第16話

どっかの店の屋上に立つ。

空は月が浮き出て星が出ているのだろう。

しかし地面に咲く人工の光が、空の景色を濁している。

便利な街だ、それに間違いはない。

だが、ふと空を眺めても、星が薄くてはなんだか息苦しく感じてしまう。

特に、自分の命を狙い一応は俺のご主人である瑠璃玻を狙っている奴らが傍に居ると。


「どなたはんどすかこん人たちは」


「さあて、大体予想は付くけど、まあ一応聞いてみようか、あんたら何者?」


俺たちを取り囲む様に三人の男はフードを被ったままだ。

その外套からして別組織の人間か。四家の入れ替わりを願うのは何も天坐蔵や黒羽尾だけじゃない。黒の外套を着込んでいて人相は認識し辛いが、その外套姿は原画で見たことがある。

『現代退魔奇譚』の四游院晶ルートでは幼少の頃の話になる事が多く。この龍禪市へと来た晶が黒外套の連中に連れ去られてしまうイベントがあるのだ。

その時の黒外套を着込んだ連中は確か『白夜行びゃくやこう』と呼ばれる術師の家系が晶を誘拐したのだ。


「………」


「その仕草からして、『白夜行』の連中か」


俺が見抜いてそう言うと黒外套の一人が狼狽した。

あー、やっぱりそうか。適当にでっち上げて言っただけのカマかけなのに、案外引っ掛かるモノなんだな。


「おい、早めにするぞ」


黒外套の一人がそう口にして指を構える。

それに倣う様に他の黒外套も人差し指と中指を建てて印を結ぶ。


「あんたたちなんをしはるつもりどすか?」


そう口調は強いが瑠璃玻は俺の袖を握って俺の後ろに立つ。

何かあれば俺を囮にして逃げる算段だろうか。それでも別に良いが。

出来る事ならば離れない方が良い。奴らの術理は現状俺の術理じゃどうしようも無いからな。


「「「〈誘間いざま四包しほう儀陣ぎじん固法こほう危故きこ暗庁あんちょう位階いかい伍下ごかおかものあらず―――ふさざしたせ〈封中結界ふうじゅうけっかい異身契禍いしんけいか〉〉!!」」」


そうして、『白夜行』家ご自慢の結界が発動される。

この結界は発動者と対象者を同じ異空間に閉じ込める事が出来る術理だ。

この結界は術理を持つ術師を殺せば簡単に結界は解けるが、もしも瑠璃玻が離れた状態で使われたら、俺だけ結界に封じ込まれる。そうなれば流石の俺でも術師を斃すのに時間が掛かる。その間に他の術師が瑠璃玻を連れていかれたらアウトだ。


だから、少なくとも術理対象になる様に瑠璃玻には密着して貰った。

これで少なくとも彼女が結界から弾き出されなくて済んだ。

正直守りながら戦うよりも、離れ離れになって戦う方が至難なんだよな。

まあ、そもそも外に連れてきたからこうなったんだけどな。

けど連れて行かなかったら絶対告げ口されるだろうし、そうなれば俺がお役御免になるし……。

ま、過ぎた事を考えるのも仕方がねぇし、今はこいつ等の相手が先だな。


「悪いが小僧、死んでもらうぞ」


そう言って黒外套の中から明らかに外套の中じゃ隠せない程の長い日本刀を取り出した。あれは契剣か?なら俺の契剣無刻が役立ちそうだが。


「死にたくねぇなぁ、だから代わりに死んで貰うぜ」


こんなセリフ主人公じゃなきゃ言えねぇよな。

けど俺はこれから主人公の代わりにハーレムを奪るから、実質主人公だろ。

だから問題ねぇ、恥ずかしさなんざ微塵も感じねえぜ。


「待て、向かうな。こんな真夜中、まさかご息女が御付きを一人連れて夜を歩くなど不用心にも程がある……わざわざ我らを呼び寄せる為の罠かも知れない」


ん、なんだよ。思い切り掛かって来る雰囲気だったのに。

此処は一斉に掛かって来て俺が一網打尽にする所だろ、これは。


「確かに……だがこうとも考えられる。四游院家の従士が強い故に調子に乗っている可能性も」


「それもあるな……ならば劣勢は我らの方か?しかし、だからとは言え逃げる事は出来ぬ。名前を知られた、報復が来るぞ」


……敏いなぁ、この三人衆。

此処は頭空っぽにして掛かって来てくれよぉ。


「……止むを得まい、我らの命は此処に捨てる。生け捕りにする算段だったが、全員道連れにするぞ」


ん?道連れ?あぁ、確か、三人衆が扱う術理は〈結界〉。空間を隔絶して異空間に移動したり、特定の生物を捕らえる事も出来るんだっけ。と言う事は。


「〈凶局・開門〉」

「〈死局・開門〉」

「〈禁局・開門〉」


再び三人衆が指で印を作ると、呪文を口にした。

そして、異空間から穴が開かれると、其処から現れるのは三体の禍物。

鬼、蛇、姦。

白い髪を生やした金棒を持つ鬼。

樹木の様な蛇腹を動かして舌をちろちろと伸ばす蛇。

柔らかな女の腕が幾多も伸びた蜘蛛の様な姦。

どれもこれも、明らかに強そうな見た目をしてやがる。


「あー、やってらんねぇな」


流石に三体。

俺だけじゃ倒すのは難しい禍物だ。

あー畜生。まさか此処で俺の実力を発揮する事になるとはなぁ。


「………あんたら、階位はどんくらいだ?」


俺は三人衆に語り掛けた。一人は無言、一人は無視、そして一人は冥途の土産と悟ったのか。


顕號けんごうだ」


そう答えてくれた。へぇ、顕號ね。

なら俺からも教えておいてやる。俺が術理を得て数か月。

貯めに貯めた養分を合わせたら、俺はその階位を軽々と超える。


「俺の推定階位は……隷號れいごうだ」


指を構える。その言葉を聞いて絶句する三人衆。

それもそうだろう。術師には必ず階級と言うものが存在する。

ただ単純に、俺はあいつらよりも強いのだ。当たり前な話ではあるが。

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