第33話 温かい人

 私とロコは、アムルドさんと話していた。

 今回の事件について、色々と話し合うことがあるのだ。


「アムルドさん、今回は色々とありがとうございました」

「え? ああ……」


 とりあえず、私はアムルドさんにお礼を言っておいた。

 今回の事件で、アムルドさんが助けてくれなければ、私やロコは大変なことになっていただろう。そのため、お礼を言っておきたかったのだ。


「……僕はお礼を言われるようなことは何もしていませんよ」

「え?」

「僕は、ソンバインさんを止めることができませんでした。その結果、あなたに怖い思いをさせてしまった。そんな僕に、お礼を言う必要はありません」


 そんな私の言葉に対して、アムルドさんはそのように返してきた。

 どうやら、アムルドさんは責任の一端が自分にあると思っているようだ。

 だが、あのソンバインさんを止めることなど誰にもできなかっただろう。そのことで、アムルドさんが責任を感じるなどおかしな話だ。


「そんなことはありません。アムルドさんのおかげで、私は助かったんです。今回の事件は、それでいいんです。アムルドさんは私を守ってくれた。ただ、それだけなんです」

「ミナコさん……」


 私は、アムルドさんに諭すような口調でそう言った。

 ただ、言葉の中身はほとんどないようなものだ。

 だが、それには意味がある。今のアムルドさんには、色々と言うより、こう言う方がいい気がするのだ。

 理屈ではなく、感情での言葉。それが、今のアムルドさんには一番効果があるはずである。


「……ありがとうございます」


 私の言葉に、アムルドさんは笑顔で一言そう返してきた。

 その笑顔を見て、すぐにわかった。アムルドさんは、もう大丈夫なのだと。


「……ミナコさんは、本当に温かい人ですね」

「え?」


 そこで、アムルドさんはおかしなことを言ってきた。

 私が、温かい人。それは、一体どこから出た話なのだろうか。


「それは、どういうことですか?」

「あなたの傍にいると、なんだか心が温かくなるのです。ラナリアもそう言っていました」

「ラナリアちゃんも……」


 どうやら、私が傍にいると温かい気持になれるらしい。

 それはいいことである。そのため、喜んでいいのかもしれない。


「あなたのような人が、傍にいてくれると助かります。これからも、僕の傍にいてもらえますか?」

「え? ああ、はい」


 アムルドさんの言葉に、私はゆっくりと頷いた。

 この言葉に、どのような意味があるかはわからない。

 ただ、何故かとてもドキドキする。アムルドさんの雰囲気が、まるで告白するかのようだったからだ。


「クゥン?」

「あ、ロコ、大丈夫……」


 私を心配したのか、腕の中のロコが顔を舐めてきた。

 ロコは、私の腕の中にいるため、緊張は直で伝わっていたはずである。そのため、このように心配してくれたのだろう。


「それでは、僕はそろそろ行きます。ミナコさんも、部屋に戻ってゆっくりと休んでください」

「あ、はい……」


 それだけ言って、アムルドさんは部屋を出て行ってしまった。

 こうして、私達の会話は終わるのだった。

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