第9話 ネーミングセンスのなさよ

 ウルフの攻撃を退け続けること一〇分。ウルフの行動に変化が現れた。攻撃を仕掛ける事無く俺の方を見つめたかと思うと、その場に座り込んでしまう。

 

 俺がゆっくりと近づくもウルフは警戒すること無く、目の前にテイムの魔法陣を展開した手を差し出すとのんびりとそこに脚を乗せてきた。それと同時にシステムメッセージが流れる。

 

『テイムが成功しました』

『テイムしたモンスターの名前を設定することが出来ます』


「これでテイムか……。疲れた」


 一息ついた所でどっと疲れが湧いてくる。一切攻撃を仕掛けずにいるというのは中々にしんどい作業だった。

 

「名前、名前なあ。何にするか」


 深く考えても良い考えは浮かびそうにない。ならばいっそ、今思いついた名前をそのままつけてしまうのもありかも知れない。

 

「よし、お前の名前はガブちゃんだ」


 俺がそう言うと、ウルフは俺の方を見上げて元気そうに『ガウッ』と一吠えする。どうやら本当にテイムが成功したようだ。

 

「よーしよしよし、可愛いやつだな」


 ガシガシッと首周りを撫でると気持ちよさそうに目を細める。うちのガブちゃん可愛い。

 

「ということで、無事テイム出来た。名前はガブちゃんなんでよろしく」


 カメラがよっているのを確認して、視聴者の方にガブちゃんを紹介する。毛並みは灰色、黒と白の混ざりあった顔だ。顔つきは鋭いが、目を細めている時は緩んで見える。

 

 コメント欄を確認すると、『おめでとう!』といった祝福のコメントがある一方で、大半のコメントが『ガブちゃんw』『ネーミングセンスよ』といった内容である。

 

「ガブちゃん響き良いだろ。そもそも俺はネーミングセンス無いんだよ。キャラクター名もゲームによって神話を切り替えてるだけで全部神話の登場人物だからな」


 コメント欄は、響きが良いのは認めるもののもう少し良く考えてやれという意見ばかりだが、そう思いつくものでもないのだ。

 

「よし、それじゃあ改めて次の街を目指す。行くよガブちゃん」


「ガウッ」


 ガブちゃんはあるき出した俺の隣に並んで歩く。説明に寄ると、『帰還ガブちゃん』と唱えれば魔法石に閉じ込めて持ち運ぶことも出来るらしいが、せっかくなので一緒に歩こうと思う。その方がガブちゃんも楽しいだろう。

 

「おいカメラ、ガブちゃんによりすぎだろ。こっちも写してくれ」


 いつの間にか配信のカメラがガブちゃんの正面に回り、首周りや腹回りなどをぐるりと回っている。あまつさえ、俺が邪魔だというコメントまで出てくる。どうやらガブちゃんの可愛さがわかってもらえたらしい。

 

「まあ良いか。見てて楽しいなら」



******



 しばらく歩くと次の街に着いた。次の街、とは言うが、プレイヤー的にはここが最初の街であり、最初の街からこの街にやってくるところまでがチュートリアルのようなものらしい。ちなみに俺はこの街に来ること自体始めてだ。

 

「あ、あの人ビックリマーク出てる。ちょっとクエスト受けに行くな。あ、それとさ、ガブちゃんって街中歩いても大丈夫なの?」


 視聴者に尋ねると『大丈夫』『テイムと召喚は大丈夫』『暴れなければ』という答えが返ってくる。それならガブちゃんもこのまま一緒に行こう。

 

 入口付近の道に立っている婦人に声をかけると、ちょっと困っていることがあるんだけど、と切り出された。

 

「俺に出来ることなら力を貸しますよ」


「あらありがとう。実は息子が他の街に仕事で行ったのだけど、お守りのネックレスを忘れていってしまったのよ。届けてもらえると嬉しいのだけど」


「任せてください。俺が届けます」


 二つ返事で了承すると、視界の隅のクエストログが更新され、『母親の思い』と言うクエストが受注された状態となる。

 

「これでクエストが受注できるんだな。オケ、とりあえず余裕があるときには片っ端から受けとこう」


 俺が視聴者相手に話しているとガブちゃんが不思議そうに俺の方を見上げてくる。可愛いので『うーりうりうりうり』とほっぺたをワシャワシャしてやった。

 

「おっしこの街でも出来ることやってくぞい。この街でこれはしとけとかあったら教えてくれよ」


 楽しい事は他力本願。ネタバレはなるべくなしで。そんな気楽な方針でやっていこう。

 

「よしガブちゃん、何かうまいもの食べに行くか!」


 まずは新しい仲間と共に美味しいものを。

 

「金はある、はず。まださっきのハンバーガーしか食べてないし」


 視聴者から所持金は大丈夫かと心配されるが、大丈夫だろう。足りなくなったらアイテムを売れば良い。

 

「いやー、楽しいなこのゲーム!」

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