第7話 あれは本当に楽しくなかった

「うーん、グラインドウルフじゃあ火力が出ないな。バイオサーペントに変えるか」


 テイムとテイムしたモンスターの強化に特化した俺は、一番効果的に活躍する組み合わせを考えながらダンジョンで戦闘を繰り返していた。

 

「ダンジョンなら、ウルフ系よりはサーペント系が数いたほうが楽だな。ウルフ系を捨ててサーペントかオーガ系入れるか」


 呼び出して働かせていたグラインドウルフを召喚石に戻し、ためらうこと無くその召喚石を破壊する。テイムに特化しているとはいえ、テイム出来る数には上限がある。ウルフ系はテイムがしやすいので最初の頃にテイムしたものが多数いるが、意外と使いにくいのである。

 

 それならばいらない個体を捨てて、別のモンスターをテイムしておいたほうが良い。

 

 そんな事を繰り返し、俺は最も効果的に作用し他を寄せ付けないほどのテイムモンスターを集めていった。あの頃の俺は強かった。極振り企画の中でも特に周りから見た圧倒感が高かっただろう。数の暴力の上に、個々の戦闘力の暴力。本当に、圧倒的だった。



******



 ハンバーガーをぺろりと平らげ、食べる速度にざわめくコメント欄を眺めながらぽつりぽつりとテイムに対する思いを語る。

 

「俺の動画昔から見てる人なら知ってるかもしれないけど、二回ぐらいテイム極振りの企画やってるんだ。『鋼の大地』じゃないよ。片方は『ゲート・オブ・ネフィリア』で器用値極振りの一環で、もう片方は『ワールド・エンド・ファンタジア』でテイム極振りっていう企画でだったな」


 『鋼の大地ではまだやってないけど、それもネタになるんじゃないの?』『テイム極振り面白そう。後で見てみます!』といったコメントが流れてくる。それが、俺の胸に突き刺さる。

 

「いや、まあ企画としては成功だったんだけど、俺はそれからテイムは絶対企画にしないって決めたんだ」


 一息つき、コーラで唇を湿らせてから話を続ける。

 

「俺の動画って基本効率優先、できるだけ早く、って感じだろ? そのテイム企画のときも同じ感じだったんだけど、それが結構しんどかったんだよな」


 当時の事を思い出しながら、簡単に説明する。

 

「テイムしたモンスターと全く触れ合えないって言えばわかりやすいかな。普通に『インベントリがいっぱいになったから薬草捨てる』、ってノリで『テイム枠が満タンになったからテイムしたモンスター捨てる』って事をやってたからな。効率的には間違えてなかったけど、モンスターを完全に道具とか武器として扱うのが後で考えると結構きついんだよこれが。その頃は全く気にもしなかったけど」


 俺の話を聞いた視聴者が一様に、『うわあ……』というような感想を伝えてくる。俺もそう思う。

 

「今回は折角ゆっくりやるんだから、一匹ぐらいテイムしてモフりたいなあ、と思ってな。理想はウルフ。後は猛禽類かな」


 狼を引き連れ、肩か腕には鷹をとめている。何か格好良くないだろうか。後はそれぞれに肉を食わせたりするのも憧れる。

 

「まあそのあたりも、今後のんびり。このゲームのテイムって、スキルで出来るんだっけ?」


 まだ無料で取得できるスキルの枠は空いているので、対応したスキルがあるのであれば取得しておきたい。

 

「あー、『調教』スキル、ってこれのことか。とりあえず取っておく。後は方法はチュートリアル見ながらやってみるよ。まずは目標はウルフ」


 よし、とメニューを閉じて立ち上がる。

 

「一回ログアウトして、また飯食ったら一時間後くらいには始める。それじゃあおつでした」


 配信を停止した後、その場からログアウトする。ゲーム内では良いぐらいに食事をしたが、外でもちゃんと食べよう。あれぐらいでは満腹とも感じないし、全然余裕だ。


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