第15話 散歩に出かけて

 私とロコは、散歩をするために屋敷の外に出てきていた。

 この散歩には、護衛が一人ついている。それは、私もロコモ会ったことがある人だ。


「それじゃあ、よろしくお願いしますね、ブルーガさん」

「ああ、任せておけ」


 私達の護衛についてくれるのは、ブルーガさんだった。

 ブルーガさんは、アムルドさんの馬車の御者をしていた人である。

 しかし、ブルーガさんの本業は護衛であるらしい。あの時も、アムルドさんの護衛として同行していたようだ。


「……少し、待たせてしまいましたね」

「あ、アムルドさん。大丈夫です、私達も出てきたばかりですから」

「ワン」

「そうですか……」


 そこで、屋敷の中からアムルドさんがやって来た。

 アムルドさんも、この散歩に同行することになったのである。

 散歩は、犬の健康にもいいが、人間の健康にもいい。そのため、アムルドさんも参加することにしたようだ。


「あ、ブルーガ、今日もよろしく頼むよ」

「ええ、お任せください、アムルド様」


 アムルドさんは、ブルーガさんに親しそうに挨拶した。

 その様子は、ただの主人と護衛という関係以上のもののように見える。

 そんな二人の関係が、私は少し気になった。せっかくだから、聞いてみることにしよう。


「ブルーガさんとアムルドさんは、かなり親しそうですね」

「え? ああ、そうですね」


 私の言葉に、アムルドさんはそう答えてくれた。

 やはり、二人は親しい間柄らしい。


「ブルーガとは、かなり長い付き合いなのです。僕が子供の頃から、彼にはお世話になっていますからね」

「そうなんですね……」


 どうやら、二人はアムルドさんが子供の頃からの付き合いらしい。

 それなら、これ程まで親しいのも納得できる。昔からついてくれていた護衛だ。アムルドさんもかなり信頼していることだろう。


「ブルーガは、僕が一番信頼している護衛です。彼がいれば、安心して行動できるというものです」

「なるほど……」


 ブルーガさんは、アムルドさんが最も信頼している護衛らしい。

 その言葉に、ブルーガさんは少し気まずそうな笑顔を浮かべる。


「アムルド様、そう言われると少し照れてしまいます。俺は、別にそこまで特別なことはしていませんよ」

「そんなことはない。ブルーガはよくやってくれている」

「まったく、あなたはいつもそう言うことを平気な顔で言う……」


 ブルーガさんは、アムルドさんの言葉に照れていたようだ。

 確かに、アムルドさんは中々直球なことを言っていた。それに照れるのも、仕方ないことかもしれない。


「ワン! ワン!」

「あ、ごめん、ロコ」


 そこで、ロコが吠え始めた。

 どうやら、中々歩き始めようとしない私達に痺れを切らしたようだ。

 確かに、いつまでもここで話していてはいけない。歩きながらでも、話はできるのだ。早く歩き始めた方がいいだろう。


「そろそろ出発しましょう。ロコが痺れを切らしてしまいました」

「あ、そうなのですね。それなら、出発しましょうか」


 私の言葉に、アムルドさんも頷いた。

 こうして、私達は散歩を始めるのだった。




◇◇◇




 私は、アムルドさんとブルーガさんとともに、ロコの散歩をしていた。

 屋敷の庭はかなり広いため、散歩のコースとしてはかなりいい。


「本当に、広い庭ですね……」

「ええ、無駄に広いと思っていましたが、このように役に立てば、広いかいがあったというものです」


 私の言葉に、アムルドさんはそう返してきた。

 どうやら、アムルドさんはこの庭を無駄に広いと思っていたようだ。

 確かに、これだけ広ければ無駄に思うこともあるかもしれない。だが、少し辛辣な言葉である気もする。


「アムルド様、あまりそのようなことを言ってはいけませんよ。ここの庭が広いのは、シェルドラーン家の威光を表す上で重要なことなのですから……」

「威光か……だが、権威を示すのに、庭が広くてもそこまで効果があるのだろうか?」

「狭いよりはいいでしょう」

「まあ、そうかもしれないな……」


 アムルドさんの言葉に、ブルーガさんが少しだけ注意をした。

 その言葉に、アムルドさんはとりあえず納得したようだ。

 その会話に、私は少し違和感を覚えた。なんだか、アムルドさんがいつもと少しだけ違うのだ。


「アムルド様、今のような言葉を他者がいる時に言ってはいけませんよ」

「わかっているさ。ここでしか話さない」


 だんだんと、私はアムルドさんへの違和感の正体がわかってきた。

 アムルドさんは、いつもより少し子供っぽいのだ。

 それは、ブルーガさんという気心が知れた人がいるからだろう。彼がいる時だけ、アムルドさんは少し子供っぽくなれるのだ。

 初めて会った時は、外だったからそうではなかったのだろうか。とにかく、いつもと少し違うアムルドさんが見えて、なんだか少し面白い。

 そんなことを話しながら、私達は散歩を続けるのだった。

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