30.初めてのダンジョン

「ノノちゃんとアマツさんどうする? 私火力メインの魔法使いと回復役も少し出来るんだけど」


「私は武闘家しか出来ない、から……。アマツさんはどうしますか?」


「俺は一通り何でも出来るぞ。この人数なら前衛、中衛、後衛をそれぞれやるのが良いんじゃないか? まあ全員前衛とかいうネタみたいな事をしても良い気がするけど。このダンジョンはポーションなんかは普通に使えるのか?」


「ううん、持ち込めるのは武器と防具だけだよ。それも見た目だけになるし、基本的にはパワーアップアイテムで補正したり、ダンジョン内でポーション拾ったりしてどうにかする感じ。ここなら私達もいつもの衣装が着れるんだよね」


 そう言う神代さんの衣装は、最初初めて会ったときの、おそらく配信者としての彼女の衣装に戻っている。ウェンドンに来た時は二人共一時的に変装していたが、このダンジョンの中では他のプレイヤーに見られる心配は無いのだ。

 

「なるほど。まあ衣装はどうでも良いんだけど」


「えーこっちの方が露出多いよ? 良くない?」


「それはサーヤちゃんだけでしょ。私は普段と変わらないし。それより、どうしますか?」

 

 ノースリーブのシャツ、というか何というのだあの服は。まあその裾から覗くへそやゆったりとした上着から見える腕なんかを見せびらかしながら神代さんが言うが、有馬さんは同性だし俺はそういうのは良くわからない。すっと流して本題に話を戻した。

 

「二人共好きなので良いんじゃないか? 俺も何か、適当に選ぶよ。回復は足りる予定か足りない予定か教えてもらえればその辺も考えるし。確か魔法と弓の組み合わせとか、聖騎士スタイルとかもあるよな?」


「結構色々あるよ。なら私は、慣れてる魔法使いちゃんにしようかな、っと」


 神代さんはそう言って、衣装を少し変える。へそが出ているところやホットパンツなどは変わらないのだが、羽織っている薄布の上着がよりゆったりとして裾が長くなり、少し魔法使いらしくなった。

 

「どう? 神代桜綺魔法使いバージョン」


「まあ良いんじゃないか? そういうデザイン作れる人はすごいよな」


 俺なんて見た目をカスタマイズするとお金がかかるという理由でなるべくシンプルな見た目にしている。おかげで企画の最終盤に至っても見た目は初心者を抜け出したぐらいの駆け出しと変わらなかったりするのだ。

 

「むう、もっと私を褒めてよ」


「じゃあ私は回避盾をします。盾は無いので本当のタンクほど硬くは無いですけど、そこそこ硬いスキルもあるので結構耐えれると思います」


「はいよ。じゃあ俺は聖騎士スタイルかな。これ動きはどうなんだろ。まあどうにかなるか」


 それぞれに、壁一面に書いてある紋章から目当てのものを選び、そこに触れる。すると紋章の前に魔法陣が現れ、そこにネックレスが一つ出現する。それを装備することによって対応するスタイルを獲得することが出来る。

 

 このダンジョンは特殊で、それぞれのプレイヤーがそれまで積み上げてきたステータスやスキルなんてものは一切使えない。このダンジョンに挑む際にはリセットされるのだ。

 

 その代わりプレイヤーは、ダンジョンに挑む前に一つのスタイルを選択することが出来る。今俺たちが言ったのもそのスタイルの一つだ。そしてダンジョンを攻略していく中でそれぞれの習熟度が上がっていくことで、スタイルに応じた出来ることが増えていくのだ。

 

 このスタイルがかなりの数用意されているようで、様々な楽しみ方が出来るようになっている。例えば剣士を取っても、重い盾を持ったタンクなのか、軽めの盾を持った軽戦士なのか、盾の無い攻撃系の剣士なのか、といった感じだ。それが魔法使いや他の武器にもそれぞれ存在するので、一通り遊ぶだけでかなり楽しめるのである。

 

「よし、これで……ちゃんと適応されてるな。盾も持てるのか」


 俺の選択したのは聖騎士スタイルだ。剣士の中でも回復や浄化系統の魔法が使えるものである。聖騎士であるため盾も装備できるようだが、タンクは有馬さんがしてくれるらしいので俺は盾無しでやってみることにする。

 

「アマツさん準備できた?」


「出来た」


「よし、それじゃあ二人共行こっか! 頑張ろうね!」


「私頑張るよ。いいところ見せないと」


「いや別に見せなくても……」


 パーティーリーダである神代さんが転移結晶を起動し、俺達の視界がゆがむ。ここのダンジョンは縦に繋がっているように見えたが、実際はそれぞれのパーティーが別の空間に飛ばされる。

 

 このダンジョンも人とまともに組むのも初めてだが、こういうのはワクワクする。楽しみだ。

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