第12話 お花畑へようこそ

「おいっし今日も配信始めるぞ」


 一本目の企画後語り動画を投稿した翌日、いつもどおりにゲームにログインし配信を始める。すると、先日よりも遥かに多くの視聴者が集まってきた。今日も今までと変わらず平日なのにである。

 

「あら、今日は人が多いな」


 先日は多くても夜の時間帯で五万人ぐらい、昼間は一万人程度だった。生放送をほとんどしてないので詳しくはわからないが、登録者が一〇〇万と少しのチャンネルとしては良いほうだと思っていた。今日はそれと比べて数がおかしい。

 

 この朝九時の段階で一〇万だ。一〇万人と言えば俺のチャンネルの登録者の一〇パーセントにあたる。普段生放送をしていないチャンネルにそんなに人が来るものなのだろうか。

 

「え、っと……まあいつもどおりやっていきます」


 あたふたしているのもあれなので、とりあえず始める宣言をする。

 

「昨日でこの街で遊べる事はだいたい終わったんで、また次の街に行こうかなと思います。この街からは確か三つの方向に行けるんだよな? ……うん、行けるね。とりあえず一番近いところを目指して、後はその後考えるよ」


 一つのエリアは以前幾度か駆け抜けたので少しは記憶に残っているが、他の二つは行ったことすらない。それぞれに特徴のあるエリアになっているらしいので楽しみである。

 

「あーどうせ全部回るからね。ネタバレは無しでお願いします」


 人数が多いためかコメント欄がいつもより活発で、少しばかり言い合いになっているようにも見える。ネタバレをしないで欲しいと言っているのだが、俺がまだ行っていない場所の話をしている人もいる。

 

「えーっと、カメラはケルヒャーくんに任せる。で、レオさんと二日酔いさんは今日はコメントの管理をしてほしいんだけど。何かいつもより荒れてるみたいだから、ネタバレだったり言い合いになったら消しておいて。見てる人も仲良く見てください」


 視聴者にお願いをしておいてガブちゃんを呼び出す。今日も柔らかそうな毛並みをしている。狼とは言うが、イメージは大きな犬だ。もふもふするのが非常に心地よい。

 

「よーし行くぞガブちゃん」


「ガウッ」


 ここ数日で俺の分の装備は更新したが、ガブちゃんの装備は更新していない。アイテムや金が足りなかったのだ。他のプレイヤーが連れている召喚獣やテイムモンスターを見ると、革の鎧をつけていたり、首輪をしていたりする。いずれはガブちゃんにもそんなものを用意してやりたい。ただ、革鎧なんかを着せると窮屈な気もするのでよく考えたいところだ。

 

 二つ目の街に別れを告げ、街から東の方角へとのんびり歩く。街の近くにはガブちゃんと同じウルフや、グレイラビットという凶暴な兎、ドットホースと言う馬系統のモンスターがのんびりとしている。

 

 ちょっかいをかけずに街道を歩いている限りは攻撃をしてこないので、刺激しないように気をつける。ガブちゃんは気にしないかも知れないが、同族と戦わせるのは気が引けるのだ。

 

「馬ってテイムすれば乗れるのかね」


 そう話すと、『乗れますよ』『乗れはするけど難しいらしい』といったコメントが送られてくる。

 

「なるほど。いつか乗馬もしてみたいな。乗馬教室してる人いたりしないんだろうか」


 まあたとえあったとしても俺はいけないだろう。ゲームをしているところはすべて生放送しているので、下手に人のやっている場所に行くと迷惑になる可能性が高い。

 

「いや、乗馬とかはあったとしても基本的には生放送はしないと思う。生放送で流しちゃうと迷惑になるかもしれないし、事前に話をつけてから生放送をやるっていうのはこの企画のスタイルじゃないからさ」


 のんびりと思うままに。動画のために前準備をしたりはしない。それがこの平均値企画の基本だ。動画づくりに疲れた俺の息抜きという意味合いも強い企画なのである。

 

 ダラダラと話したり、モンスターを刺激してしまって戦闘になったりしながら歩いていると、エリアの様子が変わってくる。

 

 街を離れてすぐの場所は丈の長い草原とところどころ木が生えているエリアだった。だがこのあたりになると木が一切なくなると同時に草の丈が短くなってくる。そしてすぐにその理由は見えてくる。

  

「おお……」


 丘を超えた先に広がっていた美しい光景につい声が漏れる。花だ。一面の花々。色とりどりの花々がうるさくない程度に群れつつ、まざりあって群生している。街道はそこで途切れ、道は花の群れの中へと消えていた。

 

「すげえなあ」


 こんな綺麗な光景を見たのは初めてかも知れない。幻想的なのではなく壮大なのではなく、ただただ綺麗が続いているのだ。

 

 花を見たガブちゃんは、「これ食べれるんですか」と言わんばかりに花を寄せて嗅いでいる。と思ったらぱくりと花を食べた。どうも美味しくなかったようですぐに吐き出す。

 

「美味しくないだろ。でもあまいジュースになる花があるかもな」


 これだけ綺麗だと手を出すのが躊躇われるが、花ならばポーションの素材になったり美味しく食べれるものもあるかもしれない。

 

 試しに一輪手に取ると、その花は手の上で光の粒になって溶けるように消えていく。

 

「お? 採取できないんかな」


 試しにもう一輪取って、取った瞬間にメニューを開いて情報を確認しようとする。しかし、メニューには何も表示されなかった。

 

「取れないアイテムっぽいな。ガブちゃん行くよ」


 どうやら見た目上のものであって利用できるものではないらしい。通る場所もないので花の中を歩いて抜ける。踏んだ跡が残ってしまうかとも思ったが、振り返ると踏んだ後は全く見えない。すぐに復活してしまうようだ。

 

「ああ、足跡にはならないのか。良かった」


 一面に花が続く丘を進んでいく。話によるとこの先にこのエリアの中継拠点になる場所があるらしい。

 

「しかしあれだね。ここまで一面に『花!』、って感じだとむしろ気疲れするな。洞窟の壁とか森とか焚き火とかみたいな普通の風景の方が気が休まるかも」


 これに関しては人それぞれの感じ方だ。コメントでは俺と同じ意見の人も、逆にこんな綺麗な場所の方が楽しく、日向ぼっこをしたりピクニックをするのが好きだという人もいる。

 

「ピクニックは良いなあ。まあ俺は友達なんかまともにいないんですけども」


 現実で交流を続けている友人は一人もいないし、ゲームで仲良くなる相手もいない。というか、一人でひたすら突っ走ってはキャラを新しく作るので、関わったとしても仲良く続くことが無いのだ。

 

「そのうちテイムしたモンスターが増えたら皆連れて遊びに来るよ」


 ガブちゃんとか、鷹とか、馬とか。他にも気が合う子がいると嬉しい。

 

「よし、一気に抜けてしまおう。早くここの拠点がどんなになってるか見たいしね」

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