第23話 対面
神代桜綺、読み方を本人に確認したところ『かみしろさあや』と言う人から連絡を貰った翌日、昼間の配信をやめて時間を作り、『フリーライフ』というVRライフの空間に入った。
VRライフとは、現実ではなくVR空間に現実に近い建物や店、公園など生活環境を作ったものを指す。VRMMOとの違いは、VRライフは無料のものであり、戦ったりと言った特殊な行動ではなく、ただ人と出会ったりすることに使える仮想の空間、という程度の出来しかないという点だ。
友人と遊びたいならVRMMOの方がいいが、普段ゲームをしない人や違うゲームをしている人同士が仮想空間で会いたいというときには重宝するのである。
「こんにちは」
指定されたカフェの個室に入って待っていると、一〇分程して一人の女性がやってきた。長めの金髪を横でまとめ、ホットパンツとノースリーブのシャツと活発そうな格好をしている。
「こんにちは。アマツと言います」
立ち上がって彼女を迎え、同時に席に着く。
「初めまして、神代桜綺と言います」
偏見かもしれないが、明るい、言ってみればやんちゃそうな服装をしている割には丁寧な挨拶だった。
「何か飲みますか?」
席についた彼女が、机の横のボタンを押してホロウインドウを操作する。このカフェは雰囲気を楽しむ場所ではなく、外で会っていると目立ってしまう人同士や仕事の相談などに使われる場所なので、飲み物や料理もAIの店員が運んできてくれるのではなく注文するとすぐに出現するようになっている。
「おまかせします。あんまりこういう場所に慣れてないもので」
「わかりました。じゃあとりあえずコーヒーだけ頼んでおきますね。ブラックで良いですか?」
「大丈夫です」
彼女が注文すると、部屋の隅に置いてあった台の上にコーヒーのカップが二つ出現し、トレーによって机の方へと運ばれてきた。
「突然連絡してすいません。今日はどうしても話したいことがあったので」
「いえ、大丈夫です。今は特に忙しくもないので。それで、今日はどのようなご用件でしょうか。動画に関すること、というのは聞いたのですが」
昨日の連絡の主題は今日会って話したいことがある、ということだったが、そのときに、『話したい内容は色々とあるが、簡単に言えば動画、配信に関する依頼である』ということは聞いていた。
「そう、ですね。とりあえず本題から説明させてもらうと、コラボ配信をしませんか、という相談です」
「コラボ配信、というと二人で配信をするとかそういう感じですか?」
「そうですね。それぞれが個人で活動している配信者が、二人以上で話したり一緒に何かをしたりするという感じです。こんな感じですね」
そう言って神代さんはウィンドウを開いて動画を見せてくれる。その動画の中では、神代さんと有馬さん、そして他の数名の配信者が一緒に動画に出ていた。
「なるほど。それで動画関係の話と言ってたんですね」
「はい。いくつか事情も説明させてもらいたんですけど、良いですか?」
いくつか疑問もあるので、まずは説明を受けることにする。
「まずコラボって言ってますけど、私とじゃあ無いです。コラボしてもらいたい相手は、有馬ノノです」
「有馬さんですか」
ならなんで神代さんが来るのか? という俺の疑問を表情から読み取った神代さんは、小さく笑って続きを説明してくれる。
「なんで私が来るのか、って顔ですね。もう少し説明したいことがあるので聞いてくださいよ」
「わかりました」
「まず、先日ノノがしたモノローグでわかったかも知れないんですが、あの子はアマツさんのファンなんですよね」
「なるほど」
「それが今までは見てるだけだったらしいんですけど、先日はあなたから返信が来て大分嬉しくなっちゃったみたいで……、最近配信の手がつかない感じになってるんですよね」
「つまり、有馬さんが俺の動画を好きなので会ってみてほしいってことですか? それ逆効果な気がしますけど」
俺がそう言うと、神代さんの表情が固まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます