第3話〈原作者の知らないヒロイン〉
結局お湯をかけられて俺は自由の身となった。
冷凍室から退出すれば、其処は洞窟内部だった。
土中を掘って削った様な粗悪な通路、土砂崩れが起きない様に木材で補強されている、一定の距離を置いてランプが吊り下がっており火が動くにつれて影が揺らいでいる。
〈人造師〉
二束三文で購入した山を改築して山中内部に洞窟を掘削。
山の内部はまるで蟻の巣の様に複雑になっている。
外部から侵入出来ない様に多重結界が敷かれており、拠点に侵入する為には入口から入らなければならない。
「ほら、大丈夫かい?おんぶしてあげよう」
濡れた俺を包む様に自らの白衣を被せると背中を此方に向けた。
これから主人公の敵になる存在なのに、なんて優しいんだ……俺は遠慮する事無くその背中におぶらせてもらう。
うわぁ。あったけぇ……コイツ主人公を殺す為に街に人造人間を放つ奴なのにすげぇ背中あったけぇよ……。
「キミは一体どんな大人になるのかな?これから楽しみだ」
子供に対するお父さんの一言にも聞こえるけど、俺はコイツの本性を知ってるから綺麗な言葉に聞こえない。
俺が大人になるって事は人を簡単に殺す快楽殺人鬼になるって事だろ?嫌だよ俺、ヒロインとイチャイチャするんだよ。
そうだ。俺はそのために転生したんだ。
主人公の都合なんざどうでもいい、俺がヒロインとのハーレムを築くんだよ!
その為に……まずは安全の確保とヒロインとの接点を作らないとな。
まず第一に京都弁ヒロインの『四游院晶』との接点を作る事。
これは簡単だ。幸い黒羽尾と『四游院家』は裏で繋がっている。
黒羽尾との関係次第で『四游院家』へと行く事が出来るだろう。
次に『雪車町小綿』だけど……確か一般家系から生まれた異端的術師で、彼女の名前が出てくるのは中学生の時くらいか。設定が普通の家だけで詳しい情報は決めて無かったからな。彼女と出会うには後数年ほど先か……まあそれまで生きていられるか。
後は『夜伽淑乃』。
術師が経営する孤児院出身で術師適性があったから術師の道へ進んでいるんだっけ。
名前が『あさがお孤児院』。ネットで調べれば場所は分かる。
なるべく早く会える可能性があるのは『夜伽淑乃』と『四游院晶』か。
早く出会ってフラグたてて俺のハーレムを作ってやるんだ。その為にまずは生き残る所から始めないとな。
黒羽尾は人造人間を愛している。
だからこそ人並優しく、それこそ家族の様に扱ってくれるが、その分狂った術師としての一面がある。
一定以上の能力が無い人造人間は失敗作。
成果を出す事が出来なければ処分されてしまう。
しかし黒羽尾の愛は本物だ。だからこそ心を痛めて、涙を流して、そして躊躇いも無く殺すのだろう。
正直コイツが泣こうが悲しもうがどうでもいいが、処分されるのはゴメンだ。
だから何とかして俺は有益な存在であると黒羽尾に認めさせなければならない。
だが現状、俺はこの黒羽尾の気まぐれで生かされているに過ぎない。
基本的に人造人間はそれぞれ特化した能力を持つ。
例えば単純な身体能力強化。速度強化、硬質化、テレパシー能力、毒耐性、様々な分野がある。
だが、俺は失敗を前提で作られた試作型。
その能力値は他の人造人間よりも低いのは明白だ。
何よりもハゲてるし確実に捨て駒としての役割をさせようとしたのだろう。
だから今のところ廃棄が確定されていたのを延期されている状況だ。
これを覆す為には、黒羽尾に認めさせなければならない。
大丈夫、俺には原作知識が存在する。この知識を黒羽尾に提供すれば良い。
「さあ、付いたよ漆號。君の兄妹が居る場所だ」
そう言って、洞窟に現代的な自動ドアが設置された部屋に入る。
其処は冷凍室よりも暖かな空気が流れていた。周囲は真っ白な部屋で、それ以外には何もない。
それにしても兄妹か……まあどうせ人造人間だろう。俺のナンバリングが七番だから、俺よりも早く製造された人造人間が二体存在する事になる。
黒羽尾が『現代退魔奇譚』終了時まで製造した人造人間は全部で二十三体で、その内五体のみが残存し、それ以外が失敗作扱いとして処分されている。
番号は確か、
「やあ
……ん?肆號?あれ、可笑しいぞ?
人造人間肆號なんて、設定じゃあ既に処分扱いされている筈なのに……一体誰だ?
そう思って俺は黒羽尾の後ろからその姿を確認する。
―――そこに居るのは、髪の長い少女だった。
白……いや、灰色の髪を太腿まで伸ばしたくりっとした童顔の少女。
瞳は翠、あれは術眼持ちか?……だけど、何故だ。設定を忘れやすい俺でも、確実にそんな容姿を持ったキャラクターを書いた覚えが無い。
「………あ」
いや、待て……確か、あのクソが書き換えたシナリオに、謎のヒロインが存在した。
男性の精液を無表情で搾取してそれを栄養源に活動するなんてそれらしい設定と無表情淫乱属性なんてモンを持ったヒロインが居た……確か名前は。
「なあえ」
……あぁクソ、喋れないんだっけ。
そのヒロインの名前は確か、
………原作者が知らないヒロインが居るんだけど。
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