第32話 その怒りは

 私とロコが自室で待機していると、ソンバインさんの手の者だと思われる人が部屋の中に入ってきた。

 そんな侵入者と同時に、部屋にブルーガさんが入ってきた。私が部屋の窓を開けていたことで、何かあったと気づいてくれたのだ。

 ブルーガさんの活躍で、侵入者は取り押さえることができた。これで、私に対する危機はとりあえず去ったのである。


「さて、この件はどう説明してもらえるのでしょうか?」

「うっ……」


 そんな私は、アムルドさんとともにある人物と対峙していた。

 それは、今回の首謀者である可能性が高いソンバインさんである。


「ソンバイン様、あなたとともに入ってきた男が、このミナコさんの部屋に無理やり入ってきました。これを、どう捉えればいいのでしょうか?」

「わ、私はそんなことは知りません」


 アムルドさんは、ソンバインさんに対してそのように切り出した。

 今回、私の部屋に入ってきた男は、ソンバインさんとともに屋敷に入った人であるらしい。付き人として入ってきた人が、私の部屋に無理やり侵入してきたのだ。


「その男が、勝手にやったことに過ぎません。私は、何も知らなかったのです」

「……」


 その事実に対して、ソンバインさんはそのように言い訳していた。

 あくまで、付き人がやっただけ。その言葉で、この場をやり過ごそうとしているようだ。

 だが、アムルドさんはそれで許すつもりなどないように見える。その鋭いまなざしが、それを示しているのだ。


「仮に、あなたが何も知らなかったとしても、そういう人を雇い、公爵家に連れ込んだという事実は消えません。あなたの罪が、それだけでなくなると思っているなら、あなたは貴族の風上にも置けない人間です」

「ひっ……」


 アムルドさんの言葉に、ソンバインさんは大きく怯んだ。

 アムルドさんの雰囲気は、とても怖い。そのように怯むのも、当然である。

 こんなに怒っているアムルドさんは、初めて見た。いつも優しい人が怒ると、ここまで怖いようだ。


「僕はあなたを許しません。必ず、あなたを裁きます。あなたが貴族としての力を使ったとしても、僕は引きません。覚悟をしておいてください」

「そ、そんな……」


 アムルドさんは、ゆっくりとソンバインさんに宣言した。

 その宣言は、ソンバインさんを叩き潰すという宣言だ。公爵家の力を使い、叩き潰す。それに対抗できることは、ほぼないだろう。


「さて、本日はお引き取り願えますか? 先程までの話など、もうする意味はないでしょう。あなたは帰って、今後のことをよく考えておいてください」

「今後のこと……」

「ええ、僕とどう戦うか。貴族でなくなって、どのように生きていくか。色々と考える必要があるでしょう」


 最後に、アムルドさんはそのような言葉を放った。

 ソンバインさんは、絶望したような表情を浮かべている。まさか、そこまで大事になるとは思っていなかったのだろうか。

 だが、公爵家の屋敷に来て、何かをするということはかなり大変なことだ。そのリスクをわかっていなかったのは、少々愚かだっただろう。

 こうして、ソンバインさんは帰っていった。色々とあったが、とりあえず事件は解決したようである。

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