第31話 部屋に入ってくる者
私とロコは、自室で待機していた。
今日は、侯爵家のソンバイン・ウェーデンさんがこの屋敷に来ている。
そのため、私は部屋で待機するように言われていたのだ。
そんな中、ロコが部屋の外から誰か来たことを察知した。恐らく、ソンバインさんの手の者が来たのだろう。
とりあえず、私は窓を開けながらそれに構えていた。
この状態なら、犯人が部屋に入って来たらすぐに逃げられる。しかも、犯行の現場も抑えられるはずだ。
犯行をしたという証拠を抑えて、私も逃げられる。それが一番いいパターンだ。
「フンッ……」
「うん? ロコ、どうかしたの?」
私がそんな風に構えていると、ロコが何かに反応した。
ロコの顔は、窓の外に向いている。だが、ロコは特に吠えたりしない。
ということは、窓の外にいるのは、私が気にしなくてもいい人だということだ。もしかしたら、見回っている人が近くを通ったのかもしれない。
「ふん!」
「あっ……」
その瞬間、私の部屋の戸が開かれた。
顔を隠した男が、無理やり戸を開けて、部屋の中に入ってきたのだ。
「え?」
しかし、私はそれ以外のことで驚いていた。
なぜなら、窓の外から大男が入ってきたからだ。
ただ、その人は私が知っている人だった。この場に来てくれるととても助かる人が、来てくれたのである。
「ブルーガさん!」
「嬢ちゃん、大丈夫か」
窓から入ってきたのは、ブルーガさんだった。
ブルーガさんは、そのまま顔を隠した男に突っ込んだ。
呆気にとられていたのか、男はブルーガさんの突進に対応できていなかった。
「ふん!」
「ぬぐっ!」
ブルーガさんは、男を押さえつけた。
その強靭な肉体による押さえつけは、男の行動を封じるのに充分なものである。
「さて、動くなよ……」
「ぬうっ……」
「だ、誰か!」
ブルーガさんが男を押さえつけたのを見て、私は窓の外に呼びかけた。
とりあえず、誰かを呼ぶべきだと思ったのだ。
私の呼びかけに、庭で見回っていた何人かがこちらに来てくれる。これで、ブルーガさん一人でなくなったので、より安全性が上がったはずだ。
「ブルーガさん、それにしてもどうしてこんなに早く来られたのですか?」
「うん? ああ、アムルド様に言われていたのさ。嬢ちゃんの部屋は、要注意だってな……だから、すぐに気づいた。窓が開いたから、何かあったのかとな」
そこで、私はブルーガさんに気になっていたことを問いかけた。
ブルーガさんが早く来たのは、アムルドさんに私の部屋に注意するように呼びかけていたからのようだ。
私の部屋の窓が開いて、何かあったと思って来てくれた。どうやら、窓を開けたのが、功を奏したようである。
「さて、こいつを捕まえられたのは中々でかいな……嬢ちゃんのおかげだ」
「い、いえ、別に私は特に何もしていませんよ」
「いや、お嬢ちゃんが窓を開けてくれたおかげだ」
ブルーガさんは、私のおかげだと言ってくれた。
しかし、別に私は何もしていない。
「もしそうなら、それはロコのおかげです。ロコが、気づいてくれましたから」
「ほう、そうか」
もし窓を開けたのが正しい選択なら、それはロコのおかげである。
ロコが犯人の接近に気づかなかったなら、私は窓を開けなかった。だから、私のおかげではないのである。
こうして、ロコやブルーガさんのおかげで、犯人を捕まえることができたのだった。
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