第10話〈武器回収〉
「はい親父さん、これ」
拠点に戻ると同時に俺は掌を親父の手に重ねる様に置く。
そして掌に口を作ると、俺の腹の中に入っていた術具を吐き出した。
べちゃり、と。唾液と胃酸塗れになった術具が黒羽尾の手に付着した。
はは、あの冷静さが売りな黒羽尾が狼狽してやがる、受けるわ。
「う、うん、ご苦労さまでした。今日はもう眠っても良いですよ」
そう言って黒羽尾が唾液塗れになった術具を掴みながら言う。
そうして俺と黒羽尾は別れようとして、ふと俺は黒羽尾にお願いをする事にした。
「あのさ、親父さん、明日、なんも予定無いよな?」
「はい、特にはありませんよ。と言っても、キミが術具の在処を思い出してくれたら予定が出来るのですが……」
欲張りものめ、そんなにも俺から術具の情報を手に入れたいか。
「あのさ、さっきなんか受信してさ」
受信と言うのは、術具の所在を情報をして認識する事、と言う俺の作り話だ。
何故術具の在処を知っているのかと言えば、それは術具の周波と合致する時があるからだ、とソレらしい理由を並べて言い訳しておいた。
「その術具、親父にとってはスッッッゲぇ不要な代物なんだけどぉ、俺、それが欲しくてさぁ。明日辺り、雪崩を連れて回収しに行って良い?」
と、そう言ってみる。
黒羽尾は少し考える素振りをしている。
「……それは見て判断しなければなりませんね。私が不要と感じたのならば、それはキミにあげましょう」
黒羽尾はそう言うが、どんな術具でも回収するつもりだろう。
まあ、本当に黒羽尾にとっては不要な術具だろうけどな。術具と言うか、武器なんだけど。まあ、その口ぶりからして、外に出ても良いって事だな。
そういうワケで俺は明日に備えて寝る事にした。
寝室は夫々個室が与えられている。ベッドの上に寝そべりながら俺は目を閉ざす。
人造人間でも眠いモノは眠い、と言っても、黒羽尾による改造を行えば睡眠などとらなくても良い体になるが、流石に人間らしさを捨てる気にはなれなかった。
俺は目を瞑り、ウトウトとしていた。なんか頭の中で纏まりの無い話が思い浮かんできて、あ、もうじき眠れる、って所でプシュゥと自動ドアが開く音が聞こえてきた。
その音を聞いて、あぁ、またか、と俺は思った。布団の中に入り込んでくる人の姿。
モゾモゾと蠢いて、俺の枕元に顔を出したかと思えば、それは雪崩だった。
「なんだ?……眠れないのか?」
俺は片目を開いて雪崩の顔を見た。
雪崩はジッと俺の顔を見ている。日々、雪崩に優しい言葉を掛けまくってたからか、こうして雪崩が俺の傍に来て一緒に眠る様になっていた。
人肌寂しい、と言う奴なのだろう。人造人間と言えども、人間性を追求してきた人型。如何に雪崩に人の心を理解する事が出来ないと言えども、その部分は人らしい形があった。
「一緒、私と、骨牌……」
ウトウトとする雪崩に俺は布団を動かして口元まで覆ってやる。
「明日は移動だからな、しっかり頼むぞ」
そう言うと雪崩はゆっくりと頷いている。
彼女の役割はとても貴重であり、様々な場所へ移動する為に必要な足だ。
彼女が何かあれば、俺は移動先で右往左往してしまう自信があるからな。
「おやすみ、雪崩」
「おやすみ、骨牌」
そう挨拶をして俺たちは目を瞑り眠りに付くのだった。
後日。俺たちは黒羽尾に許可を得て外へと繰り出した。
向かう先は二つ県を跨いだ先にある神社だ。
前と同じように、神社。と言うか、術具の殆どは神社とかで祀られているのが多い。
多分、その術具に曰くがあるから、様々な人間に影響を及ぼすのだろう。人の手から遠ざける為に、尚且つ、神々の加護が齎される神社にて封印する事で術具の効果を弱める為に。
まあ、強い術具には相応の力が働いているし、神社に封印しても意味が無い事が多いが。今回の術具は珍しく封印が成功している術具を回収する。
と言うか、先ほども言った様に、その術具は厳密に言えば術具ではない。
ある術師が、力なき人々にも禍物を討伐出来る力を与える為に作られた武具だ。
形状は様々だが、古の頃より存在していた武具だからその武器の殆どが刀剣類。
そして俺が回収する武具も、反りの無い直刀である武器であった。
ある術師が作った刀剣には魔が宿るとされていて、その魔は剣を扱う者の熟練度に応じて異能の力を放出させる。
その術師の術理の銘が〈
神社の襖を開ける。長年掃除されていない人が来ない神社の為か、中はネズミの糞尿や虫の死骸による臭いで満たされていた。
鼻を覆って歩いていく。神社の中には仏像が直立していた。
その仏像が握り締める一振りの刀こそ、俺が望んでいた武器にして、まさしく知識チートを発揮するに相応しい代物だった。
「うっし……ゲットだぜ」
鞘を抜いて刀身を剥き出しにする。刀身は濁り、刃は刃毀れを起こしている。
辛うじて錆てはいないが、刃の濁り具合からして人を斬るにも至難の業。
しかしそれで良い。刃が問題じゃないからな。
『
今の俺が使えば、これほどまでに手に馴染む刀剣は無いだろう。
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