第11話〈この世界の役割〉

遂に手に入れた。

契剣「無刻」。これが一つで色々な武器の効果を賄える。

まあ、今のところこれだけ振り回しても意味が無い。

他の契剣を持つ術師と戦う事で初めて効果を発揮する。

四家の中には試刀寺しとうじと呼ばれる名家がある。

其処には契剣を創造する術理を持つ術師の家系であり、今もまだ契剣が鍛練されてんだけど、其処がまた癌の巣窟みてぇな場所でなぁ。

明治時代後期辺りまではまだ誇り高い剣士が居たんだが、現代じゃあもう剣士の名折れしか存在しない。

契剣は術師としての鍛練が無くても剣術さえあれば強くなれる。

熟練度に応じて契剣が異能を発揮するからな。それにかまけて鍛練をサボって堕落しちまったんだ。

いや、それだけならまだいい。

奴らは現代の術師を見下している。

何故なら、努力を重ねなくても異能の力が手に入るからだ。

それなのに術理を追求する輩は馬鹿だと蔑んで嘲笑してる。

そして術師が居れば徒党を組んで闇討ちしたりするんだ。

最早術師など必要なし。これからは契剣遣いの時代だと言いたげに。

と言うかもう契剣遣いの時代だと勘違いしてる。

つか、この時代に降臨した覇者の軍勢とも思ってる。

だから好き勝手して自分の強さを誇示して女を手籠めにしたり酒や食い物を無銭で食ったりしてんだ。あれだ、野盗と変わらねぇんだ奴ら。

だから近々、俺はこの契剣を育てる為に試刀寺家を潰そうと思ってる。

多分近い内に、黒羽尾が四游院家との取引、そして人造人間が四游院の従属者として働く様になっている。

その従士として選ばれるのが確か新しく創生された捨號だったけ?

まあだから、そいつの代わりに俺が四游院家に行く。

そうすれば、四游院家の妾である晶と出会う事も出来るからな。


「骨牌、終わった?」


神社の外からそんな声が聞こえてくる。

俺は刀を抱えたまま外へと繰り出した。


「あぁ、これが俺の求めてた奴。移動に付き合ってくれてありがとな」


そう感謝の言葉を口にすると同時に雪崩の頭を撫でる。

柔らかな髪の毛を触るのはなんだかこっちの方が癖になってくる。

なでなでしてると彼女は気持ちよさそうにしていた。

暫く彼女の頭を撫でて、其処で俺は時間を気にする。


「そろそろ戻るか、雪崩、頼むわ」


頭を抑える雪崩、まだ撫でたりなかったか少し不服そうだ。

それでも俺の命令を守る為に頷いて糸を指先から吐き出す。

張り巡らされる糸は、その糸の結界内に存在する人間を転移する事が出来る。

雪崩が糸を思い切り引く。すると、空間が歪んでピシリっ、と音が鳴った。

瞬く間に拠点へと戻る俺たち。

その足で早速黒羽尾の元へと向かい出した。


「親父さん、回収した奴」


そう言って俺は黒羽尾に抱えていた刀を渡す。

それを受け取った黒羽尾はまず、鞘を抜いて刀身を見た。


「これが、キミが欲しいと言っていたものかい?術具じゃなくて、契剣みたいだね」


暫く確認して、刃毀れを起こした契剣を見ると。それを俺に渡して来た。


「生憎、契剣じゃ術具の代わりにならないね。良いよ骨牌。キミにあげよう」


と。それを渡してくれる。俺はその契剣を受け取ると、正式に俺の所有物となった。


「さて。それじゃあ私は少し出掛けてくるよ」


そう黒羽尾は言った。

出掛ける、と言う事は、あの男に会いに行くつもりなのだろう。

『現代退魔奇譚・零』の時代には四家はこの四つだ。

四游院家、試刀寺家、氷霊仙ひょうりょうぜん家、繰ヶ谷くるがや家。

しかし、『現代退魔奇譚』になるとこの四家の名家は変わっている。

具体的に言えば、先ほどの四つの中から、四游院家が没落して、新しい術師の家系が入るのだ。

名前を天坐蔵あまざくら。黒羽尾と通じる裏世界の関係者であり、同時に『現代退魔奇譚』のシナリオ本編での黒幕としての立ち位置。つまりラスボスだ。

本来、四家の役割は、その四家が存在する龍禪市の地中に眠る禍物の軍勢を封印する為に存在している。この四家の内一格でも失えば、封印のバランスが崩れて禍物の群れが呼び覚ます可能性があるのだ。

そして黒羽尾と天坐蔵は、その四家の一角を落として、自らが四家の一人に成り代わろうと考えていた。

理由は単純。その禍物の群れを自らの力にしようと考えている為。

それが『現代退魔奇譚』で主人公鍛冶塚鋭純が禍物が日本中に発生するのを阻止した話に繋がるのだ。


そしてあのクソ先輩は天坐蔵が禍物の解放に成功して日本を禍物だらけにしたクソみたいなシナリオに変えやがった。

今回、俺がこの世界に転生した以上、俺はその禍物の噴出を阻止すると言う役目がある。

あんなヒロインを凌辱させる様な真似は天が許しても原作者かみが許さん。


と言うワケで、四游院家に行くまでまだ時間がある。

その間俺は従順なフリをして何とか四游院家の従士として働く任を得る為に活動を続けなくてはならなかった。

ざっと三か月程。外の世界じゃあ丁度春と言う具合で、始まりの季節に、俺はようやく四游院家の従士としての任を得ることになった。

ある条件を結んで、ではあるが。


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