第6話 学校を壊そう②

 程よい区切りが出来た所で僕は立ち上がると、黙々と作業を続けていたユイに話しかける。



「今日はありがとう。ユイがいてくれてすげぇ助かったよ。学校が出来上がったらまた連絡するからフレンドになってくれ」


「……はぁー……キミってバカなの?」



 心底呆れた顔でユイは立ち上がって大きくため息をついた。



「どこの世界に荒しとフレンドになる奴がいるのよ。何? 荒らして欲しいの? どのサーバーに逃げても一生粘着して二度と楽しくゲーム出来ないようにしてあげよっか?」


「と言われても、まだ荒らされてないしなぁー……。ここまで手伝ってくれた人がいない時に破壊するのは気が引ける」


「何でそんな律儀なのよ! ああもう馬鹿! このゲームで出会った人の中でぶっちぎりの馬鹿よバーカ! 将来ボケて笹食って死ね!」



 ユイはギャーギャーと僕に罵倒を浴びせながら自分のウィンドウ画面を慣れた手つきで操作すると――しばらくして彼女からフレンド申請が飛んで来た。僕は躊躇なく『許可』ボタンを押す。



 つい気になって彼女のプロフィール画面を見ると、ロストワールドの総プレイ時間が百時間を超えていた。やけに建築作業が手慣れているなと思っていたけど、想像以上にやりこみプレイヤーだった。



「うわぁ。総プレイ時間千時間オーバーって……。立派な廃人じゃないの」


「無職だから時間が有り余ってるのさ」


「何でちょっと誇らしげに言ってんのよ……」




 聞きたくなかったわよとユイは呟きながら、空中に浮かんだ画面をタッチ&スクロールする。僕のプロフィールを見ているのだろう。



「へぇ、25歳なんだ。もっとおっさんだと思っていた。ってか、キャラクターネーム神無月って……これ絶対キミの苗字でしょ」


「…………黙秘権を行使する」


「もうそれ言ってる時点で確定じゃないの。――あっ! そういえばここの駅の名前『神無月駅』だったよね! 何? 自分の名前が入ってる駅に憧れたの?」


「ちなみにこの村の名前は神無月村だ」


「あはははははは! 潔いなぁ! ちょっと気持ち分かるけどね」




 ユイが腹を抱えてケラケラと笑うと、表情の動き対応して両目がくの字みたいになった。ゲームの中に入った事が実感できて僕は嫌いじゃないけど『デフォルメのセンスが古い』と言って嫌っている人もいた。まぁ……センスに関しては否定しきれないかな。



 彼女のプロフィールは名前とプレイ時間以外は何も記入されていなかった。何となくユイって名前も偽名な気がする。



 確かに少々馬鹿正直に記入してしまったかもしれない。フレンドになっただけで、ユイに苗字と年齢、現在住んでいる県までも把握されてしまった訳で。



 フルダイブ技術が発展したおかげで年齢性別関係なく幅広い繋がりを持ちやすくなったからこそ、現実と架空の線引きはしっかりした方が良さそうだと今更ながら思った。



「うわフレンド数三人って少な。千時間以上やって何で私より少ないのよ。ふんっ、大人気アイドルの私とフレンドになれるなんて光栄に思いなさいよね!」



「あー……まぁ……そうだな」


「微妙なリアクションするなし!」


「僕はいいと思うよ。ゲームの世界なんだから、性別とキャラ設定ぐらい好きにしたらいいと思う」


「あ! てめぇ私が男だと思ってるなぁ!」



 ゲームソフトによっては性別を変えられないモノも存在するが、キャラメイクと服装が正気の沙汰とは思えないぐらいバリエーションがあるロストワールドでは、外見すらも奥深いコンテンツに昇華していた。



 そのため男女両方のアバターを持つプレイヤーも少なくなく、面白いのが女性っぽいキャラメイクと言動をしている人に限って男性の傾向がある。フルダイブ恋愛の悲劇についてはネットで調べれば山のように存在し、中には「現実がどうであれ出会なければ男性と確定しない」というシュレディンガーの猫的発想を持つ猛者もいるらしい。



 ユイの外見は細かな所までよく拘っており、喋り口調や声のトーンの高さなどから女性である確率が高いが、だからこそ注意しなければならない。ゲーム内通貨とかねだって来たら要注意だ。



 まぁぶっちゃけユイが男性だろうが女性だろうが僕はどっちでもいいのだけどね。


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