第7話 見抜かれていたこと

 私と愛犬のロコは、神様の計らいで異世界に転生していた。

 そこで、私達はシェルドラーンという公爵家の人間であるアムルドさんとその使用人であるブルーガさんと出会ったのだ。

 私がいたのがシェルドラーン家の領地であり、咄嗟に記憶喪失と言ったこともあって、私はそのシェルドラーン家によって保護されることになったのである。


「さて、こちらがシェルドラーン家の屋敷です」

「こ、ここが……」

「クゥン……」


 私達は、馬車でシェルドラーン家の屋敷まで来ていた。

 その屋敷は、かなり大きい屋敷だ。やはり、公爵というのはすごい地位なのだろう。


「といっても、ここは屋敷の一つでしかありません。本家は別の所にあります」

「そ、そうなのですね……」


 そう思っていた私に、アムルドさんはそう言ってきた。

 どうやらここは、別邸でしかないようだ。つまり、本家はここよりも大きいということだろうか。

 なんだか、シェルドラーン家は私が思っている以上に大きい家であるようだ。そんな家に保護される私は、かなり幸福なのかもしれない。


「中に入りましょうか」

「あ、はい……」


 アムルドさんの後ろをついて行き、私は屋敷の中に入っていく。

 中に入ってすぐに目に入ったのは、使用人らしき存在だ。メイドや執事だと思われる人々が、待ち構えていたのである。

 その存在にも驚いたが、使用人らしき人達がまったく動じていないことも驚きだ。私というよくわからない存在に、まったく動揺していないのである。


「お帰りなさいませ、アムルド様」

「ただいま、ホーデイン。実は、帰り道でこちらの女性と犬を保護したのだ。どうやら、記憶喪失らしくてね」

「なるほど、そういうことでしたか」


 そこで、老齢の執事らしき人がアムルドさんに話しかけた。

 その会話で、アムルド様は初めて私のことを口にした。ホーデインさんは、その言葉で色々と納得しているようだ。


「しばらく、ここで保護しようと思う。だから、部屋の準備を頼む」

「はい、わかりました」


 アムルドさんは、端的にホーデインさんに指示を出した。

 どうやら、私の部屋を準備してもらえるようだ。


「さて、部屋の準備までしばらく時間がかかりますね……その間、少し話でもしておきましょうか」

「あ、はい……」


 色々とすごいことが起こって驚いていた私に、アムルドさんはそのように言ってきた。

 部屋の準備ができるまで少し時間がかかるため、しばらく話をするようだ。私としても、まだ色々と話を聞いておきたいので、それを断る理由はなかった。




◇◇◇




 私とロコは、アムルドさんに客間らしき部屋に通されていた。


「さて、実はあなたに聞きたいことがあるのです」

「はい? なんでしょうか?」


 向かい合って座りながら、アムルドさんはそう言ってきた。

 どうやら、私に聞きたいことがあるようだ。

 私に答えられることなら、できるだけ答えたいと思う。ただ、私は記憶喪失という設定であるため、過去のことを聞かれたら誤魔化すしかない。


「あなたが記憶喪失というのは、嘘ですよね?」

「え?」


 そんなことを思っていた私に、アムルドさんはそう言ってきた。

 その言葉は、驚くべきことである。私の記憶喪失が嘘、それをアムルドさんは見抜いていたのだ。


「ど、どうして、わかったんですか?」

「ああ、やはり嘘だったのですね」

「え?」


 私の言葉に、アムルドさんは少し笑った。

 その笑みで、私は理解する。私は、かまをかけられたのだ。


「かまをかけたんですね?」

「ええ、あなたの記憶喪失が少し不自然だったので、かまをかけさせてもらいました」

「なるほど、私はまんまと引っかかってしまったという訳ですか……」


 どうやら、アムルドさんは私の記憶喪失が不自然なことに疑問を覚えていたらしい。

 それは、当然のことである。あのような都合がいい記憶喪失では、そう思われても不思議ではない。

 それで、私にかまをかけてみたようだ。私は、まんまと引っかかってしまったという訳である。

 なんというか、色々と恥ずかしい。あのような嘘をついたことも、かまに引っかかってしまったことも、とても見っともない気分だ。


「アムルドさん、嘘をついて申し訳ありませんでした」

「いえ、問題ありませんよ」


 とりあえず、私は嘘をついていたことを謝罪した。

 事情があったとはいえ、嘘をついたのは悪いことだ。それは、きちんと謝っておかなければならない。


「それで、あなたが何者なのか、改めて聞かせてもらえますか?」

「そうですね……」


 そして、見抜かれたからには、本当のことを話さなければならないだろう。

 だが、これが信じてもらえるのだろうか。もしかしたら、記憶喪失よりも信じられないような話かもしれない。

 しかし、ここまで来て話さないという選択肢はない。信じてもらえなくても、言ってみるしかないのだ。


「とても、不思議な話で信じてもらえるかわかりませんが、私は別の世界からやって来たんです」

「別の世界?」


 私の言葉に、アムルドさんは少し表情を変えた。

 やはり、この話は信じてもらえないかもしれない。

 そんなことを思いながら、私は説明を続けるのだった。

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