第6話〈命名〉
ぐぐ、この野郎、はじめから俺を処分する為に仕向けてやがったな。
「あぁ……残念な事だよ。心が痛む、けれど、必要不要は存在する。大丈夫だよ漆號。キミが居てくれた事は、私の記憶に残るから、キミの作った技術は今後の未来に繋がるからね」
いけしゃあしゃあと、やっぱクソだなこの親父。
だが、まあいい。俺は戦闘用に作られてない事だけは分かった。
結局、術具を肉体に植えない限り、術師としての力を得る事は出来ないってワケか。
「………X県、S-511市。疚湖に、魚天女の術具」
此処は慎重に行く。だから言葉は流暢に喋る様に心掛ける。
そして俺の言葉の意味を、黒羽尾は理解しているだろう。
俺には原作者としての知識がある。当然ながらその歴史も俺が作った。
多くの術師がどこで死んで、どんな術具が何処に放置されているのかも、設定済だ。
黒羽尾の術理は同じ術師を作る。その為には術具が必要になる。
しかし術具はそう簡単に手に入るものじゃない。術師連盟には博物館と言う組織があり、許可を得ない限り術具がその組織の所有物になるから。
そして何よりも、黒羽尾は術師連盟から追放された討伐対象。
そう易々と術具を手に入れる環境下じゃない。だから、俺の言葉には一攫千金の価値がある。
「O県、Q-214市、結び山神社に、福真の術具」
「……ふふ、漆號。ここで一番近い術具は分かるかい?」
分かるに決まってんだろなめんなクソ親父。
「〈
「ふ、は、ははは。凄い、凄いよ。漆號。まさか一見なんの能力も無いのに、術具を認知しているだなんてね……その目は術眼かな?ふふ、これは思いもよらない副産物だよ。あぁ、悪かった。謝ろう。キミは素晴らしいよ、漆號」
そう言って頭を撫でて来る。
やめろ触んな、トイレ入った後に絶対手を洗わないタイプだろお前、俺のつるっぱげが汚れるわ。
「他にはどんな術具があるのかな?」
よし、これで俺の情報を信じ込んでる。
「……今は、これしか分からない」
だからこそ全部喋る必要は無い。少しずつ情報を小出しにしていく。
いきなり全て口に出す馬鹿が何処にいるってんだ。
「ふむ、そうかそうか、ふふふ。キミは賢しい子だ。なら安全を保障しよう。キミは家族だ……名前をあげよう」
え?いきなりか?名前をあげるって事は、つまり俺には存在価値があるって事だ。
まあ当たり前だけどな。まだヒロインハーレムを作って無いんだからよ。
こんな所で死ねるかってんだ。
「名前は何にしようか。あぁ、そうだ。肆號、キミにも名前を上げよう。正式に二人は私の家族になるからねぇ」
なんだ、雪崩もか。まあ、名前はもう決まっている様なもんだしな。
「君の見た目からして……雲母か東雲と言う名前にしようと思うんだけど」
……え?なんだ。雪崩じゃないのか?何を考えてんだこの親父は。
折角俺の脳内では雪崩で定着してんのに、名前を変えたら頭がゴチャゴチャになるじゃねぇか。
くそ、仕方がねぇな。俺は雪崩に指を向けて。
「雪崩」
と、代わりに俺が命名する事にした。
「ん?なんだい漆號。キミが名前を付けるのかい?いいね。じゃあ彼女は雪崩だ」
そうしてあっさり肆號が雪崩と言う名前になった。
ついでに俺も自分で指差して名前を口に出す。
俺はゲームとかペンネームは一貫して付ける男だ。
だから此処は本名の
「俺は、
『現代退魔奇譚』シリーズを書いていた際のペンネームが『骨牌』だった。
だから俺はその名前を使う事にした。
「ふむ、骨牌、か。難しい名前を知ってるね。あぁ、一体、キミはどの様なメカニズムなんだろうねぇ……中身を見てみたいけど。偶然の産物である事は間違いない……解明出来なければ大きな損失になってしまう……」
そうぶつくさと独り言を言いながら自分の殻の中に閉じこもる。
おいクソ親父。考えに老け込むのは勝手だけどそろそろアレが欲しいんだけど。
「黒羽尾の親父、術具が欲しい」
もう敬語とか使うのは止める。俺が解体されない保証はされたからな。
本名を呼ばないだけでも感謝しろクソ親父。
「術具……うん、そうだね、けど、キミには少し早いかも知れないね」
なんでだよ。俺は一刻も早く術具から術理を抽出してそれを扱うんだよ。
色々慣れさせとかないと今後のイベントに支障が出るだろうが。
「術具が肉体に定着する様に改造しないといけない。キミの体は普通の人間だからね。体を開いて一夜で術具が使える様になるのと、お薬を飲んで術具に適応出来る体にするの、どっちがいいかな?」
………。
「前者を選ぶとデメリットある?」
「最悪死ぬかもしれないね」
「じゃあ後者で」
まあ、折角の利用価値が出てきた俺を殺す様な真似はしないだろうが。
万が一があるからなぁ……畜生、薬を飲んで体を作り替えないといけないのか。
何日掛かるんだ?一週間?いや、最悪一か月か?
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