弱めの熱でじっくり火を通すというのが肝となる。


 一晩乾燥させるコースの方は、120℃で30~40分を1回やればそれで十分なはずだ。


 俺が程々に熱するのが好きな理由は……出来上がりのビーフジャーキーの硬さが丁度俺好みの硬さになってくれるからだったりする。


 そうして二度目の加熱がそろそろ終わるぞとなって……、


「出来た? 出来た? そろそろ出来た?」


 待ちきれないのか、オーブンの置いてある棚の前で右へ左へ、忙しなく駆け回りながらそんなことを言ってくるコン君。


「もうそろそろ終わりだけど、焼き上がった後も粗熱取りっていうか、少し冷まさないといけないからすぐには食べられないよ?

 そうしないと口の中を火傷しちゃうからね」


 俺がそう返すとコン君は、大口を開けての愕然とした表情となって……その表情に吹き出しながらキッチンミトンを装着した俺は、良い香りを放っているオーブンのドアを開けて……完成となったジャーキーが並ぶ棚板を取り出し、冷ますためにとテーブルの上に用意しておいた、鍋敷きの上にそれをそっと置く。


 出来上がったジャーキーは、市販のジャーキーよりは少し厚めで、色も少し黒めとなっている。

 綺麗な赤色というか、ジャーキー色にならないのは……まぁ、うん、素人とプロの仕事の違いというやつなのだろう。


 テーブルの上に駆け上がり、ジャーキーのすぐ側に立ち……顔をぐっとジャーキーに近づけて、今にも食いつかん勢いのコン君と一緒にジャーキーが冷めるのを待って……数分経って、そろそろ良いかなという所で、俺とコン君はくるみペーストのジャーキーを同時に手に取る。


 ほんのりと熱が残っていて、カチカチではなく柔らかで、焼いたくるみのたまらない良い匂いがそこから漂ってくる。


 口に近づければその香りは一段と強くなって……口の中に入れたなら、強い香りとぎゅっとつまったお肉の味が広がって……一噛みしたなら程々に歯ごたえがありながらも、はらりとほぐれてくれるなんとも言えない食感が伝わってくる。


 酒の肴のジャーキーとはまた違う、味を薄めにした肉の美味しさを味わうジャーキーはいくらでも噛んでいたくなる確かな旨味があって、旨味の強さに夢中で口を動かすことになって……ふと気が付けば口の中が空っぽになっている。


「美味しかったー」

「おいしかったー」


 同時になんともシンプルな感想を口にした俺達は……くるみペースト以外のジャーキーを楽しむべく、その手を同時に伸ばすのだった。

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