第5話 学校を壊そう①
「ねぇ何で校舎があるのにまた新しいの作るのー?」
「一番ぶっ壊したい校舎を作るためだな」
「ねぇ何で私も手伝ってるのー?」
「自分で建築した方が壊しがいがあるだろ? トランプタワーとかドミノとか」
「……ねぇ何でちょっと楽しそうなのよ」
僕のすぐ隣で複雑な表情を浮かべるユイ。先ほどの校舎ぶっ壊し宣言からずっと変な奴に向ける視線を僕に注いでいた。
まぁそもそも自分だけの田舎を作ろうとしていた時点で変な奴確定だった所もあるし今更だろう。荒そうとしている奴の想定よりも異常者だったのは良いんだか悪いんだか。
そんな訳で彼女が現れて二時間が経過した現在。僕は木造校舎の建築を一旦保留にして新たな校舎を制作する事にした。
やっぱりぶっ壊すなら思い入れとストレスが凝集された建造物に限るという訳で、僕が実際に働いていた学校に完全再現する事にした。
「……で、キミは今何やってるの?」
「外壁と校舎の土台を作ってる。あ、そこ灰の34番の色で塗って」
「全く、なんで私がこんな面倒な事しなきゃいけないのよ……」
ブツブツと文句を言う割にはサーバーから抜ける訳でも村を破壊する訳でもなく、指示通りに彼女は手伝ってくれていた。案外良い奴なのかもしれない。
ロストワールドが他にフルダイブRPGとは一線を画す点の一つに、クラフトの幅の広さが挙げられる。ホント工夫次第で現実の物体から想像上の化け物まで何でも作り上げる事が出来るのは紛れもなく長所だ。
ただ完成度の高さと作業量が比例するのは世の常であり、理想が高ければ高い程待っているのは絶望的な作業量がプレイヤーに押し寄せる。この作業を愛せるかどうかが楽しむ上でのキモとなる。
「……しょっと」
僕は天井の最後のブロックを置くと、浮遊スキルを使用して上空から作り上げた学校を見下ろして大きく頷いた。
まだ地盤外壁と窓といった外観部分しか作っていないけど、誰がどう見ても学校だなと分かる巨大な建造物が出来上がった。のどかな田舎の平地に都心の私立学校がある風景は、想像以上に違和感の塊だった。村で一番大きな建物が学校ってどうなんだよ。あんな寂れた駅でどうやって千人以上の生徒が通うんだよ。
まぁいいや、どうせ最終的にはぶっ壊す訳だし。
さて、外観はある程度形になったけど本番はここからである。
少し前のアップデートで立体画像があればそれをその場に描画することが可能になったため、僕はグーグルアースから持ってきた教師時代の学校を平地にそのままトレースした。
その画像通りに座標を合わせてブロックを積み上げれば良いだけだったので、ここまでは特に詰まる事もなくサクサクと建築できた。窓のサイズが同じだったためコピー&ペーストを多様出来たのも大きい。
だけど内観となれば話が違う。立体画像が無いため、自分の記憶とそれほど多くない手持ちの画像で再現しないといけないのだ。元々完璧を求めてないけど、どうせなら自分の納得できる出来に仕上がってから破壊したい。
「ねーいつまでするのー? もう私帰っていー?」
見下ろすとユイが全身で不満をこちらに伝えようとしていた。
外壁を見ると――僕の指示通りに塗装してくれていた。やっぱ良い奴なのかもしれない。
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