第13話〈京都弁って難しいね〉

四游院家。

京都が生んだ怪物。

嘗て魔境とも謳われた平安時代にてあらゆる百鬼夜行の群れを調伏した式神遣いの総本山。

全ての式神遣いの源流は四游院家とも称される、故に四家の一角に揃われても誰もが合点する名家中の名家。

目的の為ならばどんな手を使う、正道も邪道も極め尽くしたある種術師としての見本だろう。

実力、地位、そして名誉、これらがあるから並みの術師では太刀打ちする事は難しく、逆らえば今度どの様な仕打ちを受けるのか分からない。腹の底が見えないそういった恐ろしさも宿している。

そんな隙を見せれば喰われてしまいそうな場所へ俺は従士として働く事になっていた。

……まあ、向かう先は京都ではなく架空都市の龍禪市。ここで四家が四方を囲む様に屋敷を構えている。

一見料亭がやくざが住んでる様な家にしか見えないが、まあ事実やくざ以上に怖い輩が住んでるから同じと言えば同じか。

俺は閉ざされた門を叩く。すると扉が開かれて人相の悪いおっさんが顔を出した。


「はい、どちらさまでっしゃろか?」


代羽かわりばの者です」


代羽。四游院家に上がる時、黒羽尾の名前を出してはならないと教わった。

その暗喩として、代わりの名前が代羽だった。それを聞いたおっさんは俺を見てふぅん、と頷いた。


「なんや、ちっさいお子やねぇ」


ん?なんだ煽ってんのか?この野郎。少ない髪の毛を引き千切ってやろうか。

線が少ないバーコードを毟って読み取り不可能にしてやろうか?あぁ?


「………では入ってはならないと言うのですか?」


「そないは言うてあらへんやけど、まあ、代羽んモンは通せと言われてるし、どないぞ、お入りおくれやす」


嫌そうな顔しやがって、クソ。まあいいか。それよりも適当に屋敷の管理者に挨拶して晶と出会うか。ようやく原作ヒロインと会えるぜ。


「へえ、あんたが新しい従士?」


……ん?屋敷に入る前に、庭の方面から歩いて来た女に話し掛けられた……。

晶、じゃない……原案を見た時とは違う、骨格、いや顔の輪郭からして違うな。

目元辺りはそっくりだけど、晶は口元に黒子があるが、この少女には泣き黒子がある。

長い髪の毛には艶があり、前髪は眉を隠す程度の位置で綺麗に揃っている。

着物服を着込んでいるのは四游院家としての仕来りだろう。

小奇麗な恰好と言う事は、アレか。コイツ四游院家の本妻の娘か。

四游院しゅういん瑠璃玻るりは

幼少の頃の晶を虐めてた性悪女。まだ小さいのに大人の余裕っぽさを醸してんのは自分の家のデカさがどれ程大きいか知っているからだろう。


「………そうですが?」


つか、瑠璃玻は確か本家、京都の方に居る筈なのに、なんで龍禪市に居るんだ?

なんか、おかしいだろそれ。晶が瑠璃玻から逃れる為に龍禪市に来たのに、どうしてこんな所に居るんだよ。


「ふぅん、ええね。顔に傷あって、男前やね。私が隣に立つのは似合わん程に」


俺の顔を見てそう微笑んでいった。俺の顔の傷?あぁ、これか。この×に縫い込んだ傷口を見ていったのか?

えぇと……つまり。顔に傷があってブサイク?隣に立つな、って所か?

京都弁、言語日本語だよな。なんでこんな解釈するのに時間が掛かるんだよ。


「まあ。今日からうちん元で動いて貰うから、精々頑張りよしな」


はぁ?……はぁ!?

え、なんで、俺がお前の下で働くぅ!?どういう事だよ。俺は四游院家の従士として働くんだぞ。

それなのになんで、晶を虐めてた瑠璃玻の下で働かなきゃなんねぇんだよ!!


「聞いてあらへん?お父に新しい従士が欲しいって言わはって、用意こしらえが出来やはったらしいから引き取りに来やはったんに」


え?じゃあ、アレ、俺って瑠璃玻の従士になる為に来たって事なのか?そんな馬鹿なッ!

黒羽尾はそんな事、一言も言って無かったし、俺の脳裏じゃあ完全に四游院家の雑用係として働く事になってたのに……。


……もしかして、結構話が違ってきてるのか?

俺と言う小石が投入されたせいで、バタフライエフェクト、つまり、決められた話が歪んでしまったのか、それとも。

先輩のシナリオが優先されているから、統合性を得る為に歴史が捻じ曲がっているのか?どちらにせよ。マジかよ……瑠璃玻の傍でお世話をしなくちゃいけねぇのかよ。


それよりも、聞きたいことがある。これが一番重要な部分だ。


「失礼ですが、妾の子は?」


四游院家には当然ながら悪評もある。俺が晶の事を知っていてもなんら支障はない。

それを聞いた瑠璃玻は、あぁ、と思い浮かべる様な表情をして。


「かな子は今京都ん方で働いとります。それが何どす?」


「……こっちに来る予定は」


「ふふ、けもじことを聞くんやなぁ、かな子は勉強中どすから、それを邪魔しはるんは悪い事でっしゃろ?」


にやにやとしている。

俺は騙された気分に陥っている。

何が悲しくて、大切なヒロインを虐めてた女の世話をしなければならんのだ。

……くそぅ、けど、契約が契約だしなぁ……、はぁ、仕方がねぇや。四游院家は残そうと思ってたけど、いざとなれば、原作の予定と同じ様に四游院家を四家から引きずり下ろす事にしよう。

はぁ……けど、マジで残念なんだけど。またヒロインとはお別れかよ。









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