27.有馬ノノ

「ここだよ」

 

「ここ、って、普通の家だな。レストランとかに行くんじゃないのか?」


「まあ私達って結構有名だし、一応、ね。お金が余ってたから家を借りたの」


「なるほど。有馬さん、先にどうぞ」


「はっ、はい! お邪魔します……」


 緊張しているのか、俺の方にペコリと頭を下げてから建物の中に入っていく。

 

「なんでわざわざこんなところに?」


「外よりは閉じられた空間の方が素が出しやすいかなって。ノノちゃん人が多いところ苦手だし」


「なるほど。まあ俺は呼ばれただけだからな」


 建物に入ると、短い廊下の先にファンタジーの世界観には似つかない、現代らしいソファーやカーペットのしかれた部屋があった。

 

「現実か?」


「虹の館の拠点、みたいなところ。ほんとは別の所にあるんだけど、その見た目だけコピーしたの」


「そんなのがあるのか。ギルドハウスみたいなもの?」


「そうそう、そんな感じ。ほら、ノノちゃんが待ってるから」


「はいはい」


 促されて、部屋の奥のソファーの方へと行く。先に部屋に入った有馬さんは、座ること無くソファーの近くに立って待っていた。

 

「さ、二人共座って。飲み物とかお菓子とか持ってくるから。あ、アマツさん仲良いモンスターがいるなら召喚して良いよ」


「良いのか?」


「別に汚れるわけじゃないしね」


 そういえば確かにそうである。現実では外で飼っている犬をそのまま部屋に入れることは無いが、ここはゲームの世界なのである。

 

 ガブちゃんを呼び出し、神代さんのいない間に自己紹介をしておこうと有馬さんの方を向き直ると、なぜかガブちゃんの方をじーっと見つめていた。

 

「……撫でます?」


「あっ、えっ、い、良いんですか?」


「はい」


 ガブちゃんの背中を押してやると、察し良くトコトコと有馬さんの所に行って甘える。いつもの三割ましで柔らかな表情をしているのは気の所為では無いだろう。

 

「柔らかい……」


「はい、おやつとか持ってきたよ~、って早速やってるね」


「はい、どうも。いただきます」


 神代さんが机の上に並べてくれた皿の上から、フライドポテトを数本つまんで食べる。うん、おいしい。

 

「はうぅ~」


「めっちゃ気持ちよさそうだな」


 珍しくガブちゃんが気持ちよさそうな声を出している。有馬さんの撫で方がうまいのだろう。適当にガシガシ撫でる俺とは大違いだ。

 

「ノノちゃん動物大好きだからね~。ノノちゃん、自己紹介した?」


「あ、まだしてない……」


 アワアワと慌てる有馬さんの顔を、ガブちゃんがぺろりと舐める。ひゃう、と可愛らしい悲鳴を上げる有馬さんに、つい笑ってしまった。

 

「それじゃあ私の方から」


 有馬さんの隣に座った神代さんが、互いに互いの事を紹介してくれる。

 

「ノノちゃん、こっちがアマツさん。で、アマツさん、こっちが有馬ノノちゃんです」


「よろしく。アマツと言います」


「よ、よろしくお願いします」


 互いにペコリと頭を下げる。その間にガブちゃんは俺の足元に戻ってきたが、それを見た有馬さんは『あっ』と残念そうに声を上げた。

 

「まだ撫でます?」


「あ、えと……」


 コクリと有馬さんが頷くので、もう一度ガブちゃんを送り出してやった。撫でる有馬さん、撫でられるガブちゃん共に心地よさそうな顔をしている。

 

「それで、神代さん」


「桜綺で良いってば」


「どういう話になったんだ?」


 俺がそう言うと、ガブちゃんを撫でていた有馬さんが神代さんを抑えて答えてくれる。

 

「あの、その、会ってすぐにお願いするのも迷惑だと思うんですけど、私と友達になってくれませんか?」


 『仲良く配信するなら、まずは友人から』という俺の言葉を素直に受け取ってくれたのだろう。なんというか、素直な子だ。いやまあ確かに言ったのではあるが、正面から友人になってくださいとは。

 

「ぶふっ」


 俺がどう答えようかと少し迷っている間に、有馬さんの膝の上からガブちゃんを奪っていた神代さんが吹き出した。

 

「ちょ、ちょっとサーヤちゃん!」


「ごめ、だって、ノノちゃん、それ下手くそな告白みたいで……」


 アハハハハハッ、と、大きな声を上げて神代さんは笑う。ぎこちなく俺に友達になってくださいと切り出した有馬さんは顔を真赤にしている。

 

「なる、ほど。ふっ」


 俺は真面目に答えようとしたのだが、神代さんの笑いにつられてつい笑ってしまう。

 

「もう、アマツさんも!」


「いや、失礼、ちょっと今のはずるいでしょ」


 必死に笑いをこらえて、有馬さんの質問に対して答える。

 

「よろしくお願いします」

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