26.呼ばれたので

「よし、朝のレベリングはここまでにするよ。いや、また夕方ぐらいからすると思う。ちげーよずっと引きこもってる俺に彼女がいるわけないだろ。お仕事の話だよ。まあそのあたりは、決まれば話すし決まらなかったら触れないんで、そういうことだと思っておいて」


 神代さんと話した二日後。朝早くから配信を始めて、昼前には一旦終了した。早速神代さんから連絡があったのだ。

 

 配信を停止し、近くの公園のベンチに座り込む。俺が座るとガブちゃんがすっと膝の上に頭を乗せてきたので、ガシガシっと撫でてやる。

 

 ゲームの方はここ二日ほど、レベル上げと防具作りなどに勤しんでいた。後は主に、新しく来てくれる人が増えたので昔の企画の説明をしたり、時にはそれぞれの企画で使っていたキャラクターを動かしてみせたりもした。


 神代さんにはあんな風に言ったが、すでに関わってしまっている以上俺の動画にも新しく人が流れ込んできている。特に今は配信をしているからか、動画は見ないが配信は見る、という層の人がかなり増えているように思う。

 

 そういう人たちが新しく来たときにいつもどおりゲームで遊んでいると『こいつ何やってるんだ』と言われる可能性が高く、実際何回かそういうコメントが流れては元から見ていた視聴者の人がコメント欄で答える、ということが繰り返されていたので、しばらくは丁寧に対応することにしたのだ。

 

 まあいきなり人の配信に来てはそんな事を言う人は稀だとは思うが、来るもの拒まずということで、他の人には断ってそういうこともやってみている。元から見てくれていた人も懐かしみを持って見てくれているので、今の所はうまく行っているようだ。

 

「さてと、時間までは後三○分か」 


 今日の集合場所は、なぜか先日のようなVRライフではなくこの『鋼の大地』の中を指定された。あの後少しだけVRアイドルというものについて勉強してみたのだが、彼女らは現実の姿を一切見せず、VR上にある仮想の体を使って配信やアイドル活動を行っているらしい。

 

 そのため、色々なゲームをすることも多いらしいがその全てにおいて同じ見た目のアバターを作っているそうだ。つまり、彼女たちがプレイしていれば、VRライフだろうとこの『鋼の大地』だろうと、『ワールド・エンド・ファンタジア』であろうと、会うことが出来るのだ。

 

 流石にVRではないゲームにおいては自分ではないキャラクターを作ることも多いらしいが、その場合はコントローラーを操作しているものとして彼女達の姿が見えるようになっているらしい。

 

 素直な感想としては、『よく考えてるなあ』というところだろうか。VRゲームであれば、戦ったり、ゲームに則った行動をしているのは彼女らだ。だがコントローラーでするゲームにおいては戦っているのはキャラクターであって、彼女たち自身ではない。そのあたりを上手く区別している。

 

「うーしうしガブちゃんそろそろ行くぞい」


 集合場所は始まりの街にしようという話になった。というのは、俺の現在のレベルでは先の方の色々な街や村に行くことが出来ないからだ。もっと高レベルで訪れるエリアには、秘密の店のような人の少ない場所があったり、そもそもそれぞれのエリアに特化した村や街が多く、人がそれほど集まっていない。

 

 一方で、今俺のいる花の村の一つ前の街、言ってみれば二つ目の街は他への接続が良く何をするにも便利なので、人が多いのだ。

 

 また今俺のいる花の村では駄目なのかという話になったが、嫌な気配がするので他の場所にするようにお願いしておいた。

 

 結果、完全に初心者用の場所となって過疎化している始まりの街が選ばれたのだ。

 

 メニューウインドウからマップを開き、始まりの街へと移動する。

 

「そんな時間経ってないけど、この光景はなんか懐かしい気もするな」


 始まりの街は如何にもファンタジー然とした町並みをしている。他の街や村も一応系統としてはファンタジーであるのだが、プレイヤーがいるということもあって雑多な印象があるのだ。プレイヤーの所持している店は現実の店に似ていたり派手だったりするのである。

 

「あ、アマツさんいた! こっちこっち!」


 連絡が来ていないかと確認していると、道の反対側から声をかけられる。そちらを見ると、大きな帽子を被った二人の少女がいた。一方の少女がこちらに向かって大きく手を振っている。

 

「この前と一緒の服で来てくれないと見てもわからないだろ」


「私の方はわかるから大丈夫だよ」


 近づくとたしかに先日会ったときの神代さんと同じ容姿をしていた。目深にかぶった帽子と、先日のお腹の見えそうな服とは違う

 

「なーにじろじろ見ちゃって。私の可愛さがわかった?」


「服装ですごい印象変わるなと思っただけ。それより、そちらが……?」


「そうそう、ノノちゃんだよ。ここで帽子とっちゃうと騒ぎになるかもだから、とりあえず家に行こ」


「家?」


 俺の疑問も気にせず、神代さんはこっちこっちと、俺と有馬さんを連れて歩き出した。

 

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