自動小説執筆アプリの怪(お題:腐った小説トレーニング)

 掌編小説を毎日書くのは小説家のトレーニングとして効果的だ。


 なぜなら小説家の経験値はとにもかくにも作品を完結させることで貯まるから。短い文章の中に起承転結を詰め込む掌編小説は、初心者のトレーニングとして最適なのだ。


 だが、毎日毎日続けることはおっくうだという考えを持つ小説家志望者の人は少なからず存在するだろう。


「そんなニーズに応えたのが、このオレ様・ガドウの開発した『掌編小説を生み出すwebアプリ』だー!! ギャハハハ!」


「いきなり呼び出して何いってんだ」


 ガドウの大学の友人であるミズモリがツッコんだ。


 ミズモリとガドウは文系の大学に籍を置く友人同士である。


 小説家志望者でバリバリの文系であるミズモリと違って、ガドウはweb系の技術の心得もある変人だった。


「なんだよー、ミズモリ。オレ様の作ったwebアプリ、すごくね? こいつを使うだけで掌編小説が生みホーダイ! 小説の実力も上がりホーダイなんだぜ」


「あのな、ガドウ。掌編小説のトレーニングは、あくまで自力で小説を書いてこそ実力が上がるんだ。webアプリで機械的に掌編小説を生んでも、別に実力が上がるわけじゃ……」


「よーし! こいつを使って、オレ様も小説家になってやるぜ。となればミズモリはライバルになるな」


「あ、アホぬかせ! アプリなんぞに負けてたまるか!」


 声色に焦りを隠せないながらも、ミズモリは強気に返した。




 このあと数ヶ月の間、ミズモリはあくまで自力で、ガドウは掌編小説を生み出すアプリで、各々自分が選んだやり方で小説の実力を鍛えていく。


 やがてミズモリとガドウは機が熟したと判断し、自分の小説を出版社の開催するコンテストに応募したのだった。




 * * *




 2年後。


 コンテストで賞を取って小説家になったミズモリは、編集者からたまたまガドウのその後を知って驚愕した。


 ガドウは小説のコンテストには落選していた。だが、小説の執筆に自作のwebアプリを使ったことを知られて、出版社のweb小説サイト運営部門のエンジニアにスカウトされたらしい。


 ガドウは出版社内で『掌編小説を生むwebアプリ』のバージョンアップを重ねていて、今や掌編の名手にも並ぶほどアプリの実力が伸びてるそうなのだ。


 現在、ガドウは『短編小説を生むwebアプリ』を開発中で、こちらも良い軌道に乗っているらしい。


 これらの知らせに、ミズモリは恐怖で鳥肌が立った。


「ま、まさかガドウのやつ。いつか『名作の長編小説を生むアプリ』なんて生み出さないだろうな!?」


 小説家の役割がアプリに取って代わられるかもしれない。


 思わず想像してしまった未来に戦々恐々とするミズモリは、知らない。


 出版社のもとでエンジニアとして働くガドウが、「オレ様の思ってたのとなんか違う!」と微妙な顔をしていることに。

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