第29話 新たなる訪問者

 私とロコは、散歩を終えて家に帰って来ていた。

 今日は、アムルドさんの仕事を手伝うことになっている。そのため、私はアムルドさんの執務室に向かっているのだ。


「あら?」

「クゥン?」


 そんな私は、廊下で話している人達に気づいた。

 それは、アムルドさんとホーデインさんだ。


「それは、困ったな……」

「ええ……」


 二人は、なんだか難しい顔で話している。

 こういう光景は、前も見たことがある。

 恐らく、何か困ったことがあったのだろう。


「あの、少しいいですか?」

「あっ……」

「おや……」


 とりあえず、私は二人に話しかけてきた。

 すると、二人は少し驚いたような顔をする。


「どうかしたんですか? また困ったことでもあったんでしょうか?」

「……ええ、困ったことがあったのです」


 私の質問に、アムルドさんはそう返してきた。

 やはり、困ったことがあったようだ。

 なんというか、困ったことばかりである。貴族だから、色々と困ったことが多いのだろうか。


「実は、侯爵家のソンバイン・ウェーデン様がこの屋敷を訪問したいと言ってきたのです」

「それが、困ったことなのですか?」

「ええ、困ったことなのです」


 どうやら、困ったこととは侯爵家の人間が訪問したいと言ってきていることのようだ。

 しかし、それが何故困ったことなのかわからない。

 確かに、誰かが訪問してくると忙しくなるだろう。だが、そこまで困ったことではないはずである。

 ラナリアちゃんのように、突然訪問してくるならまだしも、今回は訪問したいと言ってきているだけだ。準備もできるため、そんなに問題ないのではないだろうか。


「ソンバイン様は、あまりいい噂を聞かない人なのです。だからといって、無下にできるような地位の人物ではありません。だから、困っているのです」

「いい噂を聞かない……」


 私の疑問に対する答えは、アムルドさんの口から出てきた。

 ソンバインさんという人は、あまりいい噂を聞かない人であるようだ。

 それは、確かに困ったことかもしれない。そういう人物の相手は、中々難しそうである。


「今回の訪問も、何も意図がないとは思えません。恐らく、何か考えているのでしょうね……」

「意図ですか? でも、公爵家に手を出すなんて、色々と危ないんじゃないですか?」

「ええ、ですが、あちらも侯爵家です。こちらの方が地位が上でも、相手するのは少々難しい相手です」


 例え、アムルドさんの方が地位が上でも、ソンバインさんは何かしてくるようだ。

 どうやら、相手はかなり厄介な人であるらしい。これは、アムルドさんが頭を抱えても仕方ないだろう。


「特に、今回、僕はミナコさんとロコが危ないのではないかと思っているのです」

「え? 私達ですか?」


 そこで、アムルドさんは驚くべきことを言ってきた。

 私とロコが危ない。それは一体、どういうことなのだろうか。


「ソンバインが、犬の噂を聞いて、こちらに訪ねて来たいと言っているのではないかと思っているのです。犬は希少な生物です。それをソンバインが求めていても、おかしくはありません」

「そ、そういうことですか……」


 アムルドさんの言葉で、私は理解した。

 この世界では、犬は希少な生物だ。そのため、ソンバインが求めていてもおかしくはないのである。

 それは、中々怖いものだ。ロコが連れ去られるなど、私は絶対に嫌である。


「もちろん、それが僕の杞憂かもしれません。ですが、注意しておくべきことだと思います」

「わ、わかりました……」


 どうやら、私もソンバインさんには注意した方がいいようだ。

 こうして私は、この屋敷にソンバインさんという人物が訪問することを知るのだった。

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