視点を変えてみよう(お題:不本意な小説トレーニング)
とあるマンガの最強のヒーローは言った。
自分は毎日のトレーニングで強くなったと。
この毎日というのは比喩でもなんでもなく、一切の例外を許さない「毎日」だ。
たとえ極悪な暑さの夏でも、ツンドラ気候の冬でも。
足がダルくても腕が変な音たてても、どんなに苦しくても、血反吐ぶちまけても。
それでも毎日、一切のナマケをゆるさずにトレーニングを続け、そのマンガのキャラは最強のヒーローとなったのだ。
「だから作家志望者である俺もそれにならって毎日、掌編小説を書いてるわけだが……」
デスクのパソコンに向かって座る男が、独り言をポツリ。
腕を組んで、眉をひそめている。困っている。
パソコンのツールに出てきたランダムな小説のお題。その対処に男は困っていた。
「お題が、『不本意な小説トレーニング』ってどーいうことよ!」
男は頭をかかえた。
小説を書くトレーニングのために掌編小説を毎日書いてきたが、こんなお題は初めてだ。
そもそも小説家が小説のトレーニングについての小説を書くなんてどんな小説にすればいいのやら小説的にもいいのかわからん小説。
「あかん、小説がゲシュタルト崩壊してやがる!」
頭の中のアイデアの暴走に、男はイスから転げ落ちて懊悩する。
「くそぉ、どうすりゃいいんだ! タイムリミットは……げぇ、残り10分!?」
イスに座り直した男は、パソコン画面を見て驚愕する。
男は毎回毎回、掌編小説を書く際にタイムリミットを設けている。
今回のタイムリミットは30分。単純計算で20分もの時間をなにも思いつけずムダにした。
「ちくしょー!! 駄目だ、なにも思いつかねぇ! 今日はもうダメだー!!」
頭をかかえて床を転がりながら、男は無念の叫びを上げた。
* * *
キーボードをカタカタ鳴る音が鳴り響く。
とある女がパソコン画面に小説を打っていたのだ。
ここまで読者諸君が読んだ文章を、そっくりそのまま同じ内容で。
それもそのはず、女はとある小説を書いていたのだから。
すなわちその小説は、「『不本意な小説トレーニング』というお題にそって掌編小説を書くことに苦心する小説家志望の男の話」である。
「へっへっへ……苦しめ~、もっと苦しめ~」
女は自分が創った架空の小説家を苦しめて悦に浸っていた。
この女が小説家として大成するかどうかは、まだだれもわからない。
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