第15話 どうも働きすぎらしい

 基本的に動画投稿者のMonologerのフォローの数は、チャンネル登録者の半分以下、になると聞いたことがある。それを考えると、彼女のチャンネルの登録者は六〇〇万人以上ということだ。ちなみに俺は三〇〇〇人である。まあ動かしていなかったので当然だろう。

 

 ただ、VRアイドル、というのに俺はあまり詳しくないが、それが動画や配信とは別の方向からのフォロワーを呼んでいるのかも知れない。それにしても俺よりも遥かに大きな人ではあるのだが。

 

「すごい褒めてくれてる……昔から見てくれてたのかな。こういうときってお礼言ったほうがいいよな?」


 ずっと動画を投稿していてなんだが、こういう形で誰かと関わったことがほとんど無いのでどう対応すれば良いのか悩む。動画投稿を初めてすぐのころはゲーム会社などから仕事をもらったこともあるのだが、俺の動画のスタイルが固まるに連れて『この人は違うな』となったようで仕事をもらえなくなっていったのだ。

 

 『ちゃんとお礼を言ったほうがいい』『言うのが当たり前』『見たなら言っておいたほうが良いですよ。あちらのファンは怖いです』など、言わないと大変なことになる、といったコメントが寄せられる。

 

 問題を避けるために礼を言う、というのはあまり良いことだとは思わないが、今は感謝の気持よりも戸惑いの方が大きい。とはいえそれを口に出すのはやめておこう。


 幾度か書き直しながら感謝の文章を考え、それを彼女のモノローグへの返信として送る。あたりさわりの無い感謝の言葉と、以前から見てくれていたのか、という質問を送っておいた。

 

「よし、これでOKかな。Monologerやっておいた方が良いのかな。見てる人はあると便利?」


 そう尋ねると、他の人はこういう使い方をしている、こういう事を発信してくれたら嬉しいかも、といった内容のコメントが送られてくる。

 

「あー日常の事とか動画のちょっとした事とかを発信するのはなんとなくわかるんだけどさ。俺の場合は全部を動画に入れてるから動画に関して言うことはないし、ゲームと編集以外にしてることなんて無いしな。新しいゲームの情報集めるぐらい、だしそんなの発信しても、なあ」


 そう、確か以前もそんな感じで使うのをやめたのだ。動画の宣伝のために発信をしようと思っていたが、動画チャンネルの登録者よりもMonologerのフォロワーの方が遥かに少なく、また動画で発信すること以外に発信することがあるわけでも無かったので使う利点が見いだせなかったのである。

 

「あー漫画とかアニメか。まったく見てないんだよなあ。うん、だってゲームで遊んでるし、それが楽しいからな」


 俺が自分の日常についてサラリと話すと、コメントが加速する。

 

 『待って、ゲームって撮影のことですよね?』『ゲームと編集しかしてない……? 趣味とかは無いんですか?』『休日は何してるの?』

 

「休日、は最近は取ってないかなあ。ああ、たまに寝る前とか食事の間に論文呼んだり本読んだりはするかな。でもどっちかって言うと漫画とかより科学とか自然の研究関係が多いかな。いや、別に専門家みたいな事をしたいわけじゃないけど、色々知ってると楽しいでしょ」


 俺がそう答えると、『ええ……』『全然日常を出さない人だとは思ってたけど、それほどとは』『それってずっと仕事してるってことだよね?』『もう少し自分を大事にしてください』、といった、俺の事を気遣うコメントがあふれる。

 

「いや、でもゲームしてるのが一番楽しいからなあ。本とか論文読むのは、ずっとゲームしてるだけじゃ悪いからやってるってのもあるしやめるつもりは無いけど」


 多分、見てくれている人からしたら俺の生活は一日中仕事をしているように映るのだろう。だが、俺にとっては少し感覚が違うのだ。スポーツ選手はスポーツを仕事でしているが、それと同時にスポーツを好きだろう。

 

 多分俺は、その度合が人よりも強いだけなのだ。仕事としてゲームをしているだけで心までが満たされ、安心する。だから休むという行為を必要としない。

 

「でかけたり、は実家帰ったときに家族とするぐらいかな。後はゲームの中でもいろんな所にいけるし、運動する以外にはそんなに……一緒に遊ぶ人もいないかなー。もう昔仲良かった人も疎遠になっちゃったし。うぬ、そんなにやばいのか」


 俺の現状を話す程に心配されるメッセージが送られてくる。

 

「でもこの企画とかはさ、俺は全く気を使ってないわけよ。休憩したいなって思ったら公園でぼーっと座ったりもしてるし、美味しいものも食べに行ってるし。いつももこれほど自由じゃないけど似たようなことしてるし、やめたいなって思ったことはあんまり無いかな。企画によっては早く次に切り替えたいって思ったこともあるけど」


 それでも心配するコメントや、それでは心が知らない間に疲れるのでは無いか、というコメントが多く送られてくるので、せっかくだし新しいことに挑戦してみることにした。


「うーん、とりあえずじゃあ今日から、ゲームとか動画から離れる時間は作ってみようと思う。うん。作る。だから、そこで何をしたら良いかっていうのを、今から俺がモノローグするから返信してみてほしい。まあモノローグを使う練習も兼ねてっていうことで。この漫画面白いよ、とか、この分野の研究が面白くて、とかなんでもいいからさ。工作でも良いし、プラモデルでもいいし、俺が楽しめそうなものを送ってみてください」


 これなら、モノローグの仕様の把握も含めてやることが出来る。

 

 俺がモノローグすると同時に返信がどんどんと増えていき、またフォローしてくれる人も増えていく。これにフォローを返したほうが良いのかなどはよくわかっていないので、そのあたりも後で勉強してみようと思う。

  

「よし、じゃあとりあえずMonologerの話は一旦これで終わりで。返信も……来てないね。後でもう少し勉強してみる。他の有名な人はどんな使い方してるかとか」


 まあ俺は有名な人自体ほとんど知らないのだが、フォロワーが多い人を探せばわかるだろう。

 

「それじゃあ今日も極振り後語りを一つだけして、またゲームに戻りたいと思います。今日はどうしようか。ほんとはこのゲームの『防御力極振り』について話そうと思ってたんだけど……あれはそんな派手じゃなかったからなあ。せっかく新しい人達が来てくれてるんだけど……まああれはあれで面白かったし大丈夫か」


 新規の人には少し退屈かもしれないが、極振りにはこういう側面もあるという話としては丁度いいだろう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る