砂糖と塩よりマズイ間違い(お題:やわらかい挫折)


 青柳と水口はとある田舎町の商店街に向かっていた。


 110番通報があったからだ。


 なんでも商店街のお祭りの料理大会で事件が起きたらしい。料理を試食した審査員が泡を吹いて倒れたというのだ。


 ひょっとしたら毒物による殺人かもしれないと、通報した子供が慌てながら言っていたそうな。


「なぁ水口。最近の子供って、刑事ドラマをよく見るのか?」


「さぁ。ドラマはともかく、名探偵もののマンガなら読むんじゃないでしょうか」


 刑事の先輩後輩である青柳と水口が到着する。


 商店街の料理大会の会場、その中央の広場。


 そこには大きな丸テーブルがあり、その中央にケーキが置かれていた。


 ケーキの前に、フォークを持った白スーツの男が泡吹いて倒れている。


「こいつがガイシャか……ん? まだ生きてるぞ、こいつ」


「生きてますね。目、ぐるぐる回しながら」


「いや、生きてるなら誰か救急車呼んでやれよ……。水口、手配を」


 水口に救急車の手配を任せ、青柳は周囲の野次馬に呼びかけた。


「だれか、事件の様子を説明できるヤツはいないか!?」


「あ、ワタシが」


「よし、話を聞かせてもらおうか」


 前に出てきたのは白い帽子をかぶった、いかにもパティシェと呼ぶにふさわしい衣装の女だった。


「あの、多分ですが、審査員の方を毒殺してしまったのはワタシです」


「殺してないけどな。無事だよ」


「そ、そうなんですか!? 良かった……!」


「自首とは殊勝な心がけで助かる。で、その根拠はなんだ?」


「ワタシの作ったスポンジケーキが死ぬほど美味しくて、それで倒れたのかと」


「自信満々だなぁ!? っていうか、あの審査員とやらはやはりケーキを食って倒れたのか」


 手帳にメモを取りながら、青柳は事件の顛末を予想する。


 まさか砂糖と塩を間違えたなんて古典的なオチじゃあるまいし、一体なんで審査員は泡をふいて倒れたのか?


 青柳は問題のケーキがどのようなものかと、ケーキのスポンジ部分に指で触れてみた。


「青柳先輩、大変です!」


 水口が青柳の背中に話しかけてきた。


「ああ。俺も今、大変なことがわかったところだ。なんだ水口?」


「審査員の口から出ている泡なんですが、あれ食器用洗剤の泡ですよ!」


「俺も今、ケーキのスポンジに触れてみてわかった。ありゃ、食器のほうのスポンジだ」


 水口と青柳はパティシェ女に向き直った。


 パティシェ女はバツの悪そうな顔で逡巡すると、


「てへっ☆」


 舌を出しながら、かわいくウインクした。




「なぁにがテヘだ、アホかーー!! スポンジケーキと食器用スポンジを間違えるやつがあるかーー!!」


「青柳先輩! 逮捕です、逮捕!! 食べ物を粗末にする人は許せません!!」


「ご、ごめんなさあああい!!!」

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