第14話 拡散されてたみたい
「儂の息子が花の迷宮に入ってから戻っておらんのじゃよ」
村に戻った後、とりあえず村にいるNPCから受けられるだけクエストを受ける。以前街でも同様にすべてのクエストを受けたのだが、そのときには『ひたすら似たような行為を繰り返す系のクエスト』を頼まれた。要するに何回でも出来る金を稼ぐためのクエストだ。
そういうクエストは別にやろうとは思っていないのであまり受けたくなかったのだが、この村にはそういうタイプのクエストは無いらしい。。
「なるほど。花の迷宮というのはどこにあるんですか?」
「この村を出て東に行ったところじゃ」
「わかりました。じゃあ俺が見てきますよ」
いつものようにNPCの要望に答えると、クエストログが更新される。クエスト名は『花の園に眠るもの』。
クエスト名からして老人の息子は死んでいそうだ。NPCとはいえ死なれるのはあまり気分が良いものではないのだが。
「うぬ、よし、それじゃあ幾つか簡単なクエストをやってから雑談しよう。その後はこの周辺を回ってみるってことで。あー今日はまだやめないよ。けどせっかく人がいっぱい来てくれたなら話したほうが良いのかなと思って。何を見に来てくれたかも気になるし」
何を見に来てくれたか、によっては対応を気をつけないといけない。気楽にやっていく企画とはいえ、あくまで仕事でもあるのだ。そういうところが気になってしまうのも仕方がないだろう。
******
「このあたりはモンスターいないみたいだな。クエストも全部配達系か修理系だったし……。ほんとに花畑しかない感じか」
それはそれでどうなんだ? という疑問を口にする。二時間ほどこの花の村のクエストをこなしてみた。その過程で村の外に配達に行ったりもしたのだが、一回も村の外でモンスターを見かけることは無かった。採取系のクエストも無い。本当に村と花とNPCしかないのだ。
いくら景色が綺麗でも、これでは人が集まらないだろうに。俺がそう思っていると、コメントで思わせぶりな台詞がたくさん届く。
「俺がなにか見逃してるのか? 花の迷宮、っていうのは後で行ってみるとして……。まあそのうちわかるか。ひとまずご飯食べよう」
気持ちを切り替えて食事の出来る店に向かう。何もない気がする、と嘆くのではなく、何か無いかなあ、と楽しみにしながら進むのだ。
「このお店が良いけど、人いるかな」
中に人がいると配信するのが迷惑かもしれないからねえ、とコメントに返しながら、気になった店の中を除く。村周辺には人がある程度はいたが、店の中には人はいないようだ。これなら中で配信しても迷惑をかけることはない。
「おうふおしゃれな店だと思ったらサラダ系がめっちゃ多いな。後はスイーツ。食事する場所っていうよりはカフェみたいな感じだな」
とりあえずブラックコーヒーとケーキを二つほど頼む。ひとつあたりが大きくないとコメントで教えてもらったのて二つにしておいた。チーズケーキとショートケーキだ。花の中にある村にはふさわしい店かもしれない。
「とりあえず俺の方から聞きたいんだけど。見に来てくれてる人の中で初めて来た、とか、動画はほとんど見てないけど配信見に来てみた、っていう人はどれぐらいいるんだ? 昨日の今日で人数が一〇倍近くまで膨らむのは尋常じゃないと思うから、何が理由か気になってさ」
そう尋ねると、『Monologer見てない?』『Monologerで話題になってたよ』『これどうぞ(URL)』といった、原因はMonologerというSNSにあると教えてくれた。
「Monologerは今は使ってないかな。このチャンネルのアカウントも一応あるけど、このチャンネルでメッセージの発信からコメントを受けるのまで全部できるからさ」
一昔前までは、SNSと動画投稿サイトは別で、文字による発信や些細な報告はSNS、動画自体は投稿サイトに投稿するというのが普通だったらしい。だが、最近では動画投稿サイトがより包括的な、『動画だけでなく文字の発信も簡単に出来る』ものへと変わったのだ。
例を言えば、俺が先日取ったアンケートも昔はSNSで取っていたらしいが、今は動画のチャンネルで取ることが出来るのである。
俺自身は動画にすべてをつめて発信する方針なこともあって、一時期はSNSも使ってみようとしたのだが全て撤退している。
「ちょっとそのモノローグ見てみる。あ、ログインしないと見れないのか。パスワードなんだったっけ……」
個人情報が流れないように一時的にカメラをオフにして『Monologer』というSNSもにログインする。文字を含んだ発信においては今最も人気なSNSらしい。
「あーこれか」
送ってもらったURLをたどると、そのモノローグはすぐに見つかる。『有馬ノノ/虹の館』という人が、俺の先日上げた極振りの後語り動画を取り上げ、絶賛してくれたらしい。
「わ、この人いいねが八〇万いってるぞ。いいねってそんなにいくもの? 誰だろ」
どうやら相当に有名な人らしい。その人のプロフィールに行って確認すると、VRアイドル兼配信者として活動している人のようだ。彼女のアカウントをフォローしている人は三〇〇万人以上。俺とは随分規模が違う方のようだ。
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