第13話 Welcome to Flower Garden!
一面に続く花畑の中を少し行くと、傾斜が穏やかな場所に村があった。素朴な木の建物がメインで、全体的に屋根が低い。この花畑によくマッチしている。街の柵や屋根には植物の蔓が使われているように見える。
「着いたな。村も綺麗だ」
先程出てきた街ほど大きくはない。ここはあくまで先の街へと続く道の中継地点なのだ。
村に入って一息ついたところでコメントを軽く眺める。
「『雨が降った後に来るとめっちゃ綺麗。絶対見に行ってほしい』。ほう? 雨が降った後か、どうなるんだろ。気になるから今度雨が降ったら……」
そう返そうとした俺の鼻にポツリと何かがぶつかる。少し冷たい。
「おっ、降ってきたみたいだな。いいタイミングだ」
雨が降ったら、という話をしていると、本当に雨が振り始めた。ポツポツとした降りは、やがて激しいものとなり服を濡らす。濡れてもすぐに乾くので俺が気にしていない。というかむしろ気持ちが良くて好きだ。
ガブちゃんはどうかと見ると、やはり雨は鬱陶しいようで落ち着かなげに俺の足をつついてくる。
「屋根の下に行くか」
ガブちゃんが雨を嫌がっている様子だったので、一緒に近くの屋根の軒下に避難する。食事を取れる場所もあるようだが、今は雨が降り止むタイミングを逃したくない。
5分ほどで雨があがったので、コメントに指示されるとおりに村の近くの丘の上へと駆け上がる。
少し待っていると空を覆っていた雲が流れて消えていき、花畑に日の光が戻ってくる。すると、雨の下で蕾となっていた花が一気に開花し始めた。
「これか……! まじで綺麗だな」
ただ晴れているのではなく、雲の切れ間から日の光が指しているという幻想的な風景の中で一気に緑の中に花の様々な色が開いていくさまは非常に美しい。
「教えてくれてありがとう。これは、見れてよかったわ」
目の前の光景に見とれながら返すと、視界の隅で配信のコメントのログが加速する。
『違う』『まだ』『今からですよ』『目を離さないで』。ここで終わりではないと一様に言われ、目の前の光景から目を離さないようにする。
頭上から雲が全て消え、一面が最初の、遠方にわずかに雲が見える程度の晴れ空に変わる。
すると、俺の背中の側から風が吹いた。風は、色とりどりの花びらを一気に巻き上げる。視界が、色とりどりの花びらで埋め尽くされる。
言葉が出ない。「ガウッ! ガウッ!」とガブちゃんが吠える声だけが聞こえる。
風は俺の前の花びらだけでなく、背中の側からも花びらを運んでくる。花びらは一気に舞い上がり視界を埋め尽くした後、全部同じ方向に流れていった。
「……グレート……」
すごく、綺麗だった。
「すげえ。ほんとにすごかった。教えてくれてありがとう。いやー良いもの見れた」
俺がひたすらにゲームシステムの穴をつき暴れまくっている間に、こんな美しい風景を見ていた人たちがいたのだ。
「あー、いや、初見さん、かな? 俺の動画を見てもらえたらわかるんだけど、基本的にゲームを楽しむとかじゃなくて極振りでどれだけ無双できるか、っていうことをやってるんよ。だからこんな景色は全く見たことが無かった。他にもあるなら、これから見るよ」
どうやら尋常ではなく人が多いのは、普段俺の動画を見ていない人が何らかの理由で来てくれているかららしい。
「あー、こういう綺麗な光景は知ってたら教えてほしいよ。ストーリー的なネタバレはやめてほしいかな。それは自分で探すのが楽しいものでしょ? まあそのあたりはなんとなく察してください。明確にこれはだめ! って言うのも大変なので」
いつもは俺の動画を知っている人ばかりだから話がすぐに伝わりやすいのだが、今日は少し勝手が違うようだ。
「それじゃあ、村の方に行ってみるかな。後は村の周りで戦ってみて、最後時間が残ったらちょっと話したり質問に答えたりしたいと思います」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます