第22話 変化

「はい、今日もちょっと遅れたけど生放送始めます。はい、プラモデルやって夜ふかししてたせいで遅くなった」


 寝起きでログインして、放送を始めてから色々な設定を弄る。

 

「はい、えーと……ケルヒャーくんと二日酔いさんはカメラをお願い、します。で、豆チン○くんはコメントの管理をよろしく。暴走しないでくれよ」


 いつもどおり昔から見てくれていて信頼できる視聴者に色々と頼む。

 

「あー、そう言えば、昨日他の人の配信で見てみたんだけどさ、スーパーチャット? っていうのがあったんだけど、あれは視聴者の側から放送している人にお金を送れる、っていう感じなのか?」


 ガブちゃんを呼び出してモフっていると、昨日有馬さんの配信を見ていて気になった事を思い出す。時折コメント欄に色々な枠で強調されたコメントが流れ、それを見た有馬さんが感謝を述べていたのだ。

 

 その事を尋ねたのだが、『配信見たんですね』『どなたの配信ですか?』『むしろ今まで投稿者やっていながら配信見てなかったのか』といった、俺の行動を評価するコメントばかり増える。

 

 どれだけ心配されていたのだ。


「有馬ノノさん、って俺の動画を拡散してくれた人いただろ? せっかくだから見てみようと思ってな。まあそれは良いんだけど、そのスーパーチャット、っていうのは俺もやってみても良いのかな?」


 『申請しないといけなかったはず』『今の所殆どの人がしてますし、良いんじゃないですか?』『むしろ今まで無かったことが(ry』など概ね肯定的な意見が多い。

 

「それじゃあ入れといて見るかあ。あ、送ってもらったお金は貯金したりとか、俺の趣味の足しにすると思う。一応、そこは。動画のためっていってもゲームの月額がメインだし、それぐらいなら今の収益でも払えてるから。新しくもらえたものは、どっか出かけて何かしてきたりとか、まあ俺の貯金の一部として使う、って感じで。え、いくらぐらいあるのか?」


 お金を送ってもらおうというなら誠意として使いみちも言っておくべきだろう。そう思って丁寧に説明したが、視聴者としてはそれは割とどうでも良く、むしろ俺の収入や貯金の方が気になるらしい。

 

「言わないだろ普通。え、言わないよな? 普通は。まあ言っても問題は無い気はするけど……とりあえずセオリーがわからないので秘密で」


 その後若干ふざけ気味のコメントを無視して、スーパーチャットなどのシステムも今後できそうならどんどん取り入れていくという説明をしておいた。

 

「はい、今の話は一旦終わり。今日は花の迷宮の続きやっていくよ。目標は今日中の踏破ってことで。行くぞいガブちゃん」


 ガウッと元気に吠えるガブちゃんを連れて、今日もダンジョンへと挑む。さてさて、今日はどんなモンスターに出会えるだろうか。

 

 ボスがダンジョン内の植物より気持ち悪いと、この花畑そのものがトラウマになってしまいそうだ。

 


******



「うーあ、疲れたあ」


 ダンジョンの攻略は思っていたよりも長引いた。マッピングに時間がかかったわけではない。ボスのいる部屋の発見自体は早々に出来たのだ。ではなぜ時間がかかったのか。

 

 それは単純に、ボスに勝てなかったからだ。難易度が高くないとはいえダンジョンは本来パーティーを対象としたものであり、適正レベルで一人で挑むと厳しい戦いになるのだ。

 

 おかげでボスとの戦いを、初戦、分析のために勝ちを捨てた戦いを含めて六度繰り返すことになってしまった。

 

「普通にやってソロってのはしんどいな。まあやりがいはあるんだけども」


 今の俺は、一点も誇れる、圧倒できる場所がない。言ってみれば、平均すぎるために活用できる長所が無いのだ。その結果、必然戦いは長期戦となる。

 

 丁寧に丁寧に相手の攻撃を避けながらちまちま削っていくという地味な戦いになるのだ。相手が範囲攻撃や拘束攻撃を使ってくることもあって、なかなかにシビアな戦いになった。

 

「うん、今日はちょっと早いけどここで終わりにします。色々やってみてる最中なんで短いのは許してくれ。というかあれか。配信の時間を夜に回したの方が良いのか? 見る人も昼間に配信されるよりは夜にした方がありがたかったりする?」


 俺がそう尋ねると、当然だ、と言わんばかりのコメントが返ってくる。

 

 『夜の方が自分の時間が多いですしね』『昼間は見れる時間も限られるしなあ』『人数も相当違うのでは?』といったコメントがほとんどだ。実際夜になると人数は四倍近くに跳ね上がったりする。そう考えると、俺の趣味は昼間にしておいて、夜にゲームをした方が良いのかも知れない。

 

「まあそのあたりも明日から変えてみます。じゃあ今日はこれで。おやすみなさい」


 最後まで見てくれた人に礼を告げて放送を終了する。

 

「よーしプラモいじってみるかあ。とその前に……」


 今日昼間視聴者から注意を受けたことを思い出し、Monologerを確認する。なんでも個人的な連絡がDMに来ることもあり、ただのファンからならば答えなくても良いのだが、有名な人や仕事の話だったりすることもあるらしい。

 

 プロフィール欄でDMによる連絡を受け取らないと明記していない俺はちゃんと確認をしておいた方が良いということだった。確かに、そのあたりの発想は抜けていた。

 

 Monologerを開いて確認すると、そこそこの数のDMが届いていた。大体は視聴者からの応援のメッセージだったり、俺が有馬さんに紹介されたことに対して、『金を払ってまで拡散してほしいのか』と言ったような、関係を邪推するようなメッセージ、ただ俺の動画を批判するメッセージだったりした。

 

 だが、その中で一つ、非常に丁寧なメッセージがあった。

 

「『初めまして。突然の連絡申し訳ありません。虹の館所属の配信者の神代桜綺といいます。ご相談させていただきたいことがありますので、お時間を作って頂けないでしょうか』……。虹の館、っていうと、有馬ノノさんの名前にもついてたよな?」

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