第10話 紐なしやっほー!

 生放送を初めて数日。第2の街で出来る事は色々とやった。シリーズ系のクエストや、初心者向けのダンジョン、冒険者ランクを上げるためのクエストも幾つかやった。

 

「はい、こんにちは。今日ものんびりやっていきます。とりあえず予定は最後残ってるクエスト一つと、後は中央の塔からのフリーフォール。後は飯のときにでもリクエストの多かった極振りの思い出語りでもやってみようかな」


 この街で出来る楽しいこと、を募集した際に数名の人が進めてくれたのが中央にある塔からのフリーフォールだ。どうも本来は展望台であるところから飛び降りると高さもあって心地よいらしい。

 

「『本当にやるの?』、って、そりゃあやるよ。楽しいって勧められたし、高いのはそんなに怖くないからな。それよりは洞窟の方が怖くて嫌だよ俺は」


 コメントでもそこから飛び降りることに関しては割れていて、『確かに飛び降りるのは気持ちいい』『ジェットコースターがいける人なら大丈夫じゃない?』という意見がある一方で、『怖かった』『流石に高すぎるし下が石畳なのはやばい』、などやめたほうが良いという意見もある。


「ガブちゃんは飛ばなくていいからなあ。うりうりうり」


 俺よりもガブちゃんを心配するコメントが多いが、もちろんガブちゃんに飛ばせるつもりなど無い。本人が飛びたいというなら止めはしないが。

 

「じゃあとりあえず最後残ってるクエストからな。まあ荷物届けるだけだけど」


 ログインした場所から移動し、預かっていた小包を街中の老人に届ける。近くの村で受注してきたクエストで、街にいる老人への贈り物を届けるという依頼だった。

 

「クエストってだいたいこんな感じだよな。ストーリーが多少ある分には楽しめるけど、増えてくると飽きそうだ」


 俺が素直にゲームに文句を言うと、視聴者から『先に進むと依頼はむしろ無くなってくる』『後は探索系のクエストだから大丈夫ですよ』といったコメントが寄せられる。

 

「あ、そんな感じなんだな。そう言えばダンジョン解放系も扱いとしてはクエストなのか」


 これまでの極振り企画を思い出しながら言うと、『そうそう』『クエスト=進行の目安みたいな感じですね』等、肯定の言葉が寄せられる。このゲームははっきりとしたメインシナリオがあるわけではなく、各地で起きるイベントや存在するダンジョンをプレイヤーが各自好き勝手にクリアしていくというものになっている。


 そのため何をすれば良いかわからなくなるということもあり、そこにある程度の指標を示してくれるのが様々なクエストということらしい。

 

 以上、最速でレベルを上げて最強ダンジョンで馬鹿をやっていた俺にとっては初めて聞く知識である。


「中央の塔ってあれのことだよな。ちゃんと見ると思ってた以上に高いな」


 コメントに導かれて、街の中央の塔へとたどり着く。数日遊んでいる間に幾度か見ているはずだが、改めて見るとそのすさまじい高さがよく分かる。一〇〇メートル以上あるのではないだろうか。

 

「あれの上から紐なしバンジーすんのか。おっ」


 下から塔を見上げていると、上から紐なしバンジーの参加者が落ちてくる。軽い鎧を纏った剣士が頭を下にして、スカイダイビングのような勢いで降ってきた。

 

 その人物は地面と衝突する直前に剣を引き抜き、空中へと駆け上がるアーツを発動する。まっすぐ落ちてきた剣士がVの字を描くように空中に駆け上がり、ふわりと着地する。

 

 そして俺の方にペコリと頭を下げると街の中へと去っていった。

 

「あんなスタイリッシュなのを俺にしろと?」


 確かにかっこよかった。そのまま地面に打ち付けられるのではなくアーツで勢いを殺し綺麗に着地する。出し物としては素晴らしいのだが、俺の手持ちのアーツであれを出来るものは無い。


「まあとりあえず登ってみるよ」


 ガブちゃんを連れて塔の内部に入る。塔の中のショップを抜け、内部にあるエレベーター代わりの魔法陣を使って上へと上がる。上がってみると、数人のプレイヤーが上から街を見学していた。中にはカップルらしき人もいる。

 

「いやー、結構高いなこれ」


 やはり一〇〇メートルもあると地面が遥か彼方だ。これを跳んで着地をするのか。

 

「ほーらガブちゃん、高いだろ?」


 ガブちゃんを抱えあげて下を見せると、「ご主人さまこれはやばいです!」と言わんばかりに俺の腕から逃れようとする。

 

「やっぱ怖いよな。じゃあ《帰還・ガブちゃん》」


 ガブちゃんには俺が飛び降りる間は帰還しておいてもらおう。さて飛ぶのだが、着地はどうしようか。

 

「なにか決めたいよな」


 『頭から飛べば?』『イーグルダイブ』『魔法を連打しながら降りるのは?』等意見がある中で、『現状使えるアーツにバンカーエッジがありませんか? あれなら派手かも知れないです』という意見があり、それを採用することにする。

 

「バンカーエッジ良いな。それでやってみる」


 展望台のヘリに立ち、下の地面を見下ろす。高い。目がくらむ高さだ。以前もっと高くから落とされたことはあるが、あっちは戦闘の最中だった。

 

「それじゃあ、行ってきまーす」


 飛び降りるのではなく、前へと倒れ込むようにして落ちる。体が風を切る。口から自然と声が漏れる。

 

「アアアアァァァーー」


 体にかかる圧が心地良い。腹のそこが浮く感覚。


 地面に当たる直前で剣を抜き、バンカーエッジを放つ。その場からわずかに俺の体が浮き上がり、そこから剣を下に振り下ろしながら落下する。バンカーエッジのモーションをなぞったのだ。

 

 ただ、わずかに地面からの距離を見誤った。攻撃が地面に当たる前にアーツのモーションが終了し、前に姿勢を崩した俺は顔から地面に突っ込んだ。

 

「うぶっ!」


 痛い。痛くないけど痛い。後少し恥ずかしい。


「はー、タイミングが結構難しいなこれ」


 体を起こし、再びガブちゃんを呼び出す。

 

「うーりうりうり、俺は跳んだぞ」


「ガウッ」


 わかってかわからずかガブちゃんは元気よく返事する。

 

「『降り方がダサい』。跳んだ事を褒めてくれ。でも色々練習したら派手な着地できそうだな。というかもう誰か動画にしてるか」


 またやってみようと思ったが、今何回も繰り返さなくてもいいだろう。

 

「これあれだな。デスプラントの拘束攻撃とか同じ方法で抜けれそうだな」


 ま、それもそのうち、と締めくくって、その場を後にする。中々楽しめた。こういう無茶を平気で出来るのもゲームの良いところだ。

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