第3話 特別な贈り物

 私はトラックに轢かれてしまった。

 その後、私とロコは真っ白な部屋で、神様を名乗る人と出会ったのだ。

 神様は、私がトラックに轢かれる前に、ロコのリードを離したことでここに呼んだらしい。そして、そのことでロコの命は助かったようなのだ。

 しかし、ロコはこの世に留まるつもりがないらしい。それは、私にとってとても大きな問題である。


「神様、ロコがこの世に留まるつもりがないとは、どういうことですか?」

「現在、君の愛犬は一命を取り留めている状態だ。その状態で、君の愛犬はどちらでも進める状態なのだ」

「どちらでも進める状態……」


 どうやら、ロコはかなり難しい状態であるらしい。

 どちらにも進める状態、それがロコの状態だ。恐らく、ロコは自ら死ぬことを選ぼうとしているのだろう。

 しかし、その理由がわからない。わざわざ、死ぬことを選ぶ必要などないはずである。


「ロコは、どうしてそんなことを……?」

「それは、君のためだ」

「私のため?」


 私の質問に、神様はそのように答えてくれた。

 ロコが現世に留まろうとしないのは、私のためであるようだ。


「それは、どういうことでしょうか?」

「その子は、君がいない世界に留まるつもりはないらしい。生きながらえるより、飼い主とともに死ぬことを選択したいというのだ」

「え?」


 神様の言葉に、私は驚いた。

 ロコは、生きながらえるよりも、私とともに死ぬことを選びたいらしい。


「ロコ……」

「クゥン……」


 私は膝の上に座っているロコの頭をゆっくりと撫でる。

 ロコの気持ちは、嬉しいものだ。だが、私としてはロコを死なせたくないと思ってしまう。

 例え私が死んでも、きっとロコは幸せになれるはずだ。私の両親もロコなら引き取ってくれるだろうし、きっと大丈夫なはずである。


「ロコ、私のことはいいんだよ? あなただけでも生きてくれれば……」

「ウゥ……!」

「ロコ……」


 そう思って口にした私の言葉に、ロコは唸って返してきた。

 その唸りは、私に対する反論ということだろう。


「その子は、覚悟を決めている。最早、何を言っても無駄だ。君について行くと決めている」

「そうなんですね……」

「ワン!」


 どうやら、ロコは覚悟を決めているらしい。

 それ程までに、私を思ってくれているのだろう。

 そのことが、私は嬉しかった。ここまで思われているなら、私もその思いに応えるべきなのだろう。


「わかった。それなら、私と一緒にいこうか、ロコ」

「ワン!」


 私の言葉に、ロコは大きく返事をしてくれた。

 やはり、ロコは私と一緒にいきたいらしい。それなら、ついて来てもらうとしよう。


「ふむ、やはり君達は素晴らしい」

「あ、はい……」


 私達のことを、神様はそのように褒めてくれた。

 神様は、私達がお互いに思い合っていたことに感動しているようだ。

 きっと、それは誇っていいことなのだろう。神様に直々に呼び出されたのだ。それくらいしてもいいはずである。


「さて、そんな君達にわしは特別な贈り物をしよう」

「贈り物ですか?」

「ああ、きっと君達にとっても悪くないものだと思うぞ?」


 そこで、神様はそのようなことを言い出した。

 どうやら、私達に何か贈り物があるようだ。


「実は、君達には新たな生を歩んでもらいたいのだ」

「新たな生ですか?」

「うむ、今の記憶を引き継いだまま、新たな世界に行ってもらいたいのだ」

「な、なるほど……」


 神様からの贈り物は、新たなる生であるらしい。

 しかも、今の記憶を引き継いで行くようだ。よくわからないが、それは特別なことなのだろう。

 それなら、受け取っておいた方がいいのかもしれない。要するに、生き返れるということなのだから、別に悪いことではないだろう。

 しかし、一つだけ問題がある。それは、神様が言った別の世界という言葉だ。


「あの、神様、新しい世界とは一体なんなのですか?」

「うん? ああ、新しい世界とは君が元いた世界とは異なる世界だ」

「異なる世界?」

「君を元の世界に転生させてもいいのだが、それには少し不都合がある。そのため、別の世界に行ってもらう」

「そうなんですね……」


 私は、元の世界とは別の世界に行かなければならないらしい。

 その理由はよくわからないが、色々と不都合なのだろう。

 そのことは少し残念だが、仕方ないことだ。生き返れるだけでもありがたいのだから、贅沢を言うことはできない。

 それに、ロコもいるのだから、寂しさもそこまでではないだろう。なんとかやっていけるはずだ。


「さて、それでは話している時間も惜しい。君達を新たなる世界に転生させるとしよう」

「え? あ、はい……」


 私がそんなことを考えていると、神様は手を天に掲げた。

 すると、その手から光が放たれた。

 私とロコは、その光に包まれていく。どうやら、私達は別の世界に行くようだ。

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