タイムリミット30分で書いた掌編小説集
田村サブロウ
ゴシップ好きな桜(お題:春の秘部)
「ウチの高校には、名物になるものが無い!」
職員会議で開口一番、教頭がそんなことを言いだした。
「部活の成績は平凡、立地は駅から遠め! 身も蓋もなく言えば、現状ウチの高校は魅力が無いんだ!」
荒ぶる教頭が拳を握って天をあおぐ。
近年、この高校は新入生が年とともに減少傾向にあることが問題視されていた。
その生徒数は危うく10を下回りかねないところまで来ていて、教頭は即急な解決策が欲しくて必死なのだ。
「なにか、なにか良い宣伝になるものは無いのか!? ウチの高校に中学生が入りたくなるような何かは!?」
教頭の求めに、ひとりの新人教師が手を上げて起立した。
「教頭先生! 実は私、怪しげな商人から『しゃべる桜の木の苗』を買いまして」
「そうか、捨てろ!」
* * *
数日後の夜。
新人教師は校庭で土を掘り起こしていた。
職員会議で自分が言った「しゃべる桜の木の苗」を植えるためだ。
植えることに上層部の許可は取っていない。学校の校庭に苗を植えていいかどうか聞きもせず、秒で却下した教頭への腹いせである。
「ししし。この桜の木がどんなことをしゃべるのか楽しみだな……まぁ十中八九、迷信だろうが」
ダメで元々の期待とともに、新人教師は桜の木を植えたのだった。
* * *
さらに数日後。
4月。入学式の日。
新入生の十数人、それにその親兄弟たちが校庭のある地点に集まっていた。
新人教師がしゃべる桜の木の苗を植えたところだ。なんと木の苗はすでに、森で見かける木と同等ぐらいに大きく成長していた。信じがたい成長スピードだ。
そして問題の、桜の木がしゃべる機能はというと、
「この学校の校長は教頭の奥さんと不倫してるぞ! サッカー部のいじめは、表向きいじめを止めようとしてるキャプテンが真の黒幕だ! 3年A組の生徒会長は副生徒会長と書紀で二股かけてるぞ!」
新人教師は桜の木の発言を耳にして、即決で逃げ出した。
後日。
しゃべる桜の木が植えられた学園は中学生の間でおおいに話題になったが、それ以上に大きい騒動が高校の中で起こったという。
以降、しゃべる桜の木の高校は新入生が増えた。だがその誰もがゴシップ大好きな曲者ぞろいとの事らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます