第2話 『戦乙女の庭』
『
その名前を知らない者など、誰一人いるはずがないだろう。
一人の天才科学者によって作られた組織であり、コロニーにおける特権階級だ。その理由はただ一つ――世界で唯一、
コロニーの外に出ることができる数少ない存在であり、実質的にコロニーを支配している存在だと言ってもいいほどだ。
何せ――彼らがいなければ、コロニーの拡張ができない。
五十年前から大地を支配しているのは
だが、コロニーの面積は有限。加えて、コロニー内で生産している食料についても有限だ。人口が増えるということは、同時にコロニーの拡張もしなければならないということになる。ゆえに、人口が一定を超えた時点でコロニー長が『
そして、全世界のすべてのコロニーがそうやって拡張を続ければ、未来はどこかのコロニーと地続きになってくれる。そして世界中の全てのコロニーが繋がってくれたそのとき、人類は
ゆえに、
『自己紹介が遅れたな。私はラフィーネ・ヴァルキュリア。『
女――ラフィーネが、そう名乗る。
確かに、寝ている間に三十人もの人間を拉致し、このような場所に閉じ込めているという所業――このようなことをできるのは、その持ち得る権力が高い『
いつかは警察がどうにかしてくれる――そう思っていた者の表情が、絶望に翳る。
相手が『
『まぁ先も言ったように、きみたちには
「あ、あのっ!」
『ん、質問かな? 答えられるものならば答えよう。十四番、
「ど、どうして、私たちなんですかっ!」
立ち上がり、モニター越しのラフィーネに対してそう質問する霧島。
あまり自己主張をするようなタイプではないが、それでも気になったのだろう。実際に、それはここにいる全員が気になっていることでもある。
ここにいる三十人の中に――『
『抽選の結果だが』
「……へ?」
『勿論、各国の首脳に集まってもらったうえで、厳正に行われた抽選だ。そこに不正は何一つない。そこは心配しないでくれたまえ』
「は、はぁっ!?」
思わず、そう声を上げるのは龍田。
先程電流を喰らったばかりだというのに、何故かまたそう声を荒らげる。きっと、脊髄反射で声を出しているのだろう。
「ど、どういうことだよ!?」
『十七番、龍田竜次。同じ目に遭いたいならば止めはしないが、そうでないのならば座れ』
「うっ……」
ラフィーネのそんな言葉に、龍田は身を震わせてから座る。
さすがにどれほどの短気であったとしても、電流は恐ろしいのだろう。普段はクラスの中でも乱暴者で恐れられている龍田で、教師ですら怯えている男だ。そんな龍田が素直に従って座るほどの電流を想像すると、思わず勇次の背にも冷たいものが走る。
『我が『
「な、なんでそんなこと……!」
『理由が必要か? まぁいい……全員を雇うと、どうしても使える奴と使えない奴が出てくるものだ。だからこそ、最初の時点でふるいにかけなければならん。この選別方法ならば、誰が使えて誰が使えないのか分かる。どうしても個人の資質に左右される代物だからな。我ながら面倒なシステムを作ったものだが……まぁ、それだけのことだ』
「……」
誰もが、言葉を失う。
それはまるで、生贄だ。ラフィーネの言うところの『使える奴』と『使えない奴』をまとめて戦地に送り、生き残った者だけは『使える奴』として扱うということ。
それを、各国の首脳が承知し、その上で抽選を行っている――最早、気が狂っているとしか思えない所業だ。
『もう質問はないな? では次に移るが……』
「もう少し、教えてください」
『二十三番、那智大介。質問を許そう』
那智が立ち上がり、モニターを見据える。
そして――ここにいる誰もが疑問に思っており、そして『
背筋を伸ばして堂々と、放った。
「僕たちは、ただの高校生です。戦う力なんてありません。それも、あなたの言うところの
『勿論、そのような質問は想定内だよ。昨年も、一昨年も、その前も誰か一人は必ず聞いてきた。そして、それこそが私がこれから説明しようと思っていたことなのだよ、那智くん』
「……教えてください」
『勿論だとも』
ラフィーネは鷹揚に頷き、そして睥睨するように、円卓を囲む全員を見て。
そして――意味の分からないことを、言った。
『安心したまえ。きみたちは3分間だけ、英雄になることができる』
そんな謎の言葉に。
一つも、安心できる要素はなかった。
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