第30話 不審な気配

 私とロコは、自室で待機していた。

 今日は、侯爵家のソンバイン・ウェーデンさんがこの屋敷に来ている。

 そのため、私は部屋で待機するように言われているのだ。

 なぜなら、ソンバインさんがロコを狙っている可能性があるからである。ソンバインさんは、悪い噂が絶えない人で、そういうことをやりかねない人であるらしいのだ。


「どうなっているんだろうね……」

「クゥン……」


 私は、ベッドの上でロコを撫でながらそのような言葉を呟いた。

 アムルドさんやラナリアちゃんは、ソンバインさんと話しているはずだ。

 私に、その内容はまったくわからない。だが、ロコを狙うかもしれない人が何を話しているのかは、かなり気になるものである。


「ウウッ……」

「うん? ロコ、どうかしたの?」


 そこで、突然ロコが唸った。明らかに何者かを警戒している声だ。

 体勢を正してから、私は周囲を警戒する。

 窓の外に、特に誰もいない。だが、ここから見えないだけで誰かいるのかもしれない。


「ウウッ……」

「あれ? こっち?」


 そう思った私だが、ロコの顔が向いているのは、窓ではなかった。

 ロコが唸ったのは、部屋の戸の方だった。反射的に外に誰かいるかと思ったが、そうではないようだ。

 考えてみれば、庭の見回りはまだ続行されている。そんな中で、庭に不審者が入れる訳がない。

 だが、家の中に不審者がいるという状況もあまりないことではある。そんな不審な人物は、家に入れる訳がないからだ。


「やっぱり、ソンバインさんの関係の人……」


 この状況で、私が思いついたのは、そのようなことだった。

 ソンバインさんの関係の人が、私の元に来た。そのように思えるのだ。


「ど、どうしよう……」


 私は、かなり焦っていた。

 そのような人が来たとしたら、どうすればいいのだろうか。

 とりあえず、戸を開けてはいけないだろう。中に入って来られると、色々と大変なことになるはずである。

 しかし、相手が不審者なら遅かれ早かれ戸が開けられるだろう。そのため、じっとしている訳にもいかないのだ。


「窓から逃げればいいか……」

「クゥン?」


 私は、ロコを抱えて窓の方に行った。

 窓から出れば、庭に繋がる。庭まで逃げれば、見回りの人がいるはずなので、なんとかなるはずだ。


「あ、でも……」


 だが、私はそこで動きを止めることになった。

 よく考えてみれば、私がここで逃げてしまえば、犯人を証明することができなくなる気がする。

 ここで、私が逃げてしまえば、犯人は何もせずに立ち去るだろう。それでは、その犯人を捕まえることができず、黒幕を捕まえることもできなくなるはずだ。

 そうなると、根本的な解決にはならない。なんとかして、犯人の犯行を証明しなければならないのだ。


「ここで待ち構えて、犯人が入ってきたら、人を呼ぶ……そういう流れでいいのかな?」

「クゥン……」


 私が出した結論は、そのようなものだった。

 その流れなら、犯人を確実に捕まえられるはずである。

 問題は、私が犯人に最速で捕まる可能性があることだ。相手も、それなりの手際であるはずなので、その可能性もない訳ではない。

 とりあえず、窓は開けておいた方がいいだろう。叫ぶにしても、逃げるにしてもその方が色々と都合がいいはずだ。

 幸運だったのは、ロコが早くに不審者を見つけてくれたことだろう。そのため、私は準備できるのだ。

 こうして、私は部屋で不審者を待ち構えることにするのだった。

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