第16話 極振り後語り-防御力極振りビルド

「『防御力極振りビルド』は、結構どのゲームでもやってる企画だね。ただ、大成功するときと、変な感じになるときの二パターンがあるんだ」




 自分の動画に関するメモを読み返しながら、『防御力極振り』企画に関して説明する。




「あ、新しく来てくれた人たちに説明しておくと、極振りっていうのは、『極端にステータスやスキルを一つの分野に振り分ける』ことで、何かに特化する事を言うんだ。特化じゃなくて極振りっていうのは、本当にそのことにだけ割り振るから。今回でいえば、全部防御に割り振って、攻撃とか回避とかは一切考えないことだね」




 特化、というと、普通に暗殺特化ビルド、や魔法火力特化ビルドなんてものが存在するので、それと区別するためであると説明する。




「で、さっきも言った通り防御力への極振りはだいたい二パターンに落ち着くんだ。一つは、手軽に取れるデバフ系スキルで耐久勝負の削り合いをしたり、カウンターとかで防御力を火力に変えてぶん殴るっていう、『防御力特化だけど、スキルの組み合わせで結果的に火力も発揮して敵を倒すことが出来る』っていうパターン。まあこれの方が極振り企画としては、極振りが十分に機能して無双している状態だから美味しいよね」




 説明をすると、主に新しく来てくれた人たちから『わかりやすい』『なんか面白そう』といったコメントが寄せられる。そう言ってもらえると俺の企画の魅力が伝わっているようで嬉しい。




「昔やってたワールド・エンド・ファンタジーとか、イレイリアの空とかだとこっちだったね。というか、その二つはステータスを防御に全部振って防具も揃えてスキルで防御力強化系を取ったら『何に殴られても攻撃が通らない』っていう無敵な状態になったからね。本当に無双だったよ」




 ただこの鋼の大地だと結構違ってね、とメモを読み返しながら笑う。




「このゲームだと、まず防御力特化のタンクにしたときに攻撃出来る手段が無いんだ。デバフ系も他に幾つかスキルだったりステータスが必要だったりで使えなかったし、カウンターもそんな火力が出るものじゃなかったからね。ただまあ硬さはちゃんと発揮されてたね」




 その結果俺が何をしたかと言うと、と、カメラを新しく用意して、俺が以前作った動画の戦闘シーンを流す。




「今新しいカメラで流してるんだけど、俺を囮にして、自分ごと焼き払ってもらう事を考えたんだ。これが、まあ結構刺さったね」




 両手に巨大な盾を一つずつ持って、俺が一人高台の上から下へと飛び降り、モンスターの群れの中へと入る。そしてモンスターの攻撃を防ぐ俺を起点に、炎が、雷が、氷の嵐が、爆発するように吹き荒れる。




「今流してるのは、『暗き者たちの墓場』っていうパーティー用ダンジョンで、上の階層から下の階層が見下ろせるっていう構造になってるんだ。見下ろせるって言っても、上から打ち下ろしてもダメージを与えられないっていう仕様なんだけど」




 再び画像を切り替え、暗き者たちの墓場の映像を流す。コロシアムのような円形の闘技場の中には隙間が無いほどモンスターが詰まっており、それを上から数名のプレイヤーが眺めている。




「けど、魔法に関して言えば中に入り込んだ味方を起点に範囲魔法を発動すればダメージが与えられる。だから、六人中俺が一人飛び込んで、敵の攻撃を全部くらいながら仲間の魔法使い五人の攻撃も全部耐えきって敵を殲滅するっていう、まあその、ちょっとマゾい戦い方が出来るんだ」




 映像の中の俺は『ようし来い!』『まだまだあ!』など叫びながら、味方の魔法に焼かれ続けている。こうして見返すとなかなかに恥ずかしい。




「まあこんな感じで、若干ネタ臭の漂う企画になったって感じかな。あ、これに関しては珍しくほとんどナーフ受けなかったよ。せいぜい防御力極振りのときのダメージ減衰が緩和されたぐらいかな。あのときの俺は生半可なレイドボスの必殺技食らってもケロッとしてたし、流石に硬すぎたからね」




 『聞いてる限りではガチで運用してる人もいそうだけど……』『他にやってる人はいないの?』などといったコメントが寄せられる。俺も当時、ナーフがこの程度で大丈夫かとも考えたが、運営がそう判断したということは使われても問題が無かったということだと判断し、自分で考えてみたのだ。




「いや、これ別にそんなに使えるわけじゃないんだよな。特にレイドとかの最上位コンテンツになるとさ」




 レイドとは、パーティー用ダンジョンよりも更に上位の、より大人数による攻略を前提とするコンテンツだ。一般的にはトッププレイヤーとは認識されていない、『ただ強く、勝つことだけを意識した本当の猛者たち』がこぞって挑む場所だ。




「まず一つ目に、レイドクラスのモンスターのヘイトを取れないんだよね。こいつの火力だと。レイドはヘイトの仕様も違うしね。だから多分、タンクとしてめちゃくちゃ役に立つかというとそうでもない。これしてる人が一人生き延びた所で大した意味は無いしね。もしかしたら範囲で全員焼き切られて、これが一人残されて死ぬまでボコられる、っていう展開もありえる」




 このゲームはタンクに関してはなかなかいいバランスをしているのだ。




「後はカバーリングっていう味方のダメージを肩代わりする技もあるんだけど、それを使ったときって、『自分の防御力でその攻撃を受けたときのHP減少を見る』んじゃなくて、『本来受けるはずだったダメージを自分のHP減少で受け止める』っていう仕様だから、俺の防御力が高くてもそんなに役に立たないっていうか、なんなら体力にはあんまり振ってないから、俺が一撃死する可能性があるっていう、まあ、これまたギャグみたいな感じになってしまうんだよな」




 これも当時は、可能性の一つとして考えたのだ。というか、むしろ自分の防御力で味方の受けた攻撃を肩代わりする仕様ぐらいにはしていてほしかった。自分が攻撃できない代わりに、味方が十全に攻撃出来る状態になれば、まだ使いようはあったのだ。




 ダメージ減衰を低下させたのだから、それぐらいあっても良いとは思う。範囲攻撃を受けた味方を全部カバーすれば流石にHPがどんどん減るだろうし、バランスブレイクというほどのものでもないはずなのだ。




「まあ、そういう反応になるよね。これはいつもの『極振り無双』と違って、『極振りしたけどこれじゃない』っていう企画だったから、ネタっぽい感じになったけど、まあこれはこれでありってことで。動画にする時は前のと違ってちょっと笑える感じで編集するよ」




 後はこんな感じかな~、と、以前の動画を見返しながら思い出を語っていく。前回の『極振り後語り』では要点にしぼって説明したが、それよりももう少しゆっくりで良いから、いろんな場面の思い出を話してほしいとたくさんの人に言われたので、今回はその方針でやってみることにしたのだ。




 これはこれで、俺自身が自分の思い出を辿れて悪くない。どんどん次のことへと進んでいるので、以前したことはやりっぱなしになっている事が多い。




 それを後から見返すことが出来るので、自分の中でも整理がついて良いのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る