第2話 その時の行動

 私はトラックに轢かれてしまった。

 その後、私とロコは真っ白な部屋で、神様を名乗る人と出会ったのだ。


「さて、何から話そうか……」

「はい……」


 私とロコは、神様と向かい合って座っていた。

 その座っている椅子も、神様が突然生み出したものである。

 どうやら、神様は好きなものをここに呼び出すことができるようだ。


「ふむ、まずは事実の確認をしようか?」

「事実の確認ですか?」

「ああ、覚えているとは思うが、君はトラックに轢かれて死んでしまった」

「あっ……」


 そこで、神様はそのようなことを言ってきた。

 私が、トラックに轢かれてしまった。それは、わかっていたことである。

 死んでしまったという事実は、とても残念だ。しかし、意識がはっきりしているからか、その実感はまったく湧いていない。

 もしかしたら、これから実感することになるのかもしれないが、今はとりあえず気にしないことにしよう。


「わしは、その様子をずっと見ていた。そして、その時の君達の行動を見て、ここに呼び出したということだ」

「私達の行動? それは一体なんなのですか?」

「ふむ、それを話したい所だが、まずはここの説明をさせてもらおうか」

「あ、はい。それも気になっていたことです」


 どうやら、神様はあの時の私やロコの行動を見て、ここに呼んだらしい。別に特別なことをした覚えはないのだが、一体どういうことなのだろうか。

 その疑問はあったが、神様は先にこの空間のことを話すつもりのようだ。そちらも気になっていたことである。そのため、そちらから話されても、まったく問題はない。


「この空間は、この世とあの世の狭間だ」

「この世とあの世の狭間?」

「うむ、わしが話したいと思った者と対話するために作り出した空間なのだ」

「な、なるほど……」


 この空間に対する神様の説明は、そのようなものだった。

 要するに、ここは神様が話すための空間であるようだ。よくわからないが、そういう空間なのだと理解しておくことにしよう。


「さて、話を戻そうか。わしが、君達をここに呼び出したのは、君達の素晴らしい愛に感動したからなのだ」

「素晴らしい愛?」


 そこで神様は、話を戻してきた。

 神様が私達を呼び出したのは、私達の愛に感動したからしい。

 確かに、私はロコを愛しているし、ロコも私を愛してくれているとは思う。

 だが、それは飼い主と飼い犬の一般的な関係であるはずだ。それに、神様が感動するのならば、ペットを飼っている者は大体呼び出されなければならなないだろう。


「神様、私達の愛に何か特別なことがあるのでしょうか? こう言ってはなんですが、私とロコはとても一般的な関係だと思いますが……」

「ふむ、だが、君がトラックに轢かれる前にとった行動は、中々できることではない」


 私の疑問に、神様はそのように返してきた。

 その返答に、私は少し考える。私は、トラックに轢かれる前に何をしたのだろうか。


「えっと……もしかして、リードを離したことですか?」

「その通り、あの行動は愛犬を思ってできる最善の行動だった。自身の危機に、愛犬を優先する愛、わしはそれに感動した」


 どうやら、神様は私がリードを離したことに感動していたらしい。

 あの行動は、咄嗟にとった行動だった。ロコが助かるならと思ってとった行動である。

 その行動が、神様を感動させるものだったとは驚きだ。私としては、そこまで特別な行動とは思わなかったが、神様がそう言っているのだからそうなのだろう。


「そのおかげもあって、その犬は命が助かったのだ。君の行動は、最適だったといえる」

「え?」


 次に神様が言ってきたことに、私は驚いた。

 神様は、その犬は命が助かったと言った。それはつまり、ロコは死んでいないということだろうか。


「ほ、本当ですか!? ロコは、生きているんですか!?」

「ああ、生きている」


 私の質問に、神様ははっきりと答えてくれた。

 私は、自身の膝の上でくつろいでいるロコを見る。ここにいるロコは、確かにロコだ。それに間違いはない。

 そのロコは、生きているのだ。それは、私にとってとても嬉しい知らせである。

 だが、少し気になることもあった。生きているなら、ロコはどうしてこちらにいるのだろうか。


「でも、ロコはどうしてこちらに? 生きていても、ここに来られるのですか?」

「ああ、ここはこの世とあの世の狭間と言っただろう? つまり、生きている君の愛犬も来られるのだ」

「なるほど、そういうことだったのですね……」


 神様の言葉に、私は理解することができた。

 ここは、この世とあの世の狭間だ。つまり、あの世にいるはずの私も、この世にいるはずのロコも、ここに来られるのである。


「ただ、その犬はこの世と呼ばれる世界に、留まるつもりはないらしいのだがな……」

「え?」


 そこで、神様は驚くべきことを言ってきた。

 ロコが、この世に留まるつもりはないと思っている。それは、一体どういうことなのだろうか。

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