第12話〈なんか長い話〉
黒羽尾との交渉。
まず最初に俺の方から黒羽尾に話を切り出した。
じきに四游院に従士を預けるのならば是非俺にその役目をさせて欲しいと。
当然ながら黒羽尾は渋るだろう。何せ俺は術具回収を行う事が出来る優秀な存在。
それを他の家系に手放す事など出来ないし、この従士と言う任務は表向きは四游院に取り入る為の行動。黒羽尾が四游院に他の家系よりも強大な力を手にしたくはないかと誘引し、四游院はその言葉に乗せられて黒羽尾と手を組む事になっている。
そして、黒羽尾の目的は
この時複数の四家乗っ取り計画が行われていて、最終的に最初に手を組んだ四游院を貶める事に決定。
催眠能力を持つ人造人間拾壱號が四游院家を乗っ取り、当主に遺書を書かせて死亡させた。
その後遺書が公開されて、元から世話をしていた天坐蔵家を後継に選択。
四家との交流もある天坐蔵に残る三家は特に訝しげにする事無く許容、目出度く四家入りを果たす事になる。
計画上催眠能力を持つ人造人間が必要であるから、戦闘向きな俺の能力は適していない。
まあ、俺は別に四游院家を潰す気は無いからな。だからこそ、俺は四游院家に利用価値がある事を説いた。
術師の血筋の人間が死亡した場合。その術理は死後術具となる。
そうなればその術具を使役する事で他の術師にも使用が可能となる。
それを防ぐ為に名家の術師は死後、その術理が術具として世に出ない様に契りを疑似神霊である巫子神と結ぶのだ。
巫子神は上流術師のみが持つとされる術理の統合を司る守護神。
全ての術理は巫子神へと執着し、死亡を重ねる度にその術理の技能、拡張された能力が蓄積される。
代を重ねれば重ねる程に巫子神が持つ術具は膨大な異能として昇華されるのだ。
その術具の名を〈
そんなレアな道具を、俺が回収出来るとすれば……。
術具を欲しがる黒羽尾ならばそれは是非とも頂戴したい代物だろう。
何せ『現代退魔奇譚』の全ヒロインルートでも、髄宝術具を入手した事はない。
逆に、あるルートを通過すれば、天坐蔵が髄宝術具を所持する事になるが、それはまた別の話。
ようするに、俺には髄宝術具を回収する事を条件に四游院家への従士を行う事を約束させたのだ。
術具をあらゆる手段で回収して来た俺だからこそ、術具を回収すると言う部分のみだけは信頼されている。
まあ。別に四游院を陥落しなくても、他の三家に対して謀略くらいしてるだろう。
けどまあ、流石に、何の理由も無く従士にしろと言われて不審がらないワケがない。
何か裏があるのだろうと思っている筈だ。
当然ながら見返りがあると言う事も口添えしておいた。
その内容は『俺を人造人間から解放し、そして人権を渡す事。詳細に言うのであれば、俺を天坐蔵家の養子にする事』、これを見返りに求めた。
まあ前者は分かる。人造人間だが、その肉体の権利は黒羽尾が握っている。
アイツがその気になれば俺は一気に爆破するか液体になって死に絶えるだろう。
だから人間としての権利を主張した。そこまでは分かる、だが後者。
『天坐蔵家の養子にする』。これは出過ぎた願いだろう。
まず天坐蔵に対してメリットがない。人造人間を養子にした所で所詮は道具だ。
同時に、そんな道具を養子にする事は術師としての血筋が許さない。
だから当然ながら後者は却下される事になる。
けど、それはいい。あくまでも。俺が天坐蔵家の養子になりたいと思っている事実さえあれば、それで良いのだ。
それによくあるだろ?いきなり高い要求をした後にハードルを下げたら要求が通りやすいって奴。この条件はそれも含まれてんだよ。
どちらにしても、今後の展開次第じゃ、天坐蔵家は俺を養子にせざるを得ない。
俺の思想通りに動いてくれるのならば、な。
そんなこんなで俺が従士として四游院家に引き取られる事になった時。
同じ部屋に居た雪崩は悲しそうな表情を浮かべていた。
「なんで、行くの?私は?骨牌」
俺の足にしがみ付いて、四游院家への旅立ちを邪魔して来る。
いやぁ此処まで懐いてくれるとは思わなかったな、懐き過ぎて犬みたいに見えるわ。
「よーしよし……お前は犬みたいに可愛いなぁ」
「ねえ、なんで?私は、一緒じゃダメなの?」
「あー……まあ、そうだな、俺だけしか行けないから」
別にこれでお別れってワケじゃない。
上手く事が進めば三か月もあればすぐに戻れる。
まあ、事がうまく進まなかったら最悪学生になるまでずっとだろうし。
もっと最悪な事があるのだとすれば、このまま黒羽尾たちと戦うハメになるだろうが。
「戻って来るからさ、多分。だから、な?離してくれよ」
「嫌、私も行く、一緒」
一緒って言われてもなぁ……。
「じゃあ、アレだ、今度遊びに来るからさ。その時に、今度お前の好きなモノでも持ってくるから、だから犬みたいに大人しくしててくれよ、な?」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、そこでようやく雪崩が俺の足から離れてくれる。
「犬、に、ってたら、帰って来てくれる?」
声が掠れてよく聞こえなかったな。犬みたいに待ってたら帰って来てくれるって言ったのか?
まあ、そうだな。俺は頷いて小指を向ける。
「約束だ」
「……じゃあ、早く、帰って来て、ね?」
そうして、俺と雪崩は指を絡めて約束をするのだった。
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