第5話 観戦はご自由に

 キャラクター選択を経てログインすると、すでに一〇〇人近くの人が生放送に集まっていた。平日の日中なのでどれぐらい集まるものかと思っていたが、意外と多い。俺が言うのもなんだが、みんな暇なのだろうか。

 

「はい、OK放送始まってるね」


 自分でも放送の画面を開き、ちゃんと画面が動いているのを確認する。それを視界の隅に残したまま画面の向こうの視聴者に語りかける。

 

「どうもこんにちは、極振りおじさんことアマツです。生放送はあんまやってないので、正直感覚がよくわかってません。とりあえずダラダラやるんで気楽に見ていってください。移動中とかはコメント見れるけど戦闘中は余裕が無かったら見ないんで」


 そう話しながらコメントを確認していると、『キャラ見せて』と言われたのでカメラを操作して自分のキャラクターを見せる。それを移した途端、一気にコメントが加速した。主にネタ的な扱いで。

 

「まあいつもはできるだけかっこよくっていうイメージでキャラ作ってるけど、今回は楽しむのが目的だからイケメンにしなくてもいいかなって。イケメンにするの何かしんどくないか? このおっさんキャラなら何やっても怒られないしさ」


 俺の言葉に、『確かに』『イケメンに合わせた言動がしんどそうではあった』『見た目変えれるのもVRMMOのの良いところじゃないの?』と言ったコメントが並ぶ。

 

「いやほんとにわかってほしいんだけど、俺の普段の話し方ってこうなのよね。それに面白いことがあったら声張り上げて笑ったりするし。それがさ、例えばロキとか、二つ前のヨルムンガンドみたいなクール系のキャラにすると、キャラに合わせて話さないといけないだろ? 結構きついんだよなあ」


 そう言うと、コメント欄には同意の意見が沢山流れる。流石に現実の顔をそのまま使おうという人は少ないが、多少整っているものの超絶イケメンにはしないという人の方が多いのだ。

 

「ああ、ロキのときの口調とか、ヨルムンガンドのときの口調は全部ロールだよ。一応キャラに合わせて口調は考えてるから」


 コメントの一つに返すと、『マジ?』『違和感無かったなあ。ロールうまいね』と言った感想が送られてくる。『やっぱりロールだったか』という人も多いが、人によっては違和感なく受け入れてもらえていたようだ。

 

「ありがとう。そのへんは練習したからな。それじゃあとりあえず遊びに行くよ。今回は質問とかがあったら基本的に返そうと思ってるから、適当に送っといて。あ、できれば凸はしないでくれよ。一緒に遊びたいって人はいるかも知れないけど、基本は一人のんびりやりたいからな」


 俺がそう言うとすぐにコメント欄に質問がズラッと並んでいく。今まで全く質問の返信なんてことをしなかったつけだろう。

 

「おいおい多いな。とりあえず気になったやつから適当に……。まあ後は飯でも食いながらかな。まともにゲームの中で飯食うのも初めてな気がするし、それもやってみたいね」


 とりあえずのんびりレベリングをすることを伝えて街の外へ向かう。

 

「あー、まあ普通に行けば次の街にも行けるけど、せっかくならここでも遊んでみたいなと思ってな。なにげにこのデータが初めてこの場所で狩りするわけだし、のんびりやりますよ。レベル五ぐらいになったら次の場所に行こうかな」


 そんな事を返していると、『街中でクエスト受けないの?』と言ったコメントが送られてくる。

 

「クエスト? そんなのあったっけ……。ああ、ビックリマークってそんな意味があったんだな。後で受けてみるよ。いや、今までは多分一回も受けたことないと思う。このゲームはNPCと話さなくても進める仕様だしな」


 そんな話をしているうちに街の外につく。

 

「それじゃあしばらく戦闘するんで、酔わないように気をつけて。……あ、ケルヒャー君来てるね。ケルヒャー君、カメラまかせても大丈夫? そうそう、俺目線以外もあったほうが良いかなって。OK、それじゃあ権限移すよ。どう、動かせる?」


 俺も放送画面を確認しながらちゃんと機能しているか尋ねる。ちゃんと動いている事を示すかの用にカメラは俺の周りをぐるりと回った後、下に潜り込んで来る。

 

「いやそんなところ移さないで良いから。大丈夫そうならとりあえずそれで行ってみよ。あ、一応観戦許可も無制限にしておくから、入ってから見に来たい人は自由にどうぞ」

 

 観戦許可というのは、一人のプレイヤーに張り付いて視点だけになって自由に飛び回って観測する事だ。今ケルヒャー君といううちの動画の古参勢に任せたカメラのように自由に俺の回りを飛び回って見ることが出来るが、干渉してくる事は出来ない。

 

 あれやこれやをやっていると、かなり時間が経ってしまった。まあのんびりやってみることにしているので、それも良いだろう。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る