第6話 極振りってかっこよくない?

 放送を流したまましばらく戦ってみる。ある程度戦った所でレベルも五に到達し、その分のポイントをステータスに割り振る。

 

「レベル五になったからとりあえず街に戻るよ。最初の街でこれやると楽しいとかあったらコメントによろしく」


 そして俺が今の戦いの感想を語ろうとすると、俺の思ったことと同じ感想を持ってくれている人がいた。

 

「『極振りでふざけてるだけかと思ってたけど、普通にやっても強いんだな』……。そうそう、何か戦いやすいんだけど、今やっとわかったわ。俺、まともに戦えるのが今回が初めてなんだ」


 コメントを読み上げて感想を述べた俺に対する反応は、納得が半分、疑問が半分といったところだ。

 

「俺はいつも極振りやってるだろ? 見たらわかるんだけど、基本的に極振りって一つのことしか出来ないんだよな。だから、まともに走れて、スタミナも続いて、攻撃も出来るって俺には初めてな気がする」


 いやもう言葉にしてみればまさにそのとおりなのだ。俺の極振りは徹底していて、最初のそれぞれ最低値が三であるステータスすら振り直して、極振りするもの以外は全て〇になるように振っている。

 

 結果何が起きるか。最高速で動けるのに、わずかしか続かない。相手に殴られてもきかないが、こちらもろくに殴れない。今までやってきた極振り企画は、そういった状況の中から特化して暴れる方法を探し出し、実際大暴れする方法を見つけて暴れるというものだった。

 

 こんな、最初から何でも出来る状況というのは新鮮だ。

 

「そんな笑わんでも良いだろ。いつも見てる企画だろうに」


 俺の真面目な説明を聞いた視聴者たちは、皆一様に『ww』と送ってくる。

 

「まあ一つ自慢させてもらうとすれば、極振りって最初は全く使えないから、その状態で頑張ってた俺からすれば今って本当になんでも出来るから楽なんだよな」


 『あの無双ぶりの裏にそんな努力があったのか……』『極振りって甘いことばかりじゃないんだな』などと、絶対に面白いところしか見てないだろうと言いたくなるようなコメントが並んでいる。まあそれが普通だとは思うが。


「よし、街に戻ってできそうなことやったら先に進んでみるぞ。意外と戦えるかもしれん」


 コメントに返したり初めてゆっくりと眺めるフィールドの様子を眺めながら街へと戻る。ただの草原が美しく見えて、こんなに綺麗なゲームだったかなと呟くと、『ゆっくり休んでください』『どんだけ疲れてんだよw』と言ったコメントが寄せられる。

 

「まあそういう話もいずれするけど、今はおいとこうな」


 街に戻り、コメントを頼りに美味しそうな店を探す。俺がガッツリ肉系統か寿司が食いたいと言うと、あるハンバーガーショップが一番美味しいと言われたので、そこに向かってみることにする。

 

 大仰な看板のある店に入ると、店内に客はいない。奥からは美味しそうな匂いが漂っており、空腹を刺激する。ログアウトしたらちゃんとした飯も食わないとな。

 

「いらっしゃいませ! 何にしますか?」


 可愛いNPCの店員に尋ねられ、コメントのおすすめ通りにメニューを二つ注文する。

 

「ギャラクシーバーガー単品と、トリプルチーズのセットでコーラとポテトLをお願いします」


「わかりました! 少し待ってくださいね!」


 店員が離れていくのを見送って店内を見渡す。現実のハンバーガーショップに近い様子を持ちながらも、木やレンガといったファンタジーらしい素材で作られた建物だ。

 

「『腹減ってきた』。俺も減ってきた。ハンバーガー食ったらログアウトしてリアルでも食ってくる。『飯テロは許されない』。飯テロ言うな。俺も自爆してるからセーフだろ。飯の話は置いといて質問の返事してくよ」


 コメントのログをさかのぼり、答えておいた方が良さそうな質問に返していく。その中で、俺の動画の根幹にありながら今まで一度も語ってこなかったものを見つけた。

 

「『なんで極振りという企画を思いついたんですか』。今はほとんど無いけど、VRゲームが出る前ってVRMMOを題材にした小説がすごい多かったみたいなんだよね。それをじいちゃんの勧めで読むことがあって、その中で『極振りした人が他のプレイヤーが追いつかない強さに到達して無双する』っていうのが結構あったんよ。それが面白くて、自分もやってみたいって思ったのが初めかな」


 その後、いくつかのタイトルを上げる。いずれも極振りの活躍具合が顕著に溢れている小説だ。


「『面白そうだけど、他のプレイヤーが追いつかないってゲームとしてまずくない?』。まあ実際はそうなんだろうな。一個前の俺のDEX極振りもさ、『アトラント・ボウ』を偶然入手したせいでやばいことになっただろ? しかもそれがゲーム内で俺しか入手した例が無い武器だったし」


 『うんうん』『あれはやばかったな』『正直ちょっとひどかったですよね』と言ったコメントを見て話を続ける。

 

「その結果運営からナーフをくらったわけなんだけど。でもそれが物語だったら、めちゃくちゃ面白くない? まあ、手に汗握る展開! みたいな感じにはならないけど。主人公が誰も追いつかない力を手に入れて無双するって、何かかっこいいよな」


 『なんでそう言う小説が無くなったんですかね』や、『そういうのがあるゲームもやってみたいかも』、といったコメントに答えながらハンバーガーを待っていると、一つのコメントが目に入る。

 

『話は変わるかも知れませんが、前回の動画で『テイムは絶対にやりたい』とおっしゃっていた理由をお聞きしたいです』


 その言葉に、俺のかつての記憶が蘇る。


「テイムの件については、ハンバーガー食べ終わったら話すよ。それまで待ってね」


 そう答えながら、俺の頭の中には、すでにかつてテイムに手を出したときの記憶が蘇っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る