31.いざ、全て定まらぬ迷宮へ
「アマツさん左2つ!」
「あいあい!」
前衛でモンスターの集団を受け止める有馬さんの脇をすり抜け、2体のモンスターが後方の神代さんの方へと向かう。後方で指示を出している神代さんの声を受け、俺はそちらの防衛に向かった。
今は相手のモンスターもかなり弱く、タンクの有馬さんの攻撃力でも十分に倒すことができている。とはいえ他に火力役がいないこのパーティーにおいては神代さんの攻撃力は重要なので、自由に動ける俺がそれを守る必要があるのだ。
「《ファイアボール》!」
神代さんの前に飛び出しゴブリンの錆びた剣を受け止めた俺の頭の近くを、後方から火球が飛び越えていった。わずかに熱風が髪を揺らし、つい首をすくめたくなる。
「神代さんあと何秒?」
「何が!?」
「次の魔法だよ。俺の方は良いから有馬さんの方へ飛ばして」
背中越しの俺の問いかけに対し、神代さんは少し間をおいて答える。
「ちょっと待って! あと……10秒!」
クールタイムが10秒か詠唱含めて10秒か。このダンジョンには、1つの属性に特化した魔法使いから、複数属性を扱える魔法使いまで様々なタイプの攻撃型魔法使いが存在していたはずだ。先程から《ファイアボール》しか放たれていないし、詠唱のつながりに間が空くということが、おそらく特化型を選んだのだろう。
「撃つときは言ってくれ。俺も合わせて突っ込むから」
「わかった!」
俺が2体のゴブリンを倒しきろうとしている一方で、10体近くの群れを相手にしている有馬さんは少しつらそうだ。
「アマツさん行くよ! 《ファイアボール》!」
「あいよ」
目の前の瀕死のゴブリンを突き崩し、頭上を超えていった火球を追うように有馬さんの方の戦闘に参加する。
ゴブリンの数は残り8体。2発の神代さんの魔法で1体ずつが倒れた。残りのゴブリンも、有馬さん決死の反撃でHPは全快ではない。
「有馬さん、スイッチ!」
なんとか囲まれた中で攻撃を躱していたものの、ゴブリンの連続攻撃によって有馬さんが体勢を崩す。そのタイミングで俺は、有馬さんに声をかけた。
「わ、はい!」
後ろから有馬さんの肩を引き、代わりに振り下ろされたゴブリンのナイフを剣で受け止める。ゴブリンのヘイトはまだ有馬さんの方を向いているようでほとんどの個体が俺を無視して有馬さんの方へと向かおうとするが、聖騎士の威圧を使ってヘイトをこちらに向けさせる。
タンクは有馬さんがしてくれるということだったが、大分ダメージも受けているようだし一時的に交代だ。
「アマツさんそのままタンク! ノノちゃんは回復!」
「りょーかい」
「うん! アマツさん、危なくなったら代わります!」
神代さんの指示に頷くと、後ろから有馬さんが頼もしい言葉を飛ばしてくれる。もう少し俺を頼ってくれても良いんだけどな。
俺が前線に合流し、2人で支える隊形に変えたことで安定して戦闘を運べるようになり、その後は無事にゴブリンの群れを討伐できた。
「おつかれー。なんとか勝てたね」
「危なかったー。ありがとうございますアマツさん」
「ん、まあ俺はサポートメインだからな。足りないところを補う感じでやるよ」
「いやー、それにしても思ってたより大変だったね」
「桜綺ちゃんが3組も巻き込むからだよ。1組ずつならちゃんと倒せるのに」
初めての戦闘ということで慎重に行きたいと俺も有馬さんも思っていたのだが、神代さんが敵の集団が複数集まっている場所に魔法を撃ち込んだことで思っていた以上の数のモンスターと同時に戦うことになったのだ。
「まあ勝てたんだから良いじゃん。 それに、負けたらもう一回やればいいだけだしね」
「そうだけど……」
「まあ、今回は真面目に攻略っていうよりはワイワイやる感じだろ? 適度に楽しくやってこう」
「さすがアマツさん! わかってるね!」
「でも一番前で支えてくれるのは有馬さんだからな。そこは、忘れるなよ」
「はーい」
「ふふっ。もうちょっとレベルが上がるまではお手柔らかにね」
このダンジョンでは、一番最初はプレイ開始直後のプレイヤーよりも弱い、装備したスキルがレベル1の状態から始まる。そのため、普段は実力のあるプレイヤーでも特に序盤は苦労するのだ。
『鋼の大地』においてはレベルが中ぐらいから上限ぐらいになってくると、レベルが上ったり上位スキルが開放されても、スキルやそれに付随する魔法、アーツは性能が良くなっていくだけなものが多いのだが、ゲーム開始初期から中盤にかけてはその限りではない。
レベルが上ってスキルの性能があがるごとにスキルの挙動そのものが大きく変わったり、中盤に到達してようやく満足に使えるようになるようなスキルが多いのだ。そのためゲームを初めたばかりの時期は、いろいろなスキルは使えるとはいえ制限を受けながら活動するようなものなのである。
「それじゃ、先に進もっか」
「うん」
「あいあい」
神代さんの号令とともに、3人でダンジョンを先へと進む。とはいえ、本気で攻略するときのように気を張り詰めるわけではなく、のんびりと、3人で言葉を交わしながらだ。いつもギリギリのレベルでダンジョンに潜っては、1つのミスも許されないような状況でプレイしてきた俺にとっては、気を抜いてダンジョンに潜るというはとても新鮮なものだった。
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